表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
災厄のスライムが世界を敵に回したら  作者: 弐戸 参度


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

24/55

24:平原の風

24:平原の風


 ヒュンメル将軍が率いるオルガナ五連国陸戦団は、快進撃を続けていた。

 国境の砦を落とすと、潰走する敵を追ってアビスフェルド奥地へと進軍。

 途中の村や街も、大した抵抗もなく陥落した。

「ふん。魔族といえど所詮は未開の蛮族よ」

 ヒュンメルは意気揚々と笑う。

「閣下の見事な用兵術の賜物です」

 副官たちが口々に持ち上げる。

「少し調子が良すぎませんか?」

 長い黒髪を後ろで結び、白い布を額に巻いた男――風の勇者ユリウスが声をかけた。

「貴公は勇者になって日が浅い。戦いというものをご存じないのだ、ユリウス殿」

 水を差されたヒュンメルがムッとした表情で返す。

「そんなものですかね」

 ユリウスは肩をすくめた。

 二年前、アビスフェルドで消息を絶った“音の勇者”の後任として、教会から任命されたばかりの新米勇者である。

(どうも……誘い込まれている気がする)

 その予感は、数刻後に的中した。

 背の高い草原を抜けた先――見晴らしの良い平原一面に、魔獣の軍勢が展開していた。

 その最前列。

 銀灰色の毛皮に覆われた直立の狼が、こちらを睨みつけている。

「我が名は獣王ガルドっ! てめえらを殺す者の名だ! しっかり覚えて、あの世に行きやがれ!」

 叫ぶや否や、ガルドは走り出した。

 魔獣たちも咆哮とともに続く。

「密集隊形!」

 ヒュンメルの号令で兵が盾を構え横一列に並び、その隙間から槍を突き出す。

 後方からは弓兵が矢の雨を降らせた。

 矢に倒れる魔獣もいるが、怯む気配はない。

 槍衾に殺到し、激しい衝突音が響く。

 オルガナ兵は戦列を崩さず突撃を受け止めた。

 魔獣の数は多いが、爪牙を振るえるのは接敵した者だけ。

 後方の魔獣は押し合いへし合いで動けず、そこへ弓兵の追撃が降り注ぐ。

 さらに――魔獣の密集地帯で爆発が起こった。

 アストリア帝国の飛空船からの砲撃である。

(この戦、勝った!)

 ヒュンメルは得意げに飛空船団を見上げた。

 だが、飛空船団はそのまま奥地へ飛び去っていく。

(どういうつもりだ、バーダッドめ!)

 

 * * *


 ガルドは走りの勢いのまま跳び上がり、槍衾を飛び越えて陸戦団の中央へ着地した。

 獣らしく爪を振るうと、人間は面白いように吹き飛んでいく。

 瞬く間にガルドの周囲に空白地帯が生まれた。

 後方に、派手な服装で空を睨む男が見える。

(ヤツが頭か!)

 ガルドは身を屈め、一瞬で力を解放し、男へ跳んだ。

 鋭い爪を突き出す――だが、爪は届かなかった。

 黒髪に白布を巻いた男が割って入ったのだ。

「風のユリウス、参る」

 ユリウスが剣を横凪に振るう。

 ガルドは跳んで避けた――はずだった。

 次の瞬間、胸に熱い痛みが走る。

「薄皮一枚切っただけで良い気になるなよ!」

 ガルドは笑い、力を込める。

 盛り上がった筋肉が裂傷を押し戻し、血が止まった。

 再び間合いを詰め、連続の貫き手。

 ユリウスは風に揺れる柳のように、ふわりと躱す。

 ユリウスも連撃で応じる。

 ガルドは最小限の動きで斬撃を回避した。

 すると――ガルドの背後にいた魔獣の首が飛んだ。

「なるほど。斬撃を飛ばしてやがるのか」

“風刃”。ユリウスの勇者としての能力である。

 ガルドは舌なめずりをしながらユリウスを睨む。

「面白ぇじゃねえか……勇者ってのは、こうでなくっちゃな!」

 ガルドが地を蹴る。

 視界から消えた。

(速い――!)

 ユリウスは風を纏い回避するが、肩を掠められ血が飛ぶ。

「どうした勇者ぁ! さっきのキレはどこ行った!」

 ガルドの連撃は嵐のようだった。

 ユリウスは紙一重で避け続けるが、傷は増えていく。

(……このままでは押し切られる)

 ユリウスは大きく後退し、息を吸った。

「――風よ、我が刃となれ!」

 巨大な風刃がガルドを切り裂く。

(……やったか!?)

 だが――

「効くじゃねえか、勇者」

 ガルドは笑い、裂けた胸が盛り上がり塞がっていく。

「俺様のとっておきを見せてやる――」

 ガルドの瞳が獣のそれに変わった。

「“獣の咆哮ビースト・ロア”!」

 大きく開いた(あぎと)から閃光が放たれる。

 ユリウスは躱そうとしたが――射線上にヒュンメルがいる事に気づいた。

(……くそっ!)

 ユリウスは剣を構え、防御に切り替えた。

 ”風柳”――風を受け流す柳の様に、衝撃を受け流す技。

 閃光が収まったとき、ユリウスはその両腕を失っていた。

「てめぇの“風”じゃ、俺は殺せねぇ!」

 ガルドが地を砕き、懐へ飛び込む。

(速――)

 思考より早く、拳が腹にめり込んだ。

「がっ……!」

 ユリウスは吹き飛び、地面を転がり、血を吐く。

「まだだ……!」

 剣を口に咥え、震える足で立ち上がる。

 勇者としての誇りが、彼を支えていた。

「おう、いい目だ。だが――終わりだ」

 ガルドが跳び、爪を振り下ろす。

「あばよ……」

 爪がユリウスの胸を貫いた。

 ユリウスは崩れ落ちる。

 平原の風が静かに吹き抜けた。

「勇者の中じゃ、悪くねぇ方だったぜ」

 ガルドはそう呟き、背を向けた。

 勇者を欠いたオルガナ陸戦団の士気は総崩れとなった。

 この日、陸戦団の全滅と、風の勇者ユリウスの戦死が、オルガナ五連国へ届けられた。

 

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ