第二百十話 怪奇! ミーア三十一間堂
さて、実食を終え、すっかり満腹になったミーアは、満足して幕屋を出た。そこで違和感を覚える。
「あら、妙ですわね……。準備段階ではここまでで終わりのはずでしたのに……」
そこに建てられた、見慣れない幕屋。つい先日まではなかった展示会場である。
「おお、ミーアは知らなかったのか。ここはお土産コーナーでな。このミーアの木像を買ったのもここなのだ」
父の言葉を聞き、一気にモチベーションが低下するミーアであるが……。ここまで来て入らないわけにもいかない。
意を決し、足を踏み入れて――瞬間っ!
「これは……」
思わず、言葉を失う。
そのエリアは、なんか、こう……キラキラ輝いていた。
黄金ともまた違った金色の輝き。それは、お土産用の金の木像が放つ輝きだ。
実に、壮観な光景が広がっていた。
ミーアを模した金の木像がずらりと、壁一面に並べられていたのだ。
いったい何体あるのだろうか……。数えるのも馬鹿馬鹿しくなるぐらいのミーア木像が、きんきらきん、っと無言で輝きを放っている。
それを見た瞬間、ミーアは心の中で、つぶやいた。
――いや、こっわぁ……!
夢に出てきそうな光景であった。無論、悪夢のほうである。
夜、暗くなったら怖くてここには入れないだろうなぁ、と思うミーアである。
――これ、自分と同じ顔の金色の像が、気付いたらこちらをジッと見てた、みたいな怪談になりそうですわね……以前、そんな話をドーラさんがしてくださったことがあったような……。それに、これ全部、わたくしを模した金の木像だと油断させといて、いくつかギロちんの木像が隠れていたら、それはそれで恐ろしいですわね。油断したところを、こう、わらわらーっと襲い掛かってくる的な……。
勝手に妄想を逞しくして、ちょっぴり怖くなるミーアである。
――特別初等部の子どもたちとかは、準備の時に怖くなかったのかしら……。パティはああ見えてお化けとかすごく苦手っぽいですし。
と心配していたところで、
「どうでしょう? ここまで、ミーア姫殿下の光り輝く功績をお伝えし、最後に、その光り輝くお姿をお土産の金のミーア木像で表現するという、この順路設計は」
突如、声をかけられ、思わず跳び上がりそうになる。
恐る恐る振り返れば、そこにはいつも通り、奇抜な原色の服に身を包んだシャルガールが朗らかな笑みを浮かべて立っていた。
「ああ、シャルガールさん、お疲れさまですわね。今回の展示にも助言をいただいたとか……」
「両校の生徒たちと話し合いつつ、展示方法を練らせていただきました。以前までの私は、芸術品というのは生み出した時点で終わりだと思っていたのですが……今回はいろいろと考えさせられました。展示の仕方で、これほどまでにいろいろなことが表現できるとは……」
両手を広げ、成果を誇るかのようにくるりと一回転。それから、シャルガールは一転、残念そうな顔をして。
「本当は、最後に二十m級の木像を建てる構想もあったのですが、例のトロフィーのこともあり、こちらに回す人員が足らず……それだけが心残りです」
「ふ、ふふふ、十分ですわ」
言いつつ、ミーアは、あっぶねーっ! っと胸を撫で下ろす。
――やはり、トロフィー制作をお願いしておいて正解でしたわ。危うくパライナ祭で巨大な金木像を披露してしまうところでしたわ。
人によっては、それは中央正教会への挑戦と見るだろう。人によってはというか、ミーア自身もそう思うし……。
それに、蛇の連中が聞きつければ、ヴェールガとの仲をこじれさせるのに利用したことだろう。何だったら、このお土産のところに並んでる金の木像も危ないぐらいだ。
「……ちなみに、この金の木像は、後から出てくるトロフィーを、お土産用としてミニサイズ化したもの、みたいな話はしておりますのよね?」
「はい。ミニサイズ化というより、大ミーアピックのためのトロフィー造りの試作段階で造られたものということにしてありますが……」
まぁ、それでも金の木像を作る理由付けにはなるから良いか、と思うミーアであったが……。
「全ては我々の最高傑作、ミーアピック大トロフィーの準備のためであったということですね。きっと、この金の木像を買って帰った人は、ミーアピック大トロフィーを見て、度肝を抜かれることでしょう」
自信満々にシャルガールが言う。
あの! シャルガールが! 得意げな顔をしている!!!
いったいぜんたい、どんなものが出来上がってしまったのか、少々、不安を覚えなくもなかったが……。
「へ……へー、そうなんですのね」
ミーアは微妙に震える声で言った。正直、そのトロフィー、世にお出ししないほうが……と思わなくもないが、さりとて、やっぱそれなしで、などと言える状況でもない。
――まぁ、いくらシャルガールさんでも、金銀財宝をちりばめたすさまじいトロフィー、みたいなのを作ってくるとも思いませんし。
静海の森の木を使ったトロフィーと言ったのだから、トロフィーを作ってくるだろうと思ったのだ。
まさか、ミーアの想定をぴょーんっと跳び越えた、異次元の仕上がりのトロフィーが出来上がっているなど、想像もできなかったのだ。
それはミーアの見通しの甘さと言ってしまえるかもしれないし、正常性バイアスが働いてしまったとも言えるかもしれないのだが……。
ともあれ、こうして、帝国ファミリーツアーの時間は楽しく過ぎていくのだった。
ミーア三十一間堂
数字でミーアを現すと31になるみたいなので、ミーアミーア堂です。




