第百九十一話 ○○編できちゃった……
――そうか、そう言うことだったんだ……。
ミーアとラフィーナの会話を聞きながら、アンヌはいろいろなことが腑に落ちた気がした。
ここ最近、ホースダンスに取り組むミーアを陰ながら見守ってきた。
疲れが残らないよう体をほぐしたり、肌艶や髪のトリートメントにもしっかりと気を使っていた。
健康状態は上々、美しさに関しても、誰の前に出ても恥ずかしくない状態を維持できていると言える。
ただ、一つだけ懸念があったのだ。
――ミーアさま、パライナ祭の後の世界会議でも出番があるということだったけど……それを考えている余裕がないんじゃ……?
無論、ミーアのことは信頼しているし、大丈夫だろうとは思っている。思ってはいるが……同時にアンヌは知っている。
ミーアは、とても友だち思いの人なのだ。それに、特別初等部の子どもたちにも深い慈愛を注ぐ人でもある。
小驪から相談を受けたうえ、パティからも相談を受けてしまっては、そこに全力を尽くしてしまうだろう。
もしかして、世界会議に割く力がないのではないか? と、そんな危惧を持っていたのだが……。
「そして、ミーアさんのホースダンスは、さしずめ、軍馬を戦にではなく、平和の舞に、というところかしら? 色々な国の子どもたちに、その国の歌を歌ってもらうというのも、とても良いアイデアだと思ったわ」
ラフィーナの解説を聞いて、アンヌの不安は一気に払拭された。
――そうなんだ……。ミーアさま……やっぱり、すごくたくさん考えておられたんだ……てっきりお願いされたから、それに応えられているだけなのかと思っていたけど……。
「特別初等部の子どもたちに見せ場を作りつつ、ホースダンスという平和の舞をする意義を、鮮明にする……。そういう狙いなのでしょう?」
悪戯っぽい笑みを浮かべて、ラフィーナが問いかける。それを聞いたミーアは、少し驚いた顔をして……それから、ちょっぴりバツの悪そうな顔をして……。
「ええ……まぁ……そん……な感じですわ」
一度は、そう認めたものの、すぐに首を振り……。
「でも、そのぅ……そこまで深く考えていない部分もございますのよ? だから、あまり褒めないでいただけると嬉しいのですけど……」
などと、言いづらそうに、もにゅもにゅ言っている。
どうやら、自分の狙いを見抜かれたことが気恥ずかしかったらしい。
そんな様子を微笑ましく思いつつも、
――ミーアさま、ここ最近は練習で手いっぱいだったはずなのに、ちゃんと世界会議のことも考えておられたんだ!
感心しきりのアンヌである。
馬を用いた平和の舞を、各国の歌に乗せて行うことは非常に意味があることである。
誰しも、自国の歌には親しみを覚えるもの。国をまたいだ祭りであるパライナ祭において、その歌が流れれば、嬉しくないはずがない。
帝国の歌にだけ乗せた平和の舞ではない。
騎馬王国の歌にだけ乗せた平和の舞でもない。
ホースダンスを見に来る者たちの国の歌にも乗せた平和の舞だ。他国の歌と自国の歌に乗せる平和の舞なのだ。
一国の名において押し付ける平和ではない。みなが協調し、実現する平和である、と……。
帝国の叡智は、そこに、そのような願いを乗せたのではあるまいか……。
それは、まさに新しい時代の到来を告げるに相応しい舞となるだろう。
新しい時代……言葉にするのは簡単だ。
平和な時代は誰しもが望むものだが、ただ口にするだけではこれほど寒々しい綺麗事はない。
されど、ミーアはすでに実績によって世界を変えつつある。
ミーアネットの設立、寒さに強い小麦ミーア二号小麦とその扱い方、平民を重用し、貧民街を改革し、弱きものに手を差し伸べ、孤児の子どもたちに学びの機会を与える。商人たちに商売における善を説き、かの大商人シャロークには改心を迫った。
そこに、巨大な実績がある。
まず、実績があり、それを告げ知らせるもの、宣言するものとしての平和の舞がある。
ゆえにこそ、その舞は歴史的なものとなるし、ミーアの言葉は世界に届き得るものになるのである。
……と、まぁそんな感じで、後ほど解説を受けることになるアンヌなのであった。
誰にだろうか? もちろん、決まっている。
帝国の叡智に適切な解説を入れられる者など、数えるほどしかいないわけで……。その中で、アンヌが最も親しくしている人物に、である。
裏を返せば、当たり前のことながら、報告を受けるのだ……ルードヴィッヒは。
アンヌがつぶさに見たこと、聞いたことをすべて。
そうして、その意味を読み解くのだ。ミーアの行動の裏の裏の裏に至るまで、読み解くのだ……壮大に……ものすっごぉく壮大に……。読み解いちゃうのだ、あのメガネは。
では、それを聞いたアンヌはどうするのか?
はたして、自慢せずに、黙っていられるだろうか?
そのような素晴らしい場に立ち会えたことを……彼女の妹、エリスに……。
言うまでもないことながら、そんなことはできないわけで……。
パライナ祭におけるミーアの有様は、女帝ミーア伝『究極のパライナ祭~大ミーアピック、そして世界会議へ~』編に、詳細に記録されることになった。
なんかいつの間にか、女帝ミーア伝に○○編ができてしまうとか、しまわないとか、そんな話になっているわけだが……まぁ、それは遅かれ早かれではあったので、大した問題ではないのであった。




