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災厄のスライムが世界を敵に回したら  作者: 弐戸 参度


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55:国境砦

55:国境砦


 前回の聖戦で占領した、国境の砦周辺に帝国軍は集結しつつあった。

 砦の上空には、新造された三番艦”ノクス・ドミナス”、四番艦”イグニス・レガリア”が係留されている。

 眼下には帝国兵団、聖堂騎士団、オルガナ陸戦団が、夜営の準備を始めている。

 二、三日の内に、レーヴェン白狼騎士団、グランツ歩兵団、ルミナス傭兵団、アルシア陸兵隊も合流するはずだ。

 砦に簡易的に設けられた会議室には、レオニダス大将軍、カイゼル騎士団長、ロドリゴ将軍、紅蓮の勇者が集まっていた。

「前回の教訓を生かし、全軍合流後に北進する。飛空船は先行させずに後方からの支援を主務とする。最前線にはルミナスの傭兵どもを押し立てよう。敵前逃亡させない様に、その背後をグランツの"山猿”に見張らせればよい」

 作戦図の上に自軍を示す駒を配置しつつ、レオニダスが説明する。

「敵軍との接敵予想地点は、この平原だ……前線で敵の突撃を受け止め、レーヴェンの"痩せ狼”に喰らいつかせる」

 レオニダスが敵軍の駒に、自軍の駒をぶつけて、倒して見せる。

「魔王級の魔物には勇者殿に対応頂きます。もちろん聖堂騎士団が補佐させて頂く。」

 紅蓮の勇者は小さく首肯するも、紅い外套のフードを深くかぶり、その表情は伺えない。

 レオニダス大将軍の説明が終わると、会議室にはしばし沈黙が落ちた。

 壁に掛けられた魔導灯が、作戦図の上に淡い光を落としている。

 ロドリゴ将軍が腕を組み、低く唸った。

「……最前線にルミナスの傭兵団、か。奴らは金で動きます。帝国のために命を張るとは思えませんが?」

 レオニダスは鼻で笑った。

「だからこそ、使い潰すのだ。逃げれば“山猿”どもが背後から叩く。逃げ道を塞げば、奴らも戦うしかあるまい」

 ロドリゴは苦笑した。

「流石です、レオニダス閣下。実に……合理的ですな」

(いざとなれば我ら、オルガナ陸戦団も捨て駒にされるのだろうな……)

 カイゼル・ドレイクハルト聖堂騎士団長が、祈りの印を結びながら口を開いた。

「魔族どもは神敵。傭兵がどう動こうと、我ら聖堂騎士団が殲滅すればよい。神は我らに勝利を与えたもう」

 その言葉に、レオニダスはわずかに眉をひそめた。

「……勝利は神ではなく、兵の力で得るものだ。勘違いするなよ、カイゼル団長」

 カイゼルは微笑んだまま、しかし瞳だけが冷たく光った。

「兵もまた、神の御手の一部に過ぎません」

 二人の間に、一瞬だけ火花が散った。


 * * *


 会議室の窓からは、砦の上空に係留された二隻の巨影が見えた。

 帝国が誇る二隻の新造艦、三番艦ノクス・ドミナス四番艦イグニス・レガリア

 黒鉄の船体に蒼い魔導光が走るノクス・ドミナスは、夜の闇を切り裂く“影の刃”のよう。

 対して、紅蓮の紋章を刻んだイグニス・レガリアは、炎の化身のように空を照らしていた。

 ロドリゴが窓の外を見上げた。

「……新造艦が二隻も揃うとはな。帝国も本気というわけだ」

 レオニダスは頷いた。

「第一次聖戦で失われた一番艦と三番艦の穴を埋めるため、帝国は莫大な資金を投じた。この戦いで、必ず回収せねばならん」

 カイゼルが静かに言った。

「神の御心により、勝利は約束されています。帝国は栄え、魔族は滅ぶでしょう」

 紅蓮の勇者は無言のままで、会議に参加するつもりはないようだ。

 レオニダスは作戦図を指で叩いた。

「勝利は“約束”ではない。奪い取るものだ」

 そこへ、砦の外から伝令が駆け込んできた。

「し、失礼します!レオニダス大将軍、急報です!」

 レオニダスが顔を上げる。

「何だ?」

 伝令は息を切らしながら報告した。

「レーヴェンより……“白狼騎士団の到着が遅れている”との連絡が……!」

 会議室の空気が一変した。

 ロドリゴが眉をひそめる。

「遅れている?何故だ?……レーヴェンが、帝国の命令を無視したというのか?」

 カイゼルの瞳が細くなる。

「神の御業に背くとは……レーヴェン王は、何を考えている?」

 レオニダスは作戦図を睨みつけた。

「……どいつもこいつも、勝手な真似を」

 そして、低く、しかし確実に怒りを滲ませて言った。

「レーヴェンの"痩せ狼"め、到着したら、そのケツを蹴り上げてやる!我らだけでも北方は制圧できる。魔族を叩き潰し、自らの怠慢を後悔させてやるわっ!」

 カイゼルが祈りの印を結んだ。

「神の名のもとに、背信者には裁きを」

 ロドリゴは不安を払拭するように、深く息を吐いた。

 砦の外では、帝国兵団が夜営の準備を進めていた。

 空には二隻の飛空船が静かに浮かび、その魔導光が砦の石壁を照らしている。

 レオニダスは作戦図を閉じ、静かに言った。

「――全軍、休みつつ準備を整えよ。レーヴェンの到着を待ち、北進を開始する」

 その声は、帝国の“聖戦”の始まりを告げる鐘のように響いた。


 * * *


 翌日にはルミナス傭兵団が、その翌日にはグランツ歩兵団とアルシア陸兵隊が合流したが、レーヴェン白狼騎士団が到着したのは、そこからさらに三日後のことであった。

「どういうことだ?ルキウスっ!言い訳があるなら、申し開きしてみせよっ!」

 怒りで顔を真っ赤にするレオニダス。

「いやあ。申し訳ございません。どうにも馬の機嫌が悪くて……いくら鞭をくれても、進んでくれませんで」

 レーヴェンのルキウス将軍が飄々と答える。横に立つ白銀の勇者ミリアは、知らぬ顔をしている。

「貴様っ!この戦が終わった時に、覚悟をしておけよっ!」

「まあまあ。レオニダス殿。これから大戦が控えておるのに、その様に申されては、上手くいくものも上手く行きますまい」

 怒りの収まらないレオニダスに、グランツ将軍バルドランが取りなした。

 改めて各将軍に、今回の作戦が告げられた。

「我らだけで前線を担当せよとは、余りに不公平。これでは我らだけが損耗するではないか。アストリアとオルガナからも兵をだしてもらいたい!」

 ルミナスのセルジオ将軍が抗議する。

「一番槍は戦の花。それを貴国にお譲りするのだ。文句はあるまい」

 オルガナのロドリゴ将軍が諌めると、

「ならば、その栄誉は貴国にお譲りしよう」

 とセルジオ将軍が言い返す。

「これは決定事項だ。変更はない」

 レオニダス大将軍が、割って入り、厳格に言い渡した。

 こうして第二次聖戦は、計画より二日遅れで動き出した。

 

 

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