20:初任務-2
20:初任務-2
オルガナ五連国の勇者、”音のジェイク”が仲間と共に魔王を倒す旅に出発したのは、半年ほど前である。
旅の仲間は、ドワーフの戦士、エルフの魔法使い、人間の僧侶の3名だ。
ドワーフは時として魔族に数えられ、人間社会では差別と迫害の対象であったが、個人的に付き合ってみると、やや無愛想ではあるが中々いいやつだった。
ドワーフは頑強な肉体を駆使して、パーティをよく敵の攻撃から守ってくれた。
エルフは亜人族ではあるが、その容姿の秀麗さから人間族に準じるものという扱いをするのが人間社会では一般的であった。
オルガナ領内の魔物を倒しながら魔族領を目指し、国境を超えたのが半月ほど前。鬱蒼とした森を彷徨い歩き、エルフの魔法感知に反応があった場所を探してみると、そこはダークエルフの隠里であった。
魔法結界を抜けると、醜悪な生き物がこちらに弓を構えていた。
しわの目立つ浅黒い肌、節くれだった指、垂れ下がった長い耳――仲間と同じエルフを冠する種族とは思えない容姿だ。
「おい、ドワーフ。さっさとジェイク様と、俺を守れ。お前にできるのは俺らの盾替わりくらいのもんだろ」
手を激しく振りながら、エルフのリーリスが憎々しげに言った。
ドワーフは何も答えない。
次の瞬間、引き絞られたダークエルフの弓が解放され、こちらに複数の矢が放たれる。
分厚い盾を構えたドワーフが、ジェイクの前に出る。
勇者の後ろに回ったエルフと僧侶は防御の魔法を紡ぐ準備をする。
しかし、ダークエルフの矢はドワーフに届くことはなかった。
ジェイクの口から発せられる、"無音の音波"が矢の推進力を奪ったのだ。ドワーフはちらりと背後の勇者をふり返る。
ジェイクはハンドサインで仲間に合図を送る。
(皆殺しにしろ――)
ドワーフは戦斧を構えてダークエルフに襲い掛かる。
エルフの魔法が敵を貫き、僧侶の防御魔法が敵の攻撃を防いだ。
ジェイクも次々とダークエルフを切り倒す。ジェイクの赤い髪が揺れた。
「ふんっ。こんな醜い奴らが、俺と同じ”エルフ”だとはな」
一息ついた、リーリスが吐き捨てるように言う。
一方的な蹂躙に見えたその時、地面から急速に伸びた数本の黒い蔦が、ドワーフとエルフを絡めとった。
エルフは何とか抜け出そうともがいている。
ジェイクの耳が里の奥からこちらへ向かう足音を拾う。
そちらに目を向けると、ダークエルフとは違う魔物が二体、こちらへ向かっていた。
「私の庭で随分と好き勝手に暴れてくれたね。落とし前はつけてもらうよ」
濃密な魔力をまとった女型の魔物が凄む。
「俺は、音の勇者ジェイク。随分と浅い場所にいるが、お前が魔王か?」
「どうせ、お前らはここで死ぬんだ。名乗りは不要だろ?」
酷薄な笑みを浮かべ、ヒミカが問いかける。
ヒミカの操る、黒い茨が勇者一行を取り囲んだ。
――辺りに甘い香りが漂う。
「リーリスっ。いつ迄遊んでいる?さっさと貴様の魔法で焼き払えっ」
危機感を募らせたジェイクが叫ぶが、リーリスと呼ばれたエルフは悔しそうに顔を歪ませるだけだった。
「無理だ! この蔦に魔力を吸われてる! クソっ!この様な醜い連中にしてやられるなんて!」
甘い香りがさらに濃くなった。
リーリスが舌の痺れに気づいたとき、後方の僧侶が泡を吹いて倒れた。
ジェイクも石のように固まったまま動けない様であった。
「醜い、醜いって、ヒトがヒトの美醜を評価しようなんて、烏滸がましいとは思いませんか?」
取るに足らないと無視していたスライムが静かにしゃべった。
* * *
ゼラの毒が勇者一行を完全に捉えたあと、ヒミカは蔦の拘束を解いた。
戒めを解かれた、ドワーフとエルフはその場に倒れこんだ。
僧侶は毒に対する耐性がなかったのか、既にこと切れている。
「あなたは、何か思うところがある様ですね?」
ゼラはドワーフに話しかけるが、ドワーフは静かにこちらを見つめ返すだけであった。
ゼラが解毒薬をドワーフに与えると、ドワーフは右手を閉じたり開いたりして、自らの体を確認したあと、おもむろに戦斧を拾い上げ――リーリスとジェイクの首を刎ねた。
「ジェイクっ、よくも今まで、この俺を盾にしてくれたなっ?てめえが遠慮幕無しに放つ音波のお陰で、こちとら耳が聞こえなくなっちまった! リーリスっ、てめえも人間どもから下に見られる存在のくせに、ちょっと優遇されたからって、いい気になりやがって!」
ドワーフは常に勇者の前に立つ役目のせいで、背後から放たれる音波をもろに浴び続けて、鼓膜をつぶされていた。
一頻り、首のない死体に怒号を浴びせたドワーフは、ゼラの方に会釈をすると森の奥へと消えていった。
* * *
「この度はありがとうございました。あなた方がいなければ、この里は滅びていた事でしょう。先のご無礼はお詫びいたします。我らもあなた方の末席にお加え下さい。」
ザン長老は深く頭を下げた。
「悪い様にはしません。こちらこそ、よろしくお願いします。」
こうして――ゼラは初任務を果たしたのであった。




