第二百二十四話 揃っていく、役者たち
大ミーアピックに向けて、続々と、騎馬王国の族長たちが集いつつあった。会場の飾りつけも着々と進んでおり、部族ごとに応援席が設けられている。
ミーアと繋がりの深い林族、小驪の山族は隣り合った場所にあり、それぞれのデザインの敷物を横断幕のようにして掲げていた。
「ふぅむ、なんだか……見ていると少しだけ緊張してしまいますわね」
騎馬王国の者たちは、なぜか、馬を引いてやってくるミーアを見ると、やけに視線を送ってくるのだ。なにやらソワソワしてる者たちもいて微妙に落ち着かないミーアである。
『あれが、噂の天馬姫……初めて見た』
『馬と会話するらしいぞ。よく親しげに話しておられるとか……』
『馬合わせでは、愛馬が本当に空を舞っていたとか……』
などとひそひそ、囁く声がさざ波のように広がっていく。
天馬姫ミーアのファンは、騎馬王国の中で着々と増えつつあるのだ!
それはさておき、さぁて、今日もホースダンスの練習やるかー、っと気合を入れるミーアだったが、ふと、巨大な覆いが目に付いた。
「ふぅむ……あれが、トロフィー……ねぇ」
ルードヴィッヒから説明を受けた時にも思ったが……。
「あれちょっと大きすぎやしないかしら?」
大きさ的に言うと、ちょっとした馬車ぐらいありそうな感じがするが……。
「あれでは、勝者が手に持てないでしょうに……。バノスさんや、金剛歩兵団の方たちでも難しいのではないかしら?」
いったいぜんたい、どんなスゲェトロフィーなんだ……? と気にはなるものの……もちろん、覆いをめくって中を覗いたりはしない。
仮に、呪いの箱があったとして、中身を開けてみる……なぁんてことは、決してしないミーアである。触れようとも思わなければ、近づこうとも思わない。恐ろしきにも、危うきにも決して近づかない、ホラー小説の主人公適性が著しく低いミーアなのだ。
……いや、しかし、迷い込んだ館で、金色のギロちんに追いかけ回される系のホラーとの親和性は高いので、一概に低いとは言えないだろうか……。
ともあれ、目を逸らしたミーアは荒嵐にひょーいっと飛び乗った。
ここ数日、お祭り食で食欲を満たしてはいたが、運動量と上手いこと釣り合いが取れているため、最初のシュッとした感じを、ある程度は維持できているミーアである。
シャロークについてきていたタチアナからの指導が入り、朝の体操が三セットになったことも影響しているかもしれない。
「では、行きますわよ荒嵐。ララー」
などと言いつつ、メロディーラインを口ずさむ。
特別初等部の子どもたちの歌を聴いていて、すっかり覚えてしまったのだ。
ダンス技能と関連深い歌や音楽、リズム感にも、比較的高めの適性を持つミーアなのである。まぁ、ダンス技能を乗馬に転用したりもしているので、そこまで驚くことでもないのかもしれないが……。
そうして、荒嵐の耳元で歌いつつ、
「はい、ここでストップですわ。ワン、ツー。ラララー!」
などと、歌いながら荒嵐とダンスを仕上げていく。
小驪の姿を想像しつつ、荒嵐に反復で覚えさせていくのだ。
荒嵐の性格上、当日、同じ動きをしてくれるかどうかは甚だ疑問ではあるが、ともかく、ミーアは練習を続ける。
そうして、歌も終わり、荒嵐を止めようとしたところで……。
「おお、精が出るな、ミーア姫」
聞き覚えのある声が響いた。視線を転じれば、そこにいたのは……。
「まぁ、慧馬さん? それに、蛍雷も、どうしてここに?」
愛馬、蛍雷に乗った火慧馬が、そこにいた。ニヤリと笑って、胸を張り……。
「どうして? それは逆にこちらから聞きたい。このような大きな祭りで、騎馬王国が総力を挙げた出し物をすると聞いた。我が、そこに参加しない理由などあるまい」
――ああー、そう言えば……騎馬王国の方って、馬の催し物があれば、特に理由もなく遠くから駆けつけてくるような方たちでしたっけ……。
今や、火の一族も騎馬王国の一員だ。その族長の妹である慧馬が、ウキウキ、ワクワクでイベントにやってきても、まぁ不思議はないのだろう。
「それに、他ならぬミーア姫が、勝利した部族にはものすごい宝を用意したとも聞いている。これは出ないわけにはいくまい」
「あ、あー……ええと、それは、あまり、その……期待しすぎないほうが……」
チラリ、と巨大なトロフィーのほうに目をやり、苦い顔をするミーアに、慧馬は笑みを浮かべた。
「それと、もう一つ。これは、まぁ、ついでなのだが……」
っと、わずかに声を潜めて……。
「ゲイン・レムノからも言伝を預かっている」
「あら……? 言伝、ですの?」
「ああ……そうなのだ」
そう言って、慧馬が軽く声を潜めて……。
「……未確認の情報なのだが、ヴァレンティナ・レムノが、レムノ王国内で動き出したという」
「ヴァレンティナお、うじょ殿下が……?」
眉をひそめるミーアに、慧馬は重々しく頷いて……。
「何を企んでのことかはわからないが……、巫女姫は油断ならぬ。用心するに越したことはない、ということだ」
「そうですわね……。確かに、油断は禁物ですわ」
そうは言いつつも、ミーアはそこまでの心配ができずにいた。
以前、顔を見たヴァレンティナの様子を思い出すと、これ以上、そこまで悪辣なことをするとも思えなかったからだ。
――とはいえ、あの方も考えが読めない方ですし……。やはり、用心するに越したことはありませんわね。




