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災厄のスライムが世界を敵に回したら  作者: 弐戸 参度


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19:初任務

19:初任務


 魔王ヒミカとの同盟から数日後。

 ごみ処理場で金属を溶かしていると、背後から静かな気配が近づいてきた。

「ゼラ」

 振り向くと、サルヴァンが立っていた。

 いつもの柔らかな笑み――だが今日は、どこか“仕事の顔”をしている。

「サルヴァン……どうしたの?」

「昇進おめでとう!今日から君は”ごみ処理室長”だ」

「えー全然嬉しくないんだけど」

「ごみ処理に関する権限をあげよう。もちろん部下も付けるよ?」

「ごみ処理の権限ってなんだよ?それに部下って言ったってやることないだろ」

「ごみの分別でも手伝わせるといいよ。これからは、()()を離れる事も多くなるだろうし……」

ごみ処理場(ここ)を離れる?」

「君に、初めての“任務”を与えようと思ってね」

 ゼラは思わず粘体を震わせた。

「お、俺に……任務?」

「そう。君はもう、ただのごみ処理係じゃない。魔王軍の一員として、外に出てもらうよ」

 サルヴァンは手をひらりと振り、魔導の光で地図を描き出した。

 黒い森が広がる地域――魔樹海。

 その奥に、黒い印がついている。

「ここに――ダークエルフの集落がある」

 ゼラは目を丸くした。

「ダークエルフ……?」

「彼らは誇り高く、魔族とも人間とも距離を置いているんだけど。」

 サルヴァンの声が少し低くなる。

「僕らが人間族と対等に付き合う様になるまでの道のりは遠い。こちらの力を誇示する必要もあるだろうし、攻めてくる勇者ども退ける必要もあるだろう。そのためにもダークエルフの力が欲しい。ゼラ。君に、彼らを魔王軍(僕ら)の陣営に引き入れてほしいんだ」

「えっ……俺が……?」

「君だからこそ、できる」

 サルヴァンの瞳が、静かに光る。

「君は魔物だが、人間の心を知っている。そして、魔王軍の誰よりも“柔らかい”。彼らは力で押さえつけても、全滅覚悟で反撃するだろう。何とか懐柔してほしいんだ」

 ゼラは胸が熱くなった。

(俺……役に立てるのかな……?でも……やってみたい……!)

「……わかった。やってみるよ」

 サルヴァンは満足げに微笑んだ。

「ありがとう、ゼラ。君の言葉なら、きっと届くはず。ヒミカにも協力を要請しよう。頼んだよ、ゼラ。これは君の――最初の一歩だ」

 ゼラは深く頷いた。


 * * *

 

 数日後、準備を整えたゼラは魔王城を後にした。

 ごみ処理係だったスライムは、この日初めて“外交官”として森へ向かう。

 道中で適当に魔獣をあしらいながら二日間旅をし、魔樹海の入り口に到着すると――

「サルヴァンは人使いが粗いんじゃない?私は同盟は組んだけど、部下になった覚えはないんだけど?」

 あからさまに不機嫌な魔王ヒミカが直々に出迎えてくれた。

「いやあ。すみませんね。ダークエルフの集落までの道案内と、顔つなぎをお願いします。ヒミカ様はダークエルフに顔が利くって聞いたもんで」

「ふんっ。私が口をきいたところで、奴らが靡くとは思えんがな。まあいい。今日は私の城で一泊すると良い。明日の朝早く出発する」

 翌日。日の出と共にゼラとヒミカは出発した。

 鬱蒼とした森の中を黙って歩く。

 ゼラには、魔樹海はどこも同じ景色に見えたが、ヒミカは目印でもあるかの様に迷いなく進んでいく。

(こりゃあ。帰りは一人で帰れとか言われても無理だな……)

 そんなことを考えていると、前を歩くヒミカが突然立ち止まる。

 ヒミカがその場で、複雑な印を結び、何語か分からない呪文を唱えると、目の前の空間が揺らぎ、一本の細い道が現れた。

「ダークエルフの里は魔法的に隠されている」

 ヒミカは独り言の様に言い、現れた道をスタスタと歩いていく。

 再び道が塞がるとまずいと思ったゼラは、慌ててヒミカの後を追いかけた。

 ほどなくして、巨木をくりぬいた、ダークエルフの集落が見えてくる。門のところには、数人の人影が見えた。

「ようこそおいで下さいました、ヒミカ様。お久しぶりでございます」

 どうやらゼラたちの来訪を知った長老が出迎えに来てくれたらしい。

 しわの目立つ浅黒い肌、節くれだった指、垂れ下がった長い耳――背の高いゴブリンだと言われた方が納得のいく容貌。

 ゲームや小説でエルフ=美貌の種族という固定観念のあったゼラは面食らっていた。

「久しぶりですね、ザン長老。今日は()()()()()を紹介させてもらいます」

「ゼラと言います。サルヴァンの名代として来ました。よろしくお願いします」

「これはご丁寧に。里長のザンです。立ち話もなんですから、こちらへどうぞ」

 ゼラとヒミカは、村の集会所らしき場所へ案内された。

 長老というくらいだから、ザンが高齢での見た目なのかともゼラは思ったが、案内される道中に見かけた者、全てが同じような容姿だったので、ダークエルフという種族共通の容姿なのだろう。

「本日はお忙し中、お時間を頂きありがとうございます。早速ですが、私たちは、アビスフェルド一帯を一つの国家として人間族に認めさせ、この地域に安定をもたらしたいと考えています。その為に皆様方のお力をお借りしたいのです」

 サラリーマン時代に培った口上で、ゼラは本題を切り出した。

そちら(魔王軍)のお考えは分かりました。ですが、我らの答えは”否”です。我らは森の民。この魔樹海を守るのが我らの使命。あなた方の事情に巻き込まないで頂きたい」

(むう……即答かよ……)

 ゼラは焦って言葉を重ねる。

「お言葉はごもっともですが、これはアビスフェルドに住まう者、全員の問題です。勇者たちはいずれ、攻め寄せてきます。こちらが刺激しなければ、相手が見過ごしてくれるという考えは通じません。各勢力が各個撃破される前に、力を集結すべきです」

(ゼラ)の言う事にも一理あると思いますよ、ザン長老。最近は勇者の動きも活発になっていると聞きます。わざわざ魔樹海に立ち入るかは微妙ですが、エルフ族が人間に加担している以上、いずれダークエルフが標的になることでしょう」

 黙って聞いていたヒミカが助け舟を出してくれる。

 エルフ族が人間の味方をしているというのは、ゼラは初耳だったが、ヒミカの発言は有難かった。

 ザン長老が、口を開きかけたとき、ダークエルフの若者が飛び込んできた。

「長老!大変だ!勇者が、勇者がやってきた!」

 あまりのタイミングに、思わずゼラとヒミカを見つめるザン。

 ゼラとヒミカは揃って首を横に振った。

 

 

 

 

 


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