第二百七話 女帝ミーア待望論、沸騰す!
「このようなものが町では流行っているのか……?」
皇帝マティアスは怪訝な顔をした。
どうやら、一周目に来た時には気付かなかったらしい。ミーアの功績のほうに目が行っていたようだ。
――それに、新月地区で流行っているお菓子を皇帝に献上、とはなかなかならないでしょうし……。
などと思いつつ、ミーアは毒見済のミーア焼きをパクリ、ペロリ、ごくり。うーん、美味い!
「それだけ慕われているということだろうが……しかし……」
っと、皇帝が視線を向けた先、ちょうどベルが、パックン! っとミーア焼き……の頭にかじりつくところだった!
「こっちから食べたほうが美味しいんですよね!」
っと『秘技ギロちん食い!』を披露するベルを見て、ミーアも若干、複雑な気持ちになるが……。
「……これはミーアに対して、いささか不敬な食べ物では……」
チラリ、っと皇帝が不穏な目つきを売り場に向けそうになったので……。
「ほっ、ほら! お父さまもどうぞ、とっても美味しいですわよ?」
焦って、ミーア焼きを差し出すミーア。
「わたくしの姿を模してくれているみたいで、形も……その……くっ、可愛い、ですし」
形が不敬と言われてしまった以上、そこを褒めるしかないミーアは、無理やりに笑みを浮かべる……。そんな娘の上機嫌な様子に押されてか、それを受け取った皇帝は、一口、パクリ、もぐもぐ……。
「ふむ……なるほど。確かに美味い。やはり、ミーアの形をしているからだろうか」
皇帝は、わずかに目を見開き、手の中のミーア焼きを眺めてから……。
「だが、いささか甘いな……。最近は筋肉に良くないということで控えていたが……。この後、軽く体を動かしたほうが良いかもしれんな」
そう近衛隊長デニスと頷き合うマティアス。完全に筋肉脳になりつつある父の姿が、そこにあった。
まぁ、ミーア的には別に構わないのだが……。
「それにしても、この新月地区の立て直しについて、ミーアがこのようなことをしていたとはな。知らなんだぞ」
皇帝が指し示したのは、ミーアが髪飾りを差し出す場面だった。
ちなみに、そこには、その時のミーアを再現したというミーア黄金木像が展示してあった。しかも、ご丁寧に、部分部分が虹色に輝いていて、後光に照らされたミーアの姿が表現されていた。静海の森の木の特性を生かした、無駄に気合が入った演出である!
「新月地区、復興の始まり……か。最初の一歩は帝国の叡智が差し出した髪飾りであった、と……。自身の宝を民草のためにささげるとはな……」
「いえ、お父さま。それは大したことではございませんわ。帝国の皇女として当然のことをしたまでのこと……それに、有効に使ってもらえたと思いますし……」
微妙に気恥しくて謙遜するミーアであったが……。
「なにをおっしゃいますか! そんなことができる方など、ミーアさま以外にありません!」
横から口を出してきたのは、その当時、恩恵を受けた当事者、セリアだった。
どうやら、ミーア学園・グロワールリュンヌの両校生徒が、各地点に立ち、補足の説明を入れているらしかった。
「あの当時の新月地区は大変な状況でした。けれど、そこに大きな病院が建つと聞いて、どれだけ町の者たちが希望をいただけたかわかりません」
熱量の高い言葉を口にした後、セリアは深々と頭を下げる。
「あの時は、本当にありがとうございました。ミーア姫殿下」
「え、あ、ええ……まぁ、その……」
などと、気まずげに口をもにゅもにゅさせるミーア。
一方、その姿を見て、嬉しげに、うんうん、っと頷く皇帝。と、その後方で、授業参観に来た祖母のような顔で、うんうん、っと頷くパティ。
うちの孫すごいなぁ……やっぱり違うよなぁ! っと、とめどなくドヤァが溢れ出しちゃってる。さらにさらに、その後ろではベルまで、さすが、ミーアお祖母さま! っとグッと拳を握りしめている。
――ああ、なるほど……。一族ですわねぇ。いえ、でも、わたくしは、こんな反応しないと思いますけど……。
っと、ちょっぴり呆れつつ……。
「あー、えーっとお父さま……。わたくしだけの功績ではなく、むしろ、わたくしの髪飾りを用いて金策を工面してくれたのは、こちらのルードヴィッヒで……」
「おお、そうであったか。ルードヴィッヒ・ヒューイットよ、大義であった」
「はっ! 過分な評価、痛み入ります。私は、ただミーア姫殿下のご意思を形にする、そのお手伝いをさせていただいたまでのこと……」
皇帝は、されどゆっくりと首を振り、
「ミーアの思いを無駄にすることなく、活用し、大いなる成果を出したのだ。まことに見事。そなたの名は、改めて、記憶に留めておこう」
キリリッとした顔で言った後、マティアスは、ふと、顎に手をやり……。
「…………しかし、このように優秀な文官をすでに従えているとは……。ミーアの頭脳は言うに及ばずだが、彼を宰相に据えてしまえばサポートも何も心配することはなし。これはもう、早々にミーアに帝位を継いでしまっても良いのでは……」
なんか、不穏なことをつぶやきだした!
ミーアは大慌てでセリアに労いの言葉をかけてから、父を急かして、次のコーナーへと移動するのだった。




