第百八十二話 魔窟に激震、走る!
その日、聖ミーア学園に、激震が走った!
早馬によってもたらされたミーアからの書状を受け取った学長ガルヴはすぐさま、生徒たちを召集する。
「ミーア姫殿下から、このような指示が届いた」
厳かな顔で告げて、先頭に立っていたドミニク・ベルマンにそれを渡す。
捧げ持つようにそれを受け取ったドミニクは、さっと中身に目を通し……そっと天を仰いだ。
何事か!? っと騒然となる生徒たちの前で、彼は深々と息を吐き……。
「ミーアさまは、我らが作った金の木の像を……非常に高く評価してくださっているらしい」
その言葉に、おおーっと歓声が上がる。その声が収まるのを待って、ドミニクは続ける。
「セントノエル学園の特別初等部の者たちが、ミーア姫殿下に熱心にアピールもしてくれたこともあり、非常に気に入っていただけたようだ。しかも、ミーアさまは、パライナ祭における騎馬王国の出し物、『大ミーアピック』なる乗馬大会の勝者に与えられる賞品として、金の木の像をご所望とのことだ」
その意味するところを、悟れない者はこの場にはいない。
中央正教会の伝説的な祭りパライナ祭……その出し物の賞品として、自分たちの作った像を使おうというのだ。
しかも、ミーアの名を冠する大会の賞品に、である。
「それに、帝国内のではない……騎馬王国の出し物の賞品にだなんて……」
聖ミーア学園における生徒たちのまとめ役、セリアが信じられない、とばかりに口に手を当てた。
確かに、心を込めて作った像ではあったのだ。
ミーアに喜んでもらえれば、と思い、ルールー族の職人たちの指導のもと、聖ミーア学園とグロワールリュンヌの手先が器用な精鋭部隊で作ったものだ。
特別初等部の子どもたちも木を磨くのを手伝った、いわば、セントノエル、グロワールリュンヌ、聖ミーア学園三つの共同作業だったわけで、自信がなかったわけではもちろんないのだが……。それでも……。
「まさか、そこまで、高く評価してもらえるとは、思わなかったな」
ワグルが、感極まった口調でつぶやく。ルールー族の生徒たちが同意するように、うんうん、っと頷いている。
そんな中でドミニクは、一転、厳しい顔をして……。
「だが……これは、なかなかに難問じゃないか?」
「どういう意味だ?」
「あの金の木像をそのまま出せばいいというものじゃない。賞品として出すトロフィーなのだから、あの出来を上回る物にしなければならない。これは、我々の総力を挙げてやらなければならない、一大事業なのではないだろうか……?」
腕組みしつつ、ドミニクが言う。
「総力を挙げるというと……また、グロワールリュンヌの力を借りるっていうこと?」
首を傾げるセロに頷いてみせてから、ドミニクは続ける。
「グロワールリュンヌに協力を仰ぐのはもちろん、ガルヴ学長のお弟子さんたちの力も借りるべきだ。それに……」
一度、意味深に言葉を切ってから、
「ミーア姫殿下の……お抱え芸術家の方に協力をお願いするというのはどうだろう?」
その言葉に、一同、おおっ! っと感心の声を上げる。
代表して、セリアが口を開いた。
「それは、とても良いアイデアですね! ドミニクさま。早速、お願いしてみましょう」
そうなのだ。ここは、魔窟、聖ミーア学園。
ミーアの期待に応えるため、ミーアの期待するようなシンプルな金色木像で満足する者は、ここにはいない。
ミーアの期待に応えるため、ミーアの期待を遥かに超え、想像を絶するようなナニカを作り出さなければ気が済まない、ミーアエリートの巣窟なのである!
そうして、聖ミーア学園の召集を受け、意気揚々とやってきたのは、言わずもがな、ミーアのお抱え画家、シャルガールだった。
生徒たちが作った金の木像を見たシャルガールは、感動に目を輝かせる。
「おお、この色合いが、木で出せるとは……なんと不可思議な……」
っと、感心しきりで眺めまわしていたのだが……それが、七色に輝くものになると聞いて、一転、眉をひそめた。
「虹色の木肌という非常に興味深い素材なのに、金色にしてしまうのはもったいない。そもそも、金というのはいかにも俗っぽいではないですか。黄金など、この世の凡百の王族の求めるものにしかなり得ない」
「では、シャルガールさまは、ミーアさまの像を作るとしたら、どんな素材で作られるのですか?」
セリアの問いかけに、シャルガールは指を振り振り、得意げに、
「やはり、技術的に可能ならば、金剛石で作った像とかではないでしょうか?」
クリスタル・ミーアならぬ、ダイアモンド・ミーア像が将来できてしまいそうな空気が漂い出していた! さすがは魔窟、聖ミーア学園である。
その瘴気を存分に吸い込んでから、シャルガールは厳かに告げる。
「それはさておき、とりあえず、私からの提案ですが、一部、虹色の木肌を残すというのは、いかがでしょうか?」
「なるほど……? というと……?」
「例えば、そうですね……。ミーア姫殿下の纏う衣装だけ虹色にして、ミーア姫殿下は金色にするとか……。逆に、ミーア姫殿下の側が虹色に輝くようにするとか……」
「それは、やっぱりミーア姫殿下のお美しさを表すために、ミーアさまご自身が輝いていたほうが良いのではないでしょうか?」
至極、当然のことのように誰かが言う。それを聞き、シャルガールは頷いて、
「それがよろしいでしょう。さらに、聞くところによると、ミーア姫殿下は騎馬王国において『天馬姫』と呼ばれているとか……。ということは……天馬に乗ったミーア姫殿下を模した像にする必要がありますね。ふむ……」
シャルガールは腕組みしつつ、眉間に皺をよせて……。
「後は大きさですね……。大きさは正義。やはり、乗馬大会ですから、馬の身長ぐらいの大きさが妥当ではないかと……」
とっ、トンデモネェことを言い出したっ!
かくて、天馬姫ミーアトロフィー作成プロジェクトは始動した。
「まぁ……黄金像じゃないから、いいか……」っとミーアが思えるようなものに収まるのか、それとも、その許容範囲を遥かに上回る、未曽有のドデカイヤツが出来上がってしまうのかっ!
そして、その過程では、着々とミーアの姿を模した像を造るノウハウが蓄積しつつあるわけだが……。
遠くセントノエルにいるミーアは、まったくもって与り知らぬことなのであった。
トロフィーなら良いよね! トロフィーなら……




