第百七十五話 ついに、ヤッちまったのか!?
ヒルデブラントとの会合を終えたミーアは、特別初等部の子どもたちと話をするため、彼らの教室に向かった。
「ご機嫌よう、みなさ……ん? んん?」
特別初等部の教室に入った直後、ミーアは素っ頓狂な声を上げる。
部屋の中央にくっつけるようにして並べられた机、その上に見えた無数の……ぞっ、像っ!? サイズ的には、ワインボトルほどのものだが……その形は……なんだか、こう、その……ミーアっぽく見えた。
――いやいや、さすがに、あり得ませんわ。きっとラフィーナさまとか、レアさんとかを模した物に決まって……う、ううぬ! 我ながら厳しい言い訳ですわ!
肩口で揃えられた髪、高々と持ち上げられた両腕、その手の先にはケーキのようなものがあって……。ドレスの造形と言い、顔の造形と言い、もう、どこからどう見てもミーアの面影があるもので……。
けれど、問題はそればかりではない。
否、最も問題なのは、その色だった。その、まばゆく輝く黄金色に、ミーアは頭痛を覚える。
「あっ! ミーアひめでんかっ!」
特別初等部の、年少組の少女が駆け寄ってきた。ちなみに、以前、ドミニク・ベルマンに助けられた少女だったりするのだが、まぁ、それはさておき……。
「これ、見てください!」
少女はニコニコ嬉しそうな顔で、ミーアにその黄金の像を手渡した!
ああ、ミーア学園の連中、ついにやっちまったか! っと頭を抱えかけるミーアであったが、その小さな人形を手に取った瞬間、気付く!
「あら……これは……木ですの?」
小首を傾げるミーアに、答えたのはパティだった。
「……はい。静海の森の木は、磨くと七色に光るようになりますが、加工次第では金色に近い色になるらしいのです」
「なるほど、よく見ると木肌が見えますわね。すべすべしてますけど……金属とは違う温かみがございますし……」
「木材は、ルールー族より提供されたもの。金色にする加工法は聖ミーア学園で研究したものということです。金で作るよりも、安価で作れるように、と……」
ミニクソメガネこと、ローロが眼鏡をクイッと持ち上げて言った。
――むぅ……黄金像は値段が問題の一つ。もう一つは、鋳つぶされると、いやぁな気持ちになることでしたけど……金色の木像ならば……その問題は解決されてしまいますわ!
ミーアの懸念点にきちんと配慮された、ミニ黄金ミーア像なのである!
聖ミーア学園の某アイデアマンと、どこぞの木に詳しい少数部族の族長の息子あたりの犯行と思われる。あるいは、あのお抱え天才芸術家なんかも関係しているだろうか。
「虹色に輝くほうが綺麗なのに……」とかぶつぶつ言いつつ協力した様子が想像できる。
っていうか、よくよく考えると、帝国の連中ってやべぇな! っと改めて気付かされるミーアである。
「聖ミーア学園のお兄さんたちと一緒にみんなで磨くのをお手伝いしました」
ふと見ると、最初に像を持ってきてくれた少女がニコニコしていた。まるで、自分の手柄のように嬉しそうな顔をしている! きっと、自分だけでなく、この像を考案した某アイデアマンが褒められるのが嬉しいのだろう。
見ると、子どもたちがみんな、ミーアの言葉を待つように、ソワソワしながら見つめていた。
その顔を見て、ミーアは……褒めないわけにはいかなくなってしまった!
そう、ミーアは知っている。自分が頑張って作ったものを、ぶちっと潰される悲しさを……。
――傑作ウマパンを否定された時には、とっても悲しかったですし。
一つ頷き、ミーアはニッコリ笑みを浮かべる。
「ええ。とても良い出来ですわね……。こんなにたくさん、大変だったのではなくって?」
「まだまだ、聖ミーア学園にはたーくさんあります!」
「たくさん……そう」
ミーア、ちょっぴ―り渋い顔をしつつ、
――ま、まぁ……黄金じゃなければ……色だけならば……木ですし……うん。
そう、自分を納得させつつ、
「き、きっとこれを見た方たちは、みなさんの勤勉さを評価してくれるでしょう。頑張りましたわね。ええと、それで……他の発表の準備は、どんな感じでしたの?」
「あ、写してきました。ミーア二号小麦の料理法をまとめたもの、栽培の仕方も。パライナ祭で配布したらよいのではないかって」
パティとヤナがスッと前に出て、ミーアに羊皮紙を差し出す。
「ふむ……。なるほど。実際に調理したものを会場で出すというのは良いアイデアですわね。学園の調理学部との共同作業ですわね。ほう、ガヌドス港湾国の海産物研究所とも協力して……。池で養殖できそうな魚のレシピを……なるほど。良いですわね」
どうやら、聖ミーア学園とグロワールリュンヌ学園との共同作業も順調に進んでいるようだった。帝国の展示場の目玉は、ミーア二号小麦の栽培資料と実食、美味しく食べるレシピなどなど。有益な情報が目白押しだった。
さらに、ルードヴィッヒ(withミーア)が帝国内でやってきた改革、貧民街であった新月地区での施策や、商人との取引への研究など、為政者向けのものもあるらしく……。
――ルードヴィッヒの同門の方の協力もあったのかしら。資料がきっちりまとまっておりますわね。
感心しつつ、ミーアは子どもたちへと目を戻した。
「しっかりとしたお仕事、お疲れさまでしたわね。祭りまではまだしばしの時間がございますけど、抜かりなく準備を進めてくださいましね」
大いに激励しつつ、ミーアは教室を後にしたのだった。




