第二百六話 帝都名物の甘いやつ……
帝国の展示会場は、ミーアの予想以上に賑わっていた。
ヴェールガの神官服に身を包んだ一行、商人たちに各国の貴族たち……。
さまざまな国の重鎮がこぞって、例のミーア像とか、功績とかを見ていると思うと……微妙に渋い顔になるミーアである。
――まぁでも……彼らが興味あるのは寒さに強い小麦だけでしょうし……。
と、自分を慰めつつ展示会場へ。っと、入口のところで父が足を止めた。
「しかし、改めて見ても、このミーア像は見事だな」
そこに、どどぉんっと屹立する虹色ミーア像に感嘆の声を上げる皇帝。その隣でパティが、ちょっぴり誇らしげに胸を張っている。準備スタッフとして関わった特別初等部の一員としての思いがあるのだろう。
「……それは、ルールー族の選抜メンバーが作ったと聞いています」
仲間の功績を誇るように、パティが解説する。
「おお、そうなのか。この木材も変わっているが、それ以上に、この彫刻技術が実に見事。我が帝国にこのような職人がいることは喜ばしいことだ」
――ごもっともですけど……。できれば、その彫刻技術を別のことに用いていただけると、なお良いのですけど……。
「ところで、この祭りが終わったら、この像はどうなるのだろうな? できれば、白月宮殿で引き取りたいところであるが……」
父が、なんかとんでもないことを言い出した!
――それは、非常によろしくないですわね。謁見者に毎度、自慢しそうな気がしますわ。
「僭越ながら、皇帝陛下。祭りで使われた展示物は、神聖図書館で資料として収集するのが、常となっております」
ちょうど、タイミングよくユバータ司教を筆頭にした神聖図書館一行が通りかかった。
深々と頭を下げるユバータ司教に、ミーアも礼を返す。
「ご機嫌よう、ユバータ司教。わざわざ帝国の展示会場に足をお運びいただき、恐縮いたしますわ」
如才なく挨拶するミーア。ユバータ司教も温和な笑みを返してから、皇帝のほうに目を向けた。
「ご無沙汰しております。皇帝陛下」
「これはユバータ司教殿。過日は、ミーアが大変世話になった」
「とんでもありません。我が神聖図書館はミーア姫殿下に守られたのです。お聞きではありませんか?」
「そうなのか? ミーア」
チラリと視線を向けてくる父。ミーアは、おほほっと笑みを浮かべて、
「成り行きですわ、成り行き。ええと、それで、ユバータ司教、神聖図書館に寄贈? だったかしら?」
斧を持った暗殺者に追いかけ回されました! とか、さすがに言うわけにもいかず。ミーアはシュシュっと話を変えにいく。
「ええ。そうでした。今回のパライナ祭は、ひさしぶりの開催でしたから、各国の展示会場から記録用に展示物を収集するようにと、ラフィーナさまから強く指示を受けておりまして」
正直、この像が神聖図書館に飾られるのも、それはそれでどうなんだ……? と一瞬、悩むも、まぁ、そうそう神聖図書館に顔を出すわけでもないし、いいか、と許容するミーアである。
「ふむ……まぁ、そういうことであれば、白月宮殿には別に作ってもらえばよいか……」
などと、父が聞き捨てならないようなことをつぶやいていたような気がするが、あえて聞かないふりをして。
「それでは、ユバータ司教、また」
そうして、ユバータ司教たちと別れて、一行は最初の幕屋に入る。
「それにしても、静海の森で、まさかミーアがこのようなことをしていたとは……危険はなかったのであろうな?」
眉をひそめる皇帝に、ミーアは深々と頷き、
「ええ。もちろんですわ! 当然のことですわ!」
若干、強めに言っておく。それから、付け加えるように……。
「現在、皇女専属近衛隊の隊長をされているバノスさんも、この時は一緒にいて、守ってくださったんですのよ?」
「ああ、バノス士爵か。彼にはいろいろと鍛練で世話になっているが……。なるほど、こんな時からミーアのことを守ってくれていたとはな」
しみじみとした口調でつぶやく皇帝。
当人の与り知らぬところで、皇帝のバノスへの好感度が上がった。
そして……、将来、レッドムーン家との縁談話が立ち上がった際に、擁護の言葉をかけることで、ルヴィからの、皇帝とミーアへの好感度が大きく上がった!
好感度アップの良い循環が生まれつつあった! まぁ、それはさておき……。
「そういうことで全然、危険はなかったですわ、うんうん」
っと、かるーく流しつつ、なにか話を変えられないか? っと考えるミーア。その鼻に、なにやら、甘くて、香ばしい匂いが届いた。
「あら……これは」
っと、視線を向けると、そこにあったのは……ミーアを模したあまぁいお菓子の姿があった!
「ああ、ミーア焼きですわね」
そこは、新月地区におけるミーアの功績を称えるコーナーだった。
街の住民たちによって、自発的に始まったお菓子として「ミーア焼き」が紹介されている。
「うふふ、帝都名物『ミーア焼き』ですね! 周辺国から来る人はみんな食べると言われてます」
そんなベルの言葉に、一瞬、
――わたくし、ベルの時代まで焼かれ続けますのね……。
とちょっぴり複雑な気持ちになりかけるも……。
――まぁ、でも、美味しいから仕方ないですわね!
美味しさと甘さは、ミーアの許容範囲を無限に広げるものなのだ。
「ふふふ、では、食べながら行きましょうか」
上機嫌にスキップしつつ、ミーア焼きのコーナーに向かうミーアであった。




