表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
災厄のスライムが世界を敵に回したら  作者: 弐戸 参度


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

49/57

49:闇の勇者

49:闇の勇者


 ゴブリン王国の建国から十日後。

 ゲブのもとに、一通の“影”が届いた。

 黒い霧が揺らぎ、影将軍ザル=メルドの声が響く。

「魔王陛下が、貴様を“客人”として招く。拒否は許されぬ」

(……来たか。いずれ避けられないと思っていたが)

 ゼラは静かに頷いた。

「わかった。行こう」

 十七氏族の族長たちはざわめく。

「王よ、危険すぎる!」

「魔王は我らを滅ぼすつもりかもしれぬ!」

「罠だ、行くべきではない!」

 ゼラは手を上げ、静かに言った。

「俺が行く。これは“王”としての責務だ」

 誰も反論できなかった。


 * * *

 

 アビスフェルド北端、“虚無の裂け目”にそびえる黒い塔。

 魔王ネクロスの居城。

 ゼラは影将軍に導かれ、巨大な扉の前に立つ。

 扉が開くと、冷たい風が吹き抜けた。

 広大な玉座の間。

 天井は闇に溶け、壁には古代魔族の紋章。

 玉座には――白い瞳孔のない目を持つ老人、魔王ネクロス。

「……来たか、ゴブリン」

 その声は静かで、しかし世界を震わせるほどの威圧を帯びていた。

 ゼラは一歩進み、頭を下げた。

「招待に応じた。俺はゲブ。ゴブリンの王だ」

 ネクロスは微動だにせず、ゼラを見つめる。

「王、か。ゴブリンごときが、随分と大きく出たものだ」

 玉座の両脇に控える魔人の一人が嘲笑う。蝗の頭部をもった魔人だ。

 ゼラは表情を変えずに答えた。

「俺たちは人間を襲わない。魔族とも争うつもりはない。ただ、自分たちの国を作りたいだけだ」

 ネクロスの瞳が細められた。

「……それが“魔族の王”に対する言葉か?」

 もう一人の魔人が咎めた。赤い鎧を纏った巨躯。溶岩のように熱い魔力が、周囲の空気を歪ませている。

「よい。バルバロス。控えよ」

 赤い巨躯が、頭を下げる。

 ネクロスは立ち上がった。

 その動きだけで空気が震えた。

「ゲブよ。魔族とは何だ?」

 ネクロスの問いにゼラは答えられなかった。

 ネクロスは続ける。

「魔族とは“力”だ。弱者を喰らい、強者が支配する。それが魔族の理。それを否定するというのか?」

「……俺は、そうは思わない」

 ネクロスの白い瞳がゼラを捉える。

「ほう?」

「ゴブリンが弱者を喰らうのは、生きるためだ。だが、文明を持てば別の道がある。俺はゴブリンたちに“生きる場所”を与えたい。争わずに済む道を作りたい」

 ネクロスは笑った。

「争わずに済む?それは“人間の理想”だ。魔族は生まれながらに争う存在。お前の考えは――魔族の否定だ」

「違う。俺は魔族を否定していない。“変えたい”だけだ」

 ネクロスの瞳が鋭く光る。

「変える?魔族を?この世界の理を?」

 ゼラは一歩も引かない。

「俺は、魔族も人間も……誰もが生きられる世界を作りたい」

 ネクロスの周囲に黒い魔力が渦巻いた。

「ゴブリンよ。我が陣営に加われ。さすれば望みは叶えられよう。最も人間は助けられぬがな……」

 ゼラは拳を握る。

「俺は……お前らに与するつもりはない。ただ、魔族を変えたいだけだ」

「それが“魔族の世界を壊す”ということだ!」

 ネクロスの声が玉座の間に響く。

「魔族は争い、奪い、喰らう。それが存在理由。お前のような異端が現れれば、魔族は弱くなる。世界の均衡が崩れる!」

 ゼラは静かに言った。

「均衡なんて……とっくに崩れてる。魔王が倒れ、人間が力を増し、帝国が世界を支配しようとしている。魔族が変わらなければ――滅びる」

 ネクロスの魔力が爆発した。

「黙れ、異端者が!」

 黒い魔力がゼラに襲いかかる。

 ゼラは空間転移で回避し、背後に回り込む。

(……速い!でも、避けられる!)

 ネクロスは振り返らずに言った。

「空間転移……ゴブリンが使うには過ぎた力だ」

 ゼラは触手を伸ばし、叩きつけた。

 だが、ネクロスは指先一つでそれを消し飛ばした。

「――面白い。貴様、ゴブリンではないな?」

 ネクロスは魔力を収めた。

「ゲブよ。お前の国を認めよう。ただし――」

 ゼラは身構える。

「魔族の理を否定するなら、いずれ必ず“私”と戦うことになる」

 ゼラは静かに頷いた。

「その時は……俺は逃げない」

 ネクロスは不敵に微笑んだ。

「よかろう。異端の王よ。世界の行く末を見せてもらおう」

 虚無城を出たゼラは呟いた。

(……ネクロス。あいつは敵じゃない。でも、味方でもない)

(……いずれ、戦うことになる。魔族の未来を賭けて)


 * * *

 

 アビスフェルドの空に黒い裂け目が走った。

 ゼラはその気配を感じ取り、空を見上げる。

(…………誰かが近づいている?)

 背後に黒い影が現れた。

「……お前が、ゲブ王か?」

 黒髪の少女。

 背に大鎌。

 黒い瞳。

 ――リュゼリア・アルヴェイン。

“人類史最大の裏切り者”と呼ばれる闇の勇者。

「ネクロスの所を出入りしているそうだな。奴の庇護を求めているのなら、残念だったな。奴は私が始末する」

 ゼラは息を呑む。

(……リュゼリアが……ネクロスを?)

 リュゼリアは淡々と語る。

「奴はサルヴァン様の不在を好機と見て、魔族の統一を進めている。魔族を“力の理”に戻そうとしている。そんなもの、サルヴァン様の理念への冒涜だ」

(……なるほど。だから討伐に来たのか)

 ゼラは頷いた。

「俺もいずれあいつを倒すつもりだった……だが、あいつは強い。あなたが止めると言うなら……俺は、邪魔しない」

 リュゼリアは微笑む。

「賢明な判断だ……そうだ、お前にも手伝わせてやろう」

「手伝う?」

「ネクロスは強い。もちろん私一人でも勝利は間違いないが……殺し損ねると厄介だ。一人でやるより、楽だしな」

 ゼラは心の中で突っ込んだ。

(……いや、自信ないんかい)


 * * *

 

 ネクロスは静かに座っていた。

「……来たか、裏切りの勇者よ」

 リュゼリアは歩み寄り、尊大に告げた。

「サルヴァン様が居られぬ隙に、好き勝手しようなどと言語道断。サルヴァン様に代わり、お前を誅する」

 ネクロスは笑った。

「誅する?私を?ゾルドランごときを斃した位で調子に乗るなよ。小娘」

 リュゼリアは大鎌を構える。

「これ以上、言葉は不要!」

 斬りかかるリュゼリアを赤い魔人バルバロスが、その左腕を巨大な盾に変えて受け止め、剣の形状に変化した右腕で斬り返す。

 リュゼリアは、大きく後ろへ跳んで、これを躱した。

 そこへ無数の羽音を響かせた、黒い塊が飛来する。

「吠えろっ。ゾルドランっ」

 リュゼリアの鎧の胸部の頭骨が大きく口を開け、漆黒の球体を吐き出す。

 黒い塊は散開して回避するが、その一部は、漆黒の球体に吸い込まれていった。

 漆黒の球体に吸い込まれた蝗の群れが、断末魔のような羽音を残して消滅した。

 だが――

「……チッ。やるではないか、闇の勇者」

 蝗の魔人アバドン が、ざわりと背中の羽を震わせた。

 次の瞬間、アバドンの全身から黒い蝗が溢れ出す。

「喰らえ……飢饉の群れ《スウォーム・コール》!」

 蝗の群れが壁を覆い、天井を埋め、玉座の間全体が“黒い嵐”と化した。

 リュゼリアは大鎌を振るい、影の刃を飛ばした。

 だが――蝗の群れは魔力を喰らう。

 リュゼリアの影魔法が、蝗に触れた瞬間に“削られていく”。

「……厄介ね」

 リュゼリアが舌打ちした瞬間、背後から轟音が迫った。

「戦場に背を向けるな、闇の勇者ァ!!」

 赤い巨躯――戦争の魔人バルバロス が、溶岩のように赤熱した右腕の戦斧を振り下ろす。

 リュゼリアは大鎌で受け止めるが――

「重っ……!」

 バルバロスの一撃は、見た目よりも質量を持っていた。

 床が砕け、リュゼリアの足が沈む。

「戦争とは、力だ。力とは、戦争だ!」

 バルバロスの瞳が赤く輝くと、蝗たちが好戦的になる。

 バルバロスの戦斧が赤い軌跡を描き、リュゼリアの大鎌を弾き飛ばす。

 リュゼリアは後方へ跳び退くが、その背後には――

「逃がすかよォ、闇の勇者ァ!」

 アバドンの蝗群が迫っていた。

 リュゼリアの影魔法で、陰に潜んでいたゼラが飛び出し、粘体の触手を伸ばしてリュゼリアを引き寄せる。

「リュゼリア、下がれ!」

「助かる!」

 だが、バルバロスは笑った。

「貴様……疫病の災厄が、我らの誘いを断るだけでなく闇の勇者に肩入れとはな!」

 ゼラの粘体に、バルバロスの戦斧が叩きつけられる。

 粘体が蒸発し、ゼラの影が揺らぐ。

 アバドンの蝗群がゼラに群がり、粘体を削り取っていく。

「疫病の騎士よ……飢饉の前では、病も腐る!」

 たまらずゼラは影へ逃げんだ。


 

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ