表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
災厄のスライムが世界を敵に回したら  作者: 弐戸 参度


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

29/55

29:慟哭

29:慟哭


 サルヴァンが城に戻った時、幹部の誰もがその姿に息を呑んだ。

「御屋形様……!」

 グラズが駆け寄ろうとするが、サルヴァンは手を上げて制した。

「……大丈夫。少し……疲れただけだよ」

 その声は、いつもの柔らかさを保っていたが、かすかに震えていた。

「すまないが、玉座まで連れて行ってくれないか……」

 リュゼリアがサルヴァンを優しく抱き上げ、そっと玉座に座らせる。

 「皆、ご苦労だった。この場に全員揃っていないのは残念だけど、皆のこと、誇りに思うよ」

 現在、城に戻ってきているのは、グラズ、バル=サンガ、ダリオン、リュゼリアの4人だけだった。

 サルヴァンは掠れた声で、幹部たちを労った。

 「この体たらくは僕の弱さが原因だ。でも魔族軍の強さは十二分に人間族に知らしめたと思う。今後については魔族国家の樹立を宣言し、人間族国家と対等な国交を確立する……そのためにバル=サンガ、君が僕の代理となってくれ。リュゼリアとゼラを相談役として交渉にあたって欲しい。グラズ、ダリオン、僕はしばらく眠りにつく。その間、僕の体を守ってくれ。くれぐれも僕が眠りに付いたことは秘密にするんだ……いいね」

 サルヴァンは目を閉じた。

「……少し、眠るよ。みんな……頼んだ」

 その言葉を最後に、サルヴァンの身体は黒い繭に包まれ、深い眠りへと落ちていった。

 それは、魔王が“再生”のために行う、長い長い眠り。

 幹部は誰も声を出さなかった。

 ただ、静かに頭を垂れた。

 サルヴァンの眠りは、アビスフェルドにとっての“夜”の始まりだった。


 * * *


「御屋形様のお言葉は聞いたな?某は、御屋形様の御身体をお守り申す。バル=サンガよ、この玉座の間ごと地中に沈める事は可能か?」

 バル=サンガは無言で頷く。

「ダリオン、某が御屋形様と共に地中で、来る日を待つ故、そなたはこの城を守ってくれ」

 ダリオンは腰の剣を鳴らして、承諾の意を表した。

「でも……サルヴァン様は何故、勇者ごときにやられたんだ?」

 リュゼリアが疑問を口にする。

「不敬なるぞ!」

 グラズが一喝するが、そこへバル=サンガが口を挟む。

「確かに。敗因を知ることは今後の対策にもなる」

 グラズの反論が無いとみると、バル=サンガは円卓の間の水晶球を操作した。

 戦場の様子を監視できる、単眼の鴉が見た映像は、水晶球に記録されている。

 そこへ報せを聞いて、急ぎ戻ってきたガルド、ヒミカ、ゼラが合流する。

 映像はちょうど、神官ビルゲンが祝詞を唱える場面だった。

 『聖なる神よ。かの敵の真名を捧げる。その名は"こーちん"。御敵を封じ賜え』

 映像の中のサルヴァンが硬直する。

「これか。しかし、”こーちん”とは何だ?」

 ガルドが誰ともなしに問いかける。幹部たちもヒミカも顔を見合わせるばかりだった。

 そんな中、びくっとゼラが明らかに動揺する。

「お前、なんか知ってんのか?」

「な、なんで……そのあだ名を……俺は誰にも言ってない!」

 ガルドの詰問に、粗い息をつきながらゼラが答えた。

「詳しく話せ」

 グラズの底冷えする声。

「サルヴァン様と俺は”異界渡り”だ。この世界に来るまでは別の名前で友達同士だった――ソレ(こーちん)はその時に、親しい友を気安く呼ぶための呼び名だった……」

 ゼラがつかえる声を振り絞って答える。

「幾ら魔術を究めようとも、異界の情報を手に入れる事は出来ん。この世界で手に入れられる情報は、この世界での出来事に限られるはず」

 バル=サンガが説明する。

「そう言えば、あの時……」

 ゼラは思い出していた。自分がこの世界に来た日、サルヴァンに助けられ、目を覚ましたその時に、彼の名を呼び、前世の名は”真名”だから口にしてはいけないと言われた時の事を。

 ゼラは泣きながら、その時の事を説明した。

「貴様っ!」

 リュゼリアが激高して、ゼラに掴みかかろうとするのを、ヒミカが間に割って入る。

 ガルドは腕組みをしたまま、空中を睨みつけている。

「御屋形様の御言葉なれど……こうなってはゼラ、お前を魔王軍に置いておくわけにはいかん」

 グラズが絞り出すように言った。 

 グラズの言葉が落ちた瞬間、玉座の間の空気が、氷のように冷たくなった。

 ゼラは唇を震わせながら、必死に言葉を探す。

「ま、待ってくれ……!俺は……サルヴァン様を裏切るつもりなんて……!」

「裏切るつもりがあったかどうかなど、どうでもよい」

 グラズが静かに言った。

 その声は、沼の底から響くように冷たく、重い。

「事実として、お前の“声”が、サルヴァン様を封じる術式に組み込まれたのだ」

「……っ!」

 ゼラは言葉を失う。

 ガルドがゼラの胸倉を掴み、乱暴に引き寄せた。

「お前の言葉一つで、サルヴァン様が動きを止められたんだぞ!ふざけんなよ……!」

「ガルド殿、落ち着け」

 ヒミカが制したが、その声にもいつもの柔らかさはなかった。

「ゼラ殿。お前が悪意を持ってやったとは思わぬ。だが――魔王軍は“結果”で動く」

 ゼラは震える声で言った。

「俺は……サルヴァン様のために戦ってきたんだ……!あの日、助けてくれたから……!俺は……恩返しがしたかっただけで……!」

「恩返し、だと?」

 リュゼリアが冷笑した。

「その恩を、真名を漏らすことで返したわけだな?」

「違う! 違うんだ……!俺は……ただ……!」

「ただ、何だ?」

 グラズの声は、刃のように鋭かった。

「ただ、軽率だっただけか?ただ、無知だっただけか?ただ、勇者の術に利用されただけか?」

 ゼラは体を震わせ、俯いた。

「……ごめん……」

 その言葉は、あまりにも小さかった。

 ヒミカが静かに告げる。

「ゼラ殿。お前は優しい。だが、その優しさは戦場では毒だ」

 バル=サンガが一歩前に出た。

「サルヴァン様が眠りについた今、我らはお前を庇う余裕がない。今日をもって――お前を魔王軍から除名する」

「……っ!」

 ゼラの肩が震えた。

 ガルドがゼラを突き飛ばす。

「出ていけ。お前を引き裂く事を我慢できる自信がねぇ」

 ゼラはよろめきながらも立ち上がる。

「俺は……サルヴァン様のために……!」

「そのサルヴァン様を危険に晒したのは、お前だ」

 リュゼリアの言葉は、容赦がなかった。

「……出ていけ。次にここへ足を踏み入れたら、殺す」

 ゼラは唇を噛み、拳を握りしめた。

「……わかったよ」

 その声は震えていたが、涙は見せなかった。

 ゼラはゆっくりと玉座の間を出ていく。

 扉が閉まる音が、やけに大きく響いた。

 その背中を、誰も追わなかった。

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ