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災厄のスライムが世界を敵に回したら  作者: 弐戸 参度


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53:宣戦

53:宣戦


 アストリア帝国の中心にそびえる皇城、蒼天宮。

 その大広間は、各国から集められた軍人、勇者、聖騎士、そして従者たちで埋め尽くされていた。

 天井は蒼い魔導光で照らされ、壁には帝国の紋章と聖教会の聖印が並ぶ。

 空気は張り詰め、誰もが息を潜めて皇帝の登壇を待っていた。

 登壇に立つのは、アストリア帝国皇帝アウレリウス三世。

 その横には、金糸の刺繍が施された白銀の法衣を纏う聖教皇アウグスト。

 二人の瞳は光を宿しているようでいて、どこか底知れぬ冷たさを帯びていた。

「――集いし英雄たちよ」

 その声が響いた瞬間、大広間の空気が震えた。

「五年前、我らは大魔王を討った。だが魔族は再び蠢き、新たな魔王は人間界への侵攻を企てている――」

 ざわめきが広がる。

 勇者たちの視線が皇帝に集中する。

「各地で蝗害が広がり、土地が汚染されている。また魔物どもが凶暴化しているとも聞く。これらは魔族どもの我らに対する揺さぶりである」

 アウレリウスの声は、まるで“答えを与える”ように響いた。

「神に愛されし種族である我ら人間が、魔族どもに鉄槌を下す時が来たのだ」

 聖教皇アウグストが一歩前に出る。

 その声は祈りのようであり、呪いのようでもあった。

「――神は言われた。『闇を討て、光を掲げよ』と。魔族は神敵であり、人の世を脅かす災厄。ゆえに、これは“聖戦”である」

 大広間の空気が震えた。

 皇帝は高らかに宣言した。

「此度の戦いは、第一次聖戦を超える総力戦となるであろう。人間族のすべての力を結集し、魔族を根絶する!」

「おおおおおおおお!!!」

 大広間が揺れた。

 だが、熱い視線を送るのは帝国軍属の者ばかりで、いくつもの視線が沈黙していた。

 帝国宰相ヴァルムンド=レグナスが、書状を広げ、読み上げる。

「第一軍は、帝国飛空船団を中心に編成し、レオニダス=ヴァルク大将軍が率いる。第二軍は、オルガナ陸戦団を中心に編成し、ロドリゴ・ヴァルガス将軍に率いて頂く。第三軍は、レーヴェン白狼騎士団を中心に編成し、ルキウス・ファルマード将軍に率いて頂く。第四軍は、アレクト・ヴァルナス提督率いるアルシア海軍に輸送と兵站を担当頂く。第五軍は、グランツ歩兵団を中心に編成し、バルドラン・グレイハルト将軍に率いて頂く。第六軍は、ルミナス傭兵団を中心に編成し、セルジオ・マルヴェイン将軍が率い、陸路での兵站も担当頂く。第七軍は聖堂騎士団を カイゼル・ドレイクハルト団長が率いる。以上だ」

 読み上げが終わると同時に、大広間の空気がさらに重く沈んだ。


 * * *

 

 レオニダス大将軍は、無言で頷いた。

 その瞳はひっそりと紅く輝き、これからの戦争による動乱を見据えている。

 ロドリゴ将軍は、静かに拳を胸に当てた。

「必ずや前線を切り開いてみせる……我が国の有用性を帝国に主張出来ねば、我が国の未来はない……」

 ルキウス将軍は貧しさ故に自軍に負担を強いる事を憂いた。

 一方、アレクト提督は、わずかに眉をひそめた。

(……輸送と兵站だけ、か。属領アルシアは、完全に“後方”扱いだ)

 バルドラン将軍は、深く息を吐いた。

(……帝国の戦争に、我らの兵を差し出すのか。だが、拒めば国が潰される)

 セルジオ将軍は、帝国財務官の方をちらりと見て、薄く笑った。

(……これで私も、帝国の将軍だ)

 カイゼル団長は、聖印を結び、祈りを捧げ、うっとりと独り言ちた。

「魔族殲滅の時が来た」


 * * *


 帝国宰相ヴァルムンドは大広間を見渡し、ゆっくりと手を広げた。

「諸君。決行は四ヶ月後。これより我らは――第二次聖戦セカンド・クルセイド に臨む!勇者殿は、自国の軍に随行してもらいたい。」

 誰もが理解していた。

 これは“魔族との戦争”であると同時に、帝国が世界を支配するための戦争でもあるということを。


 * * *


 アビスフェルド――王都サルバードより、遠く離れた古城には、魔族の将たちが次々と集まっていた。

 新生・魔王軍――赤の災厄バルバロス、黒の災厄アバドンを筆頭に、ネクロスの呪詛の影響を受けて魔王軍を離反した者、自らの思惑で参加した者など様々な者たちで、古城の中庭は溢れていた。

「……思いの外、数が集まりませんな」

 黒豹頭の魔将オロが、尾を揺らしながら呟いた。

 彼はかつて獣王ガルドの副官だったが、己の野心から離反し、バルバロス側についた裏切り者である。

 アバドンが嘲るように答えた。

「オーガ族は参加しているが、元々個体数が少ない。だが……ゴブリン族が少ないのは予想外だな」

 バルバロスは、城壁に腰をかけながら笑った。

「数の不足は、殺戮蟻どもで補えるだろう。なあに、如何様にでも、やり様はある」

 その声は軽く、だがその背後にある“破壊の本能”は底知れなかった。

 オロが眉をひそめる。

「殺戮蟻は制御が難しい。あれは敵味方の区別すらつかぬ……」

「だから、いいのだ」

 バルバロスは笑い、牙を見せた。

「戦場が混乱すればするほど、死者は増える。混沌こそが、魔族の戦いだろうが?」

 アバドンは肩をすくめた。

「……お前の“混沌”に巻き込まれて死ぬのは御免だがな」

 中庭の隅では、下位魔族たちが唸り声を上げていた。

 目は血走り、牙を剥き、よだれを垂らし、同族に襲いかかる者もいる。

 アバドンが低く呟いた。

「ネクロスの呪詛が、ちょっと効きすぎてるんじゃ……このままでは軍が崩壊するぞ」

 バルバロスは鼻で笑った。

「呪詛に狂った奴らは、前線に投げればいい。どうせ死ぬなら、敵を巻き込んで死ねばいい」

 アバドンが鋭く睨む。

「……お前は本当に、軍というものを理解していないな」

 

 * * *


「静まれぃっ!」

 混乱する魔族を一喝する、黒い外套を纏い、蝗の頭部をもつ魔族の男。新生・魔王軍の旗頭――“黒の災厄”アバドン。

 その背後には、さらに巨大な影がゆっくりと姿を現した。

「……待たせたな」

 赤い鬣を揺らしながら、”赤の災厄”バルバロスが立ち上がる。

「さて、“新生・魔王軍”を名乗る準備はできてるか?」

 アバドンは静かに頷いた。

「帝国が第二次聖戦を宣言した。ならば我らも動く時だ」

 オロが問う。

「目的は……アビスフェルドの統一か?それとも帝国への侵攻か?」

 アバドンは薄く笑った。

「どちらもだ。人間族との共生なんぞ、魔族の言う言葉じゃねえ。人間族は魔族を滅ぼす気でいる。ならば――両方を叩くのみ」

 バルバロスが楽しげに笑う。

「いいねぇ。殺す相手が多いほど、戦は楽しい」

 アバドンが手を掲げると、中庭の魔族たちが一斉に膝をついた。

「――新生・魔王軍、出陣の準備を整えよ」

 バルバロスが吠える。

「殺戮の宴を始めようぜ!」

 オロは静かに目を閉じた。

(……獣王よ。あなたの“思想”が、この混沌に耐えられるか見せてもらおう)

 こうして、帝国連合軍の動きに呼応するように、第三の勢力――新生・魔王軍が動き始めた。


 * * *

 

 王都サルバードに聳える魔王城。

 現在は魔王ヒミカの力により、呪いの茨に覆われ、侵入者も寄せ付けないでいる。

 円卓の間の一番奥の席は、主を失い空席のままだ。

 今や魔族軍を取り仕切るのは四人の魔王。

 闇の勇者リュゼリア、悪魔王ヴェルゼ、獣王ガルド、魔王ヒミカ。

 そして魔王城の周囲には、下位魔族たちが唸り声を上げながらひしめいていた。

 ガルドは眉をひそめた。

「……ネクロスの野郎の呪いが、蔓延っているな」

 下位魔族たちは、かつて魔王ネクロスが撒き散らした“呪詛”の影響を受け、理性を失いかけていた。

 リュゼリアが腕を組み、低く唸った。

「こいつらを戦列に並べるのは危険だ。暴発すれば味方を食い散らすぞ」

 ヴェルゼは冷笑した。

「だが、捨て駒としては悪くないんじゃない?。人間どもを混乱させるには十分だろう?」

 リュゼリアは静かに首を振った。

「このままでは軍が崩壊する。呪いを抑える術を探さねばならないな」

 ガルドが肩をすくめた。

「ネクロスの残党どもが、”新生・魔王軍”を名乗って集まりつつある……。俺のところからも一部離反者が出ているぜ」

 ヴェルゼは薄く笑う。

「戦が始まってから裏切られるより、分り易くて良いよ。膿は出し切らないと」

「バル=サンガに伝えるか?」

「いや。ボクらだけでやろう」

 三人は頷き合った。

 

 * * *

 

 こうして――帝国連合軍の集結に呼応するように、魔族軍もまた動き始めた。

 第二次聖戦は、いよいよ本格的に幕を開ける。

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