第二百八話 侮れぬ威力……
次のコーナーは「聖ミーア学園の成り立ち」であった。
学園都市聖ミーア学園と皇女の町FNYミーアランドの、木製のミニチュアが置かれている。
どうやら、精巧なミニチュアは子どもに人気らしく、貴族の子弟と思しき子どもたちが食い入るようにして見つめていた。
――まぁ、玩具としては楽しそうですしね。しかし……。
っと、ミーアは学園の建物の前に置いてある、ルールー族から贈られた像のミニチュアに目をやる。
――展示会場の入口にあったものも大迫力でしたけど……こうして見ると、このミニチュアも異様といえば異様……。
小指サイズまで縮小されたミニミニミーア人形を眺めながら、ミーアは改めて、そこに込められた熱量に圧倒される。
――この精巧な木材加工技術……もう少し別のことに使えないのかしら……?
っと、ため息を吐いていると。
「こうしていると、あの見事な皇女の町を、今でも思い出すぞ」
すぐ後ろに立つ皇帝が、懐かしげに目を細めていた。
「ベルマン子爵は、我が命を受け、良い仕事をしてくれたようだ」
「ええ……まったく」
まぁったく感情のこもらない声で答えると……。
「いただきましたお言葉、必ずや父に届けたく思います」
いつの間にやら、そばにドミニク・ベルマンが立っていた!
どうやら、ベルマン子爵領のことや、学園都市聖ミーア学園のことをみなに語り倒そうと、そこで待ち構えているらしい。
「先ほどは世話になったな。ドミニク・ベルマンよ」
「はっ! 臣の拙き説明に過分なお褒めをいただき、恐悦至極にございます」
ビシッと背筋を伸ばすドミニクに、皇帝は苦笑いを浮かべた。
「先ほども申したが、そう緊張せずとも良い。そなたは、我が娘の建てた学び舎で学ぶ大切な生徒、ミーアの意思を実現すべく尽力する若き貴族でもあるのだから」
「お心遣い、痛み入ります。それでは、改めて順路でご案内いたします。陛下には先ほどしたのと同じお話をお聞かせすることになるかと思いますが……」
「かまわん。むしろ、新たな発見があるかもしれんではないか」
皇帝の許可を得て、ドミニクはもう一度頭を下げてから、聖ミーア学園の紹介コーナーに進んだ。
っと、とある説明文を、見学に来たと思しき男が読んでいた。
「木工芸の発展。なるほど、近隣の少数部族の持つ知識を積極的に学びに取り入れて……」
感心した様子で唸るのは商人風の男だった。目つきの鋭い、いかにも切れ者といった風情の男であったが……。
「これが、帝国の叡智! ミーア・ルーナ・ティアムーンということか!」
その視線を、さりげなく置かれたミーア木像に向ける。
完全に、眼鏡を曇らされている!
――こっ、この展示会場の力? これは意外と侮れないかも……?
戦慄を覚えるミーアの後ろで、ドミニクが説明をしていた。
「我がベルマン家の者たちは完全に侮っていました。ルールー族の技術は素晴らしいものだったのです。領内の木材加工技術は、ルールー族との交流、彼らの持つ知識により飛躍的に高まっていくと考えています。また、逆に帝国側からも技術を提供、互いの技術を掛け合わせた結果、大変、素晴らしいものが生まれました。それは、騎馬王国の大ミーア……」
どうやら、ミーアの知らないところで技術交流も始まっていたらしい。
ルールー族にとってあの森の木々は神から与えられた宝だ。だから、それを粗末に扱われれば戦争になる。けれど、同時にそれは神聖不可侵なものと言うわけではない。木が神そのものではなく、あくまでも神から与えられた財であるからだ。
だから、ルールー族は木材を適切に使おうと技術を磨き、その性質を知ろうと知識を積み上げてきた。
そこに、帝国が蓄積してきた木材の知識をぶつける。どちらが優れているということでなく、違う思想、違う発想のもとに発展した技術がぶつかり合い、混じり合い、新たな技術が生まれていく。
今後、新たな建築法や、加工技術が生まれてくるかもしれない。
今ならば、海産物研究所との共同研究で、海の生物を内陸まで生きたまま輸送可能な、水槽付の馬車などだろうか。あるいは、ミーアがより安眠できる、新しいベッドとかだろうか。
いずれにせよ、今後の発展が期待されるところだ。
さらに、その先には寒さに強い小麦の研究成果が紹介されていた。
ギルデン辺土伯領で発見された寒さに強い小麦のこと。それを増やし、掛け合わせて生まれたミーア二号小麦の秘話。
ペルージャン農業国の農業技術と活用。
生み出されたミーア二号小麦の紹介と、そして……。
「おお! 満月団子の実食コーナーまでございますのね」
甘い匂いに、ミーアは思わず鼻をヒクヒクさせる。
「実食コーナーでは、甘い豆のペーストをからめたものと、キノコ・山菜鍋に入れたもの、さらに、そのままの味を味わえるよう、塩のみをかけたものとをご用意してあります」
真っ白な調理服に身を包んだ聖ミーア学園調理学科の学生たちが、笑顔で呼び込みを行なっていた。
「せっかくですし、みなで食べていきましょうか」
「ははは、先ほどミーア焼きを食べたばかりだと思うが、ミーアはよく食べるな」
皇帝マティアスは朗らかに笑った。




