第二百一話 ミーア、スルースルースルスルー
さて、ミーアはその後も、試食会に誘う者たちに声をかけていく。
二人の王子、ティオーナやクロエに加え、レアやリオネルにもだ。
「海産物研究所のことは、父上もそうだが、ナホルシアさまやランプロン伯なんかも興味を持っていてね。釣り自体はそこまで一般的な趣味とは言えないが、少し高級な釣り竿を流通させるなどして、貴族の間で流行らせるのはどうかと意見も出ている」
シオンの言葉に、ミーアは深々と頷く。
「なるほど、道具から流行らせるわけですわね」
ミーアは、あまり高級なアクセサリーを好まない。
芸術的な価値のあるものにも、あまり興味がない。しかし、なるほど、そのような目的であれば、逆に高級なほうが良いだろう、ということは理解できる。
貴族のプライドをくすぐるわけである。
「そうだな。あとは何人かの有力貴族を巻き込んで、みなで釣りをする場を設ければ、それを流行と認識する者たちも現れるだろう」
「良いですわね。ナホルシアさまなどにご協力いただければ、効果的でしょうし」
人望に厚いエイブラム王やナホルシア、さらに人気者のシオンのような人物がやれば、それに倣おうとする貴族も多く現れることだろう。そうして、自領にも釣り堀を作りたいと考え、そこで魚を飼い出したりすれば……それがそのまま緊急時の食料備蓄になる。
なかなかにスマートなやり方と言えるだろう。
――ふむ……しかし、これは、魚のみならず、キノコにも応用できるものですわね。貴族の間でキノコ狩りを流行らせれば……。
などと、腹の中で悪だくみを始めるミーア。その背後で、ギロリ! とキースウッドがこわぁい目で観察していたが……、コイツ、またなんかロクでもないこと考えてんだろうなぁ、みたいな顔で、じぃいっ! っと見つめていたが……。
まぁったく気付かないミーアである。
「しかし、蜘蛛みたいな食べ物だなんて……。少し、気後れしてしまうな」
アベルがちょっぴり恥ずかしげに言った。
それを見て……不覚にも、ちょっぴり可愛らしく感じてしまうミーアである。
最近、たくましさを増しているアベルが見せた、繊細さ……そのギャップに思わずグッときてしまったのだ。
――まぁ、アベル……ふふふ。やはり繊細で、可愛らしい方ですわね。
なぁんて、ニマニマしてしまう悪い大人のお姉さんである。
一方で……アベルの発言に、まさに! 我が意を得たり! っとばかりに頷くご令嬢たちが何人かいたりいなかったりするのだが……そちらにはまぁったく気付かないミーアである。
食に関することでは、若干、鈍感力を発揮してしまうのだ。
「まぁ、確かに蜘蛛のようと聞けば不安にもなるでしょうけど……。けれど、よくよく考えれば、先日の司教茸だとて、食べられるようには見えませんでしたし。キノコ類は一見すると、食べられそうにない、とても食べ物には見えないものが数多くございますわ」
指を振り振り、まるで、キノコの第一人者気取りで語るミーアである。
「それに、ポヤァにしても、よくよく見ると少し気味の悪い見た目をしてますけど……実際に食べてみると大変な美味でしたわ」
「あ、それすごくわかります!」
ぴょんっと跳び上がり、手を挙げたのはクロエだった。
「そういう見た目が怖い物のほうが、むしろ、珍しくて美味しいってこと、あると思います」
眼鏡の位置を、すちゃっと直しつつ、少しだけ鼻息荒く言った。
珍味食い友達であるクロエに勇気づけられて、ミーアは厳かな表情を浮かべる。
「ふふふ、さすがはクロエ。よくわかっておりますわね。隠されたものにこそ、真なる美味がある……美しい宝が、侵入困難な宝物殿の奥の奥に隠されているように、真なる美味は味わうのが困難な先にこそある。食べ物の見た目というのはその第一関門と言えるかもしれませんわ」
それから、ミーアは静かに首を振った。
「しかし……わたくしは美味の追求よりも、むしろ、新しい食料の知識を得られるほうが価値あるもののように思いますわ。目の前の物が食べられると知らずに餓死する悲劇も、食べた物が実は毒であると知って命を落とす悲劇も、どちらも知識の不足が招くものですもの。何が食べられて何が食べられないのかという知識の共有は、極めて意義深い物であると思いますの」
贅沢のためにやってる、と思われるのは、よくない。これはあくまでも、食料を増やすための試みなのだ。
「それに、偏見に惑わされず、見た目に囚われずに料理を楽しむことは、相手の食という文化を認めることでもある。それは言うまでもなく、国の統治者にとって必要な心構えであると同時に、このパライナ祭にも相応しい考え方なのではないかしら……?」
そう……かなぁ? そうなのかなぁ!? っと、ご令嬢たち……具体的にはラで始まりナで終わる名前の人と、パで始まりィで終わる名前の人が眉間に皺を寄せ、うんうん、っと悩ましげに唸っていた。ついでに、途中で合流したレで始まり、アで終わる名前の令嬢も、ラフィーナに同調するように、うんうんうん! っと頷いていたが……。
もちろん、ミーアは気付かない。
「あ、そうですわ。せっかくですし、今から海産物研究所の展示会場に行ってみるというのはどうかしら? 事前に、どのようなお料理が出されるか、知っておいたほうが心の準備ができると思いますし……」
ミーアの提案に、反対する者はなかった。




