第四十五話 こういう状況
一週間程間を空けてしまってすみません。
続きをどうぞ。
「……寝室?」
意識が浮上してくる感覚とともに頭を起こすアオト。だが、体中が痛みで悲鳴を上げているために途中で断念してしまう。
「寝室。寝室だよな?」
誰もいないと思われる空間に声が響き渡る。
「そうだよー」
のんびりとした気分になった瞬間、無音の空間に突如として扉を開ける音とともにアオトとは違う女性の声が響く。と同時に身構えるが痛みでうまく身体を制御できていない。
「起きたら目の前に君がいて、私が生きている。そこから助けてくれたのは誰が見てもわかるわよ」
「…………そう言う事か」
一人で驚き、一人で納得するのはやめてほしい気持ちにもさせられる。この現状を把握するためには少々時間を遡る必要があるだろう。
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「ヤベエエエェェェ!!」
今は絶賛疾走中のアオトとぐったりと力が入っていない少女の場面へと移り変わる。その後ろには真っ赤な炎。つまりは前の展開である。違うところと言えば炎までゼロ距離に限りなく近いところからゼロ距離へとなりアオトの背中をじわじわと焼いているところだろうか。だがそれも直ぐ終わる。炎はアオトを追って来られなくなり、アオトはドアの向こう側へと今入ったのだから。
「ぜえ、はあ、ぜえ、はあ…………間に、合った」
必死に走った後の余韻に浸るアオトだが時と場合を考えた方が良いのかもしれない。
「目の前に美少女発見。コレハドウスレバ?」
焼かれていた背中とそこに無い片腕の事など忘れたみたいに少女を見つめる。
そこには力なく倒れ込んだ美少女。髪の色は純白といったら分かるだろうか。一つの曇りも見られない綺麗な髪。それに対して体はロリっ子とは言えないが十分小さな肢体。細い腕に小さくて細かい指。更に太ってなく、痩せ過ぎてもいない絶妙な体のライン。筋肉などあるのかわからないほどの足にこれまた細かい足の指。そのどれもが髪と同じ純白の色。だが随分あの場所にいたのか、肌は薄汚れた感がでている。更には元は白の生地でできていたのだろうが薄汚れていて黒っぽく変色している。それなのに髪が純白を保っているのは不思議な現象だ。
「休もうか」
少女はまだ起きる気配がしないので疲れた体を休ませようと身を屈め、寝る姿勢をとる。その際に少女を地面にそっと置いていたが決して今の状況から逃げるために寝ているわけではない。決して。
と、言う感じで上の話に行き着くのだ。
「その……」
「どうかした?」
「あの……」
「?」
「もうっ、あ、ありがとうっ!」
顔を真っ赤にして礼を言う少女に圧倒されてアオトは声が出せなかった。
「……反則だろ」
「なにがよっ!?」
「可愛さ?」
「ーーっ!!」
フル回転しても追いつかない思考に遂に耳から湯気が出だしたのは目の錯覚では無いだろう。
「で、ここは?」
「なんか部屋みたいな所……多分、ダンジョンの最下層だと思うよ」
びっくり仰天の発言で驚きながらもこの子可愛いなあ、と考えているアオトは器用である。そのときにコトノの気配が背中に感じたので思考をそこでやめる。
「最下層って……俺まだ一層しか攻略してないぞ? 第一、あれも攻略したのか分からん」
「このダンジョンは全一層で形成されているんだと思うよ」
「全一層?」
「うん。ここにある物を粗方調べたけどあるのはこの部屋と調理場、それと変な空間位だったよ」
「調理場に寝室。それに変な空間。本当に最下層か?」
「変な空間がどうなっているのかは分からないけど多分この下にダンジョンが続いているというのは無いと思うよ。私、感知と魔法に優れているから」
(感知か。魔法は何となく分かっていたけどもしかしたら俺に話しかけれたのも感知能力のおかげなのか? それをもう感知と呼んでは駄目な気がするけど……)
悩みながらも表情を一つも変えずに話を何も無かったように戻すアオト。
「で、君はどうするの? ここにずっといるの? それともここから出て何処かに行くの?」
「分からない。どこに行けば良いかなんて全然分からないわ」
「ふーん。そう言えば名前は……名前は」
考える素振りを見せるアオトに少女は顔を近づける。だがその表情は真面目なものなのでやましいことでは無い事は窺える。
「言ったのに忘れたの?」
「何時の事?」
「仕方ない。セリアルス・フーグリット・トルスエイス・カナ―――」
「思いだしたから。もうやめてくれ!」
「そう……なら良いわ」
「ふう。……じゃあ、セリアだな」
「え?」
とぼけたわけではない。理解できないからこそ突然の事に戸惑い、間の抜けた事を出してしまう。そのときに「駄目なの?」と声を出してしまいそうになるがそうではない事を瞬時に気づく。
「君の名前。なんか無駄に長いその名前を呼ぶの面倒くさいだろ」
「私の名前……」
「え、いけなかった?」
「違うの……。嬉しい。嬉しいの」
同じ言葉を二回も繰り返しながらほろほろと涙を零している。
「?」
「そんな親しい感じに呼ばれたの初めてだから」
それから一々涙をこぼしているのを見て罪悪感を受けながらも話を聞くとこういう事らしい。
セリアは生まれは普通の魔族の子供だった。だがその力は膨大で自分の親にも恐れられ、魔王になった。故に皆には尊敬されるものの一部の者を抜いて全魔族から恐れられた。自分は友達が欲しかった。それこそ誰か一人でも仲良く話ができれば良かったのに、と何度も思った程には。更には理由も言わずにこのダンジョンにあの鎖で拘束して、そのまま放置らしい。
「最低だな」
「なにか訳があったんだと思うの。だからもう良いの。終わった事」
「召喚して、何度も殺してやろうか」
そう。使える遺品さえあれば死んでいようと何度でも召喚できるのだ。未だにその効果範囲が分かっていないが。
「召喚?」
「まあ、それは追々な。それよりもセリア、俺と来ないか」
「……」
「嫌か? 足手まといにもならないと思うから良いと思ったんだけど」
「……足手まとい? 元魔王のこの私が? 有り得ないわ」
眉間に軽いしわを寄せながら文句を言う。
「キャラ変わってない?」
「行ってあげても良いわよ……」
アオトの言葉を無視して続けた答えは肯定の意だった。唯、途中から声が小さくなっていった事から考えると過去に大層な事が合ったと窺える。尤もその理由は分かりきっていてアオトもそこの所は把握しているので問う必要性が無かった。
その後はアオトの昔話、と言っても自分が勇者として召喚されたという事は伝えずに平和な所だったとか、セリアの愚痴を散々聞かされたとかそんなそんな話で軽く和んだ。
そして、久々に和んだ空気がアオトを包んだときに自分でも無意識の内に表情が柔らかくなったのは内緒にしておくのが吉かもしれない。人には自分でも本心を知らない事など沢山あるのだから。
最終的な話し合いの結果は二人でその変な所に行って調査及び、その後の事をそこで決めるということでまとまった。そのときばかりは二人とも真剣な表情をしていた。只、言うなら話し合いが終わったら休息のために寝たという事だ。ベッドは一つしか無いので勿論同じベッドで。
(これってどういう状況!?)
疲労がたまりながらも書きました。自分としてはセリアの容姿についてもう少し書きたかったなあと思いますがそこは自分の力不足。これから改善していくしかあるまい。
と、言う事で感想、ご指摘お待ちしています。




