番外編 無二の親友より届きしは、勇気と忍耐の贈り物なり
ラフィーナ・オルカ・ヴェールガは忙しい日々を過ごしていた。
普段の仕事に加え、パライナ祭の開催に向けての気運醸成のためもあり、普段以上に忙しく、国内を飛び回っているのだ。
「ミーアさん、オリエンス女大公とは上手く縁を結べたかしら……?」
遠く、サンクランドの地にいる友を思いつつも、自らの務めを全うする日々。そんな中、ラフィーナの中に、一つの思い煩いが生まれていた。
それは、自分がパライナ祭に参加することについてである。
祭りとは、神の前に出る儀式だ。聖女としてかかわる以上は、身を清くしておかなければならないわけで……そう思う時、ラフィーナには、一つ、どうしても片づけておかなければならない宿題があった。
それは、母ルーツィエに言われた言葉だった。
『だから、あなたは、あの子と向き合わなければなりません。かつて、自分が見限った者と、正面から向き合わなければなりません』
今までは、まったく意識していなかったことだった。
過去に、取るに足らぬ者として、関係を断ち切ってしまった人がどうなっているのか?
ミーアと出会って以降そのように見限ることは減っていた。どんな悪人にも悔い改めの機会を与える、ミーアの在り方は確実にラフィーナに影響を与えていた。
だからこそ、それ以前の自身の行いが、余計に心に引っかかっていた。
「後回しにしておいた問題に向き合う時が来た……。そういうことなのかしら……」
あの日、決別した幼友達に会う……そんな決意を固めた時だった。
ミーアのもとに行ったモニカが帰ってきたのは……。
それも、ミーアからのお土産を携えて、である。
「おかえりなさい、モニカさん。ミーアさんたちはお元気だったかしら?」
「はい。みなさんお変わりなく。ミーアさまも、ラフィーナさまがいらっしゃれなくって、とても残念がっておられました。それと、お土産もいただいてまいりました」
そうして、モニカが差し出したものに……思わず、ラフィーナ、仰け反る!
モニカが大きな木箱から出したもの、それは、こう、なんというか……モジャモジャしていた! 白くて、モジャモジャ、足みたいなのがたくさん生えた、これはもう、どこからどう見ても、ワーム系のナニカにしか見えない干物だったのだ!
「ひっ……!」
思わず、手を引っ込めて、悲鳴を上げかけるラフィーナであったが……。忍耐と自制心をフルで活用して、なんとか呑み込み……。
「こ、これは……なに、かしら?」
震える声で尋ねる。
そんなラフィーナに、モニカは、ちょっぴり優しい笑みを浮かべて……。
「ご安心ください。ラフィーナさま。これは、司教茸という名前のキノコを干したものです」
「え? き、きの、こ……?」
ちょっぴり涙目になっていたせいで、若干、ぽやぁっとなった視界、何度か瞬きして、はっきり見えるようにして……。それから、改めて見る。っと!
やっぱり、ワーム的なナニカに見える! ぜっ、全然キノコに見えない! 奇怪な、でっかい幼虫を干したものに見える!
「これが……きの、こ?」
上目遣いに尋ねるラフィーナに、モニカは深々と頷いて。
「オリエンス領の特産キノコのようで、みなさんでキノコ狩りをして採ってきたとのことです」
「ああ……うん、そうね……ミーアさん、キノコ大好きですものね」
「はい。ミーア姫殿下もラフィーナさまへのお土産を迷われていたようなのですが、やはり、お裾分けとしては、キノコ狩りで採ってきたものが良いのではないか、とお考えのようで……」
「そう……みんなで、キノコ狩りを……」
ちょっぴり遠い目になるラフィーナ。それから、改めてその虫もどき茸……もとい司教茸に目をやる。
「これは……ええと、どうやって食べるのが正しいのかしら?」
ビジュアル的に、アレだが……。でも、キノコだし……。出汁を取るだけとかなら、食べられるかもしれない……っと思うラフィーナだったが……。
「スープで戻して食べると絶品だとのことで……」
無情にも、モニカは言った。
「そう……ちなみに、出汁をとるだけというのは……」
「ミーアさまは、味はもちろんのこと、その食感がすごく気に入ったとのことですので……」
そうだよなぁ! キノコと言えば歯応えとか大事だよなぁ! っと、ラフィーナはがっくり肩を落とす。
それから、もう一度、ソレを見て……。
「……キノコ?」
「はい、キノコ」
もう一度……ソレを見て。
「それなら……料理長に今日の夕食にスープにして出していただけるように手配を」
と言ってから、ふいに、なにかに気付いたように、パンッと手を叩き、
「そうだわ。お父さまとお母さまにも……せっかくですし、食べていただきましょう。ミーアさんからのお土産を、私一人が食べるなんて、申し訳ないし……」
自分で食べる分を、減らしにかかるラフィーナなのであった。
ちなみに、見た目は奇怪なワーム的なモノにしか見えない司教茸の干物であったが……たいそう、美味であった。
そうして、ミーアからのお土産で、勇気と忍耐力を存分に鍛え上げられたラフィーナは、ついに向き合うことになる。
かつて、自分が切り捨てた少女……。
お友だちだと思っていたけれど、自分を裏切った……、そう、思った少女と。




