第百八十一話 大ミーアピック・コラボ
「ヒルデブラントさんの心を惹くためには、息を合わせる必要がございますわね。落露が来てからが本格的な練習になると思いますけど……その前に、そちらの馬で一緒に合わせておきましょうか……」
今は練習の時間が惜しい。できることからやっていったほうが良いだろう。
「どういう動きをするかも事前に決めておかなければいけませんわね。小驪さんは、馬をジャンプさせるのとかはできますの?」
「ふっふっふ、そんなの、騎馬王国の者ならば、当たり前にできるですの」
ちょっぴり、ドヤァな顔をする小驪である。
「とすると、タイミングを合わせてすれ違うようにジャンプとかさせると格好良いかもしれませんわね……」
できそうな動きを実践しつつ、全体の組み立てを考えて行けば良いだろう、と考えるミーアである。
ちなみに、忘れがちなことではあるのだが、ミーアはダンスに関しては一流の腕前を誇っている。珍しく誇張なしに一流の腕前を維持している。どのような曲であっても、それに合わせてダンスをすることが可能だし、映える動きなども、頭に入っている。
ダンスに関しては、ガチなのである。
ということで、その応用であるホースダンスもまた、演技構成を考えるのも、お手の者とは言わないまでも、割と得意なほうなので……。
しばし、腕組みしつつ考えてから、自信満々頷いて、
「いずれにせよ、見事なホースダンスを披露して、ヒルデブラントさんを振り向かせますわよ!」
ミーアの力強い言葉に、小驪は深々と頭を下げる。
「ミーア姫殿下、感謝する、ですの。それに、今度のパライナ祭を成功させれば、ヒルデブラントさまの騎馬王国内の評価も上がるし、お父さまも否とは言わないと思いますの」
小驪は、グッと拳を握りしめ、
「だから、なんとしてでも、今度のパライナ祭の大ミーアピックを成功させる必要があると思う、ですの!」
その言葉に、深々と頷いて、ミーアは言った。
「ええ、そうですわね。ぜひ、成功させますわよ! 大ミー……ん? 今、なんと?」
「必ず成功させましょう、ですの?」
「いえ、そこではありませんわ。その少し前、大、なんとかとおっしゃっていたような……?」
「ああ、大ミーアピックですの?」
事も無げに言った小驪に、ミーアは思わず、クラァッとする。
「だっ、大ミーア……ピック?」
脳内にて『(肥)大 (した)ミーア(の脇腹や二の腕を)ピック(=つまむ)』、などと、誤訳してしまうミーアである。なんたる無礼かっ! と憤然としかけるも……。
「ミーアピック、すなわち『月女神の選択』という意味みたいですの。先日、帝国のレッドムーン家で開催されたという乗馬大会を、騎馬王国ではそう呼んでる、ですの」
「月女神の選択……、ううむ、まぁ、そう言うことならば……。女神という言葉が少々気にはなりますけど……」
っと、矛を収めるも、いったい、どこのどいつがそんな名前つけやがったんだ? と思わざるを得ないわけで……。
しかしながら、容疑者が無数にいそうなこと、いざ深く調べてみると気を許していた人間が犯人である、などと言うショックな展開が待っていそうなこともあって……。すぐに、ミーアは深く考えるのをやめた。
世の中には、知らなくても良いことというのがあると思うのである。
「なるほど、その、ミーアピック? を越えるものとして、頭に『大』をつけたということなのですわね……」
「はい。ミーアピックを越えるものを目指すという意味みたいですの。私としては、天馬姫杯とかが良いんじゃないかと思ってるですの」
「まったくですわっ!」
ミーア、小驪に激しく同意するっ!
「しかし、まぁ、パライナ祭の出し物ならば、確かに頭に『大』とか付けたくなるというのも理解できますけど……ううぬ、それでも『大ミーアピック』とは……また、たいそうな名前ですわ……」
己が名を冠した出し物をパライナ祭で、という状況が、実になんとも、不穏な感じがしてしまう。
――下手をすると、わたくしが、騎馬王国に働きかけてそんな名前にさせた目立ちたがり屋に見えてしまいそうですわ……。
ふぅっとため息を吐き、ミーアは首を振った。
「まぁ、今さらかしら……。聖ミーア学園の子たちのアレの前では、些細なこと……。聖ミーア学園……ふむ」
その時、ミーアはふと思いつく。
――あ、そうですわ。どうせミーアピックという名前にするのであれば……いっそ賞品的なものを、あの金の木の像とかにしてしまうと良いのではないかしら……? 聖ミーア学園の連中を自由にさせておくのは少々不安ですし……その余力を削っておけば、あの小型の木像の増殖を抑えられるかもしれませんし……。
あんなものが、大陸の国中に撒かれるのは、ミーア的には嬉しくない事態だ。その規模を押さえる試みはやっておくに越したことはないかもしれない。
――それに、勝者に贈られるものということであれば、金に意味づけを与えられますわ。
ミーアだから金色なのではない。勝者だから金色なのだ!
勝者に与えられるトロフィーとして金の像がまずあり、そのついでとして、帝国の展示会でも同じようなミーアを模した像を配ったという理由付けができれば……。
――まぁ、わたくしの像が勝者のトロフィーというのは、ちょっぴり気になるところではありますけど、ミーアピックという名前なのであれば、おかしくはないはずですわ。たぶん……。
一抹の不安がないではないが……ミーアは思い付きを手紙にしたためて送るのであった。




