第百八十六話 お祭りはやっぱり楽しくなくっちゃあ!
「う、歌って……え? どういうことですか……? ミーアさま」
戸惑うヤナに、ミーアはニッコリ笑みを浮かべて……。
「とりあえず、二人には、この後、特別初等部のみなさんを集めていただきたいですわ。そこで説明いたしますから」
それから、すっきりした顔で、ミーアは小驪のほうを見て、
「小驪さんも一緒に来ていただけるかしら? ホースダンスについて、相談したいことがございますから」
これで二つの問題を一気に解決ですわー! っと晴れやかな気持ちになりつつ、ミーアはさっさと大浴場を出た。
手早く着替え、アンヌに髪のお手入れをしてもらってから、颯爽と向かうは、特別初等部の教室である。
待つことしばし、ヤナとパティに集められた子どもたちと、担任のユリウス先生がやってきた。
「ミーア姫殿下、これはいったい……」
戸惑った様子のユリウス先生に、ミーアはニッコリ笑みを浮かべる。
「特別初等部のみなさんに、お願いしたいことができましたの。実は、こちらの小驪さんと一緒に、パライナ祭の出し物に参加することになったのですけど……」
手早く大ミーアピックとホースダンス・デュオについて説明した後……、
「そのホースダンスの時に、みなさんに歌っていただきたく思っておりますの」
ミーアの提案を前に、子どもたちの顔に戸惑いが浮かぶ。
「えと、その歌というのは、セントノエルで歌うような賛美歌のようなものでしょうか?」
眼鏡の少年、ローロが小さく手を挙げた。
中央正教会の孤児院では、大抵、神への賛美の歌を子どもたちに教える。セントノエルでも同様に、賛美歌に接する機会は多い。ゆえに、子どもたちにも馴染みがあるのだろうけど……。
「まぁ、それもパライナ祭らしいですけど、できれば、みなさんの出身国にまつわる歌が良いのではないかと思っておりますわ」
先ほど聞いたヤナの歌を思い出す。
――耳馴染みのない音楽に触れるというのは、なかなかに楽しいものですわ。
ダンスの達人にして、そこそこ観劇も嗜んでいる、帝国皇女のミーアである。当然、そこに密接に関わっている音楽についても、嫌いではないわけで……。むしろ、楽しみ方を知っていると言っても過言ではないわけで……。
その点でも芸術家一族であるレティーツィアとも話が盛り上がってしまうミーアである。その場の勢いで、「じゃあ、今度、料理と音楽を嗜む会でも開きましょうか!」などと意気投合して、サフィアスを泣かせたりするサプライズイベントがたびたび発生してしまうわけだが……まぁ、それはどうでもいいこととして。
そんなわけで、ミーアは歌を楽しいものだと認識しているのだ。
パライナ祭は確かに大切なイベントごとである。その後に続く世界会議を考えるうえでも、ぜひとも成功に導かなければならない重要なもの……ではあるのだが。それでも、とミーアは思うのだ。
お祭りなんだから、やっぱり、楽しまなくっちゃあ! っと。
そうなのだ。ミーアは確信しているのだ。
金の木像を磨く作業だけして、楽しいわけがない! と。
木肌がつるつる、すべすべになって、金色に光り輝くのを眺めるのが楽しくてたまらん! とか、虹色に輝くのを見るのが快感で……なぁんて変わり者が、そうそういるはずがないっ! と……葉っぱを数えることで暇が潰せる変わり者のミーアは思うのだ。
そんなわけで、ミーアは子どもたちに言う。
「合わせて調整する必要がありますけど、たぶん、四、五曲歌ってもらうぐらいになるのではないかしら……。あっ、せっかくの騎馬王国の出し物ですし、最後は騎馬王国由来の歌がよろしいですわね?」
小驪のほうに目を向けると……。
「わかりましたですの。一曲、良い感じのを教えるですの」
任された、とばかりに、ドンッと胸を叩くのだった。
「あとは、そうですわね。セントノエルの楽団に話を通すとして……それは、ユリウス先生、お願いできますかしら?」
「かしこまりました、ミーア姫殿下」
穏やかな笑みを浮かべて、ユリウス先生が言った。その顔を見る限り、ミーアの無茶振りにも賛成らしい。
「では、曲選びですけど、ここからはヤナにリードしていただこうかしら?」
そう話を振ると、ヤナが一瞬、戸惑う様子を見せたが、すぐに表情を引き締めて、
「わかりました。それじゃあ、まずはなんの歌にするかから決めたいと思います」
そう言って、教室の前方に出てきた。
「みんなの国の歌が良いということでしたけど、一曲は騎馬王国のもの。その他、なにか、ダンスに合わせるのに良い歌は……」
そうして、曲選びが始まった。
次々に、自分の知っている歌、好きな歌を口にする子どもたち。
互いに、歌を披露する小さな忠臣たちに目を細めつつ、ミーアは満足げに頷くのだった。
こうして、特別初等部の子どもたちを巻き込みにいったミーアであるが……。図らずも、ミーアのこの思いつきは、ホースダンスの課題の最後のピースにもはまることになった。
最後のピース、すなわち……それは……。




