第二百十八話 一味違うミーア姫
「これが、トワイライトフルーツを干したものです」
「ほほう。聞いたことがありませんわね。夕日の色の果実というわけですわね」
ラーニャから差し出された小皿、そこに載せられた果実を見て、ミーアは楽しそうに笑った。
シワシワとしおれた果物を、ミーアは早速、一口ペロリ、モグモグ……。瞬間、目を見開いた!
「おお、干してあるのに、トロリとしてますわね。それにとても甘いですわ」
今まで食べたどんなフルーツより甘いのではないだろうか? ミーアはまじまじと、トワイライトフルーツを見つめていると……。
「そうなんです。干すと甘味が増すと言われていまして……。防腐処理にもなるので、一石二鳥ですね」
ラーニャは、ちょっぴり得意げに胸を張った。
「なるほど、これは知恵ですわね……。共有するのに相応しい、とても有益な情報と言えますわ」
以前から、ペルージャンの保存食を高く評価するミーアである。長持ちしつつも、美味しいなんて、言うことなしではないか!
なぁんて感心しつつ、もくもくと……否、もぐもぐと! ペルージャンスイーツを楽しむミーアである。
「こちらは、新しい保存用のクッキーで、ミーア二号小麦とペルージャンの小麦とを配合しててあります」
「ほほう! むっ! このクッキー、もちもちしてる感じがしますわ! 食感はクッキーとケーキの中間と言った感じかしら」
しっとり、もっちり、慣れない食感に、ミーアは目を見開いた。
「はい。新たな小麦の出現で、レシピの幅ができました。ただ、甘さや風味だけでなく、食感もいろいろ工夫できるというのは、調理人にとってはすごく衝撃だったみたいで……」
「帝国でも、粘り気が出過ぎるからパンが作りづらい、と戸惑う方がいらっしゃったみたいですわね。料理長を始め、聖ミーア学園の調理学科の方たちが頑張ってレシピを開発してくれましたけど……」
「あのレシピ、素晴らしかったです」
パンッと手を叩いて声を上げたのは、クロエだった。
「商人の仲間たちからも連絡が来ていますが、食べる栞プロジェクト、すごく好評みたいですよ。実際に食べてもらって、その美味しさで安心させつつ、気持ちを貧しい王子と黄金の竜のほうに持っていくことで、大人も子どももみんな明るい顔になるって……」
「ああ、それはなによりですわね。気の持ちようで世界の見え方は変わるものですし」
そして、その『気の持ちよう』に、食事は大いに関係するのだ。
こうして美味しいペルージャンスイーツを食べているだけで、アベルとのお祭りデートがいっそう楽しくなっているミーアが言うのだから、間違いないのである。
…………っと、こう書くと、もしや食べ過ぎを心配する方もおられるかもしれないが、さにあらず!
今回に限っては問題はないのである。
なぜなら……これは、ミーアプレゼンツの食い倒れスイーツアーではない。スイーツデートである。そうなのだ……、なんと、ミーアは隣に居るアベルと半分こしながら食べているのである! ラブラブバカップルなのである!
ラーニャから渡された新作カッティーラを半分に割ろうとして……三分の一のほうを自分で取って、ちょっぴり可愛さアピールしちゃったり。口の端についてたクッキーの欠片をアベルにとってもらって、ほわぁっとしたり……。
砂糖の甘味だけではない。恋の甘味も存分に味わうミーアなのだ。
今日のミーアは恋愛面においても一味違うのである!
――せっかくのお祭りなのですから、楽しまなければもったいないですわ。
実になんとも、成長著しいミーアなのであった!
そうして、ラーニャの案内で、てくてく、ぱくぱく、もぐもぐ、ごっくん、と会場内を食べ歩いていると……。
「おや、これは……ミーア姫殿下ではありませんか?」
不意に声をかけられ、立ち止まる。見ると、そこには、ミーアネットの実務を中心的に担っている男、シャローク・コーンローグが立っていた。
「あら、シャロークさん。ちょうど良いところに。ずいぶんと、お久しぶり……ですけど……ううむ」
ミーアはシャロークの様子を見て……改めてつぶやく。
「こうして近くで見ると、ずいぶんシュッとされたというか、引き締まりましたわね」
「ふっふっふ、そう言っていただけると、励んだ甲斐があるというもの」
シャロークは、軽くお腹をさすりつつ、わずかばかり得意げな顔で言った。
「ミーアネットの意義ある仕事を少しでも長く続けられるよう、健康に努めさせていただいております。タチアナ嬢にも大いに助けられておりまして」
「あら、タチアナさんが……。ふふふ、それは頼りになりますわね。わたくしも、一度本格的に指導を受けたほうが良いかしら?」
っと軽い口調でつぶやくミーアに、シャロークは、
「そっ! それは、その……おやめになられたほうが……」
珍しく、その顔には苦悩の色が見えた。
――あら、シャロークさんが、こんな顔をするなんて、これは相当……。
っと瞬時に悟ったミーアは、咳ばらいを一つ。
「なるほど、では、それは次の機会に。それより、ちょうど良いところでお会いできましたわ。実は、あなたに相談したいことがございましたの」
「私に相談……。と言いますと、レムノ王国の第二王女殿下との会談の件でしょうか?」
どうやら、すでにレムノ王国から使者が行っていたらしい。
シャロークは顎を撫でつつ、
「ふむ、ミーア姫殿下のご依頼とあらば、無下にすることもできませぬな」
ニヤリ、と笑みを浮かべるのだった。




