表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
災厄のスライムが世界を敵に回したら  作者: 弐戸 参度


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

23/59

23:白銀と黄金

23:白銀と黄金


「カイ王子、大丈夫ですか?」

 馬に乗る黄金(こがね)の勇者カイに、傭兵団の指揮官が馬を寄せて声をかけた。

「ああ。大丈夫です。ありがとう」

 カイは困ったように笑い、ため息をついた。

 ――カイは“王子”ではない。

 父はルミナス商業連邦の議長であり、中央銀行の総裁。

 だが王ではない。

 それでも王子と呼ばれるのは、色白で軟弱そうな見た目、金に物を言わせた煌びやかな装備、そして幼少期からの超一流家庭教師陣――それらを揶揄したあだ名だった。

(勇者の地位まで……金で買ったと思われてるんだろうな)

 横目で白銀の勇者ミリアを見る。

 彼女は白馬に跨り、まっすぐ前を見据えていた。

 視線に気づいたのか、一瞬だけこちらを見るが、すぐに前へ戻す。

(ミリアさん……)

 カイは惚れっぽい男だった。

 初日の行軍は予想外に順調で、抵抗もなく野営の準備に入った。

 各々が食事を取る中、カイはミリアの姿を探す。

(いた!)

 ミリアは輪に入らず、一人で黙々と食事をしていた。

「ここ、いいですか?」

「ルミナスの勇者。ここは私の土地ではない。許可は不要」

 にべもない返答。それでもカイは横に腰を下ろした。

「僕、人間の文明圏を離れるの、初めてなんですよ」

 何とか会話を続けようとするカイに、ミリアが初めて視線を向ける。

「ルミナスの勇者。心拍数が上昇している。戦場で平静を保てない者は死ぬだけだ」

 それだけ言うと、ミリアは立ち去った。

「あっ、僕、カイっていいます……」

 名乗りは、虚しく夜風に消えた。


 * * *


 夜も更け、野営地が静まり返った頃――暗闇に青い炎が揺らめいた。

 二つ、四つ、八つ……青い炎は増え続け、瞬く間に野営地を包囲する。

「敵襲だーっ!」

 見張りの叫びと笛の音が響き、兵たちは飛び起きた。

「ぐぷっ」

 幕を飛び出した兵の腹を、錆びた槍が貫いた。

 驚愕の表情のまま、兵は槍の柄を握る“それ”を見た。

 ――骸骨。

 眼窩に青い炎を灯した、死者の兵士。

 押し寄せる骸骨兵。

 反撃する人間。

 たちまち乱戦となった。

 骸骨兵は一体一体は弱い。

 だが数が多く、寝込みを襲われた人間側は防具も整っていない。

 ルミナス・レーヴェン連合軍は次々と倒れていった。

 その時――きぃぃぃん、と澄んだ金属音が響き、複数の骸骨兵が一瞬で凍りついた。

「近くに術者がいるはず」

 白銀の勇者ミリアは氷像となった骸骨兵を飛び越え、闇へ走り込む。

 

 * * *

 

 「ミリアさん、待って――!」

 カイも剣を抜き、骸骨兵の群れへ飛び込んだ。

 頼りなさげな見た目とは裏腹に、その剣は――流れるように舞った。

 ひと振りで三体。

 返す刃で二体。

 足運びは軽く、無駄がない。

 骸骨兵の槍を受け流し、刃を滑らせ、骨を断ち、次の敵へ自然に移る。

 まるで剣が勝手に動いているかのような滑らかさ。

(……これが、勇者の剣技……?)

 周囲の傭兵たちが息を呑む。

 カイは戦いながら、必死に叫んだ。

「みんな、下がって! 囲まれたら終わりです!」

 その声は震えていない。

 ミリアの言葉を胸に刻んだように、冷静だった。


 * * *

 

 ミリアは骸骨兵を切り裂きながら、魔力の流れを追って森の奥へ踏み込んだ。

 そこにいたのは――黒い甲冑を纏い、巨大な黒剣を携えた男。

「……誰?」

 誰何に答えることなく、黒騎士ダリオンは剣を肩に担ぎ、ゆっくりと歩み寄る。

 ミリアは即座に氷の魔法を展開し、距離を詰めて切りかかった。

 だが――ガキィィィン!!

 剣と剣がぶつかった瞬間、ミリアの腕に衝撃が走り、足が滑った。

(……重い!)

 ダリオンの一撃は、まるで巨岩が落ちてきたかのような質量だった。

 ミリアは氷の刃を連続で放つが、ダリオンは黒剣で全て叩き落とす。

 ミリアは悟った。

(勝てない……!)

 即座に後退し、氷壁を展開して距離を取る。

「撤退する!」

 ミリアは迷いなく踵を返した。


 * * *


 その頃、カイは骸骨兵の群れを切り抜け、ミリアの方へ向かおうとしていた。

 だが――地面から黒い霧が立ち上り、骸骨兵がさらに湧き出す。

 その中には、先ほど骸骨兵に殺された兵士の遺骸も混じっている。

「なっ……!」

 その中心に、黒衣の男が立っていた。

「引き返せ。侵略者よ」

 骸僧正バル=サンガ。

 不死者の王。

「諸君らには“生きて帰る”場所がある。今なら大切な者たちにも生きて会えよう」

 その言葉と同時に、カイの脳裏に故郷の家族、友人たちの笑顔が浮かぶ。

 バル=サンガが指を鳴らす。

 ――故郷が炎に包まれ、家族が、友人が苦しむ幻が脳裏を焼いた。

 勇猛果敢な傭兵たちも、精強な騎士たちも同様に幻を見せられ、恐怖に心を奪われていく。

 骸骨兵が一斉に退路を開いた。

「……どういう、こと……?」

「撤退せよ、人間ども。今はまだ、死ぬ時ではない」

「も、もう、ダメだぁ!」

 一人の兵が逃走を始め、それを皮切りに雪崩のように潰走が広がる。

「貴様ら! 敵前逃亡が軍法会議ものだぞ!」

 指揮官は必死に叫ぶが、一度恐怖に憑かれた人間を止めることはできなかった。

 カイもまた、胸を締め付ける恐怖に抗えず、故郷へ戻るために走り出した。

 その背中を、バル=サンガは愉悦の笑みで見送った。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ