四十六話 扉の先は……
遅れてすみません。続きをどうぞ。
ある程度の睡眠をとったセリアは小さく背伸びをすると立ち上がった。アオトは寝る事ができずにその間ずっと部屋を眺めているしかしなかった。
「起きてたの?」
「……おかげさまで」
恨みとかそんなのではなく純粋な疲れを感じさせる言い方をする。
「……そろそろ行くか」
「うん」
今迄の緊張が若干減っただけでも気が楽になったのかアオトの心の中は空きスペースができていた。それでも体の痛みはとれないようで全身の激痛に一瞬表情をきつくする。
特に右手が痛むのだがセリアが血を止めてくれたので若干楽になっている。
そんなままでその変な空間……に行く前に調理場に寄った。
「まずは腹ごしらえだな」
「えー、緊張感が緩むよ」
「緩め緩め。と言うかセリアって元魔王なんだろ?」
「うん。そうだけど……どうかしたの?」
「……威厳が全然感じない」
「それ言っちゃだめだよ!? 禁句、き・ん・く!」
そんな言い方をしているところで最早威厳も何も無いのだがもしかしたら現役のときにそれに順したことを言われた事があったのかもしれない。
その後は特に深い話はせずに調理場にあった食材で明るい話で軽く盛り上がった。幸い、調理場には沢山の食材が保存されていた。どれも腐っていなかったのでアイテムボックスみたいな力が働いているのかもしれない。
ここでアイテムボックスについて説明を少ししておこう。アイテムボックスとは簡単に言うと時間の概念がない空間で物を出し入れする事ができる勇者だけが持っている便利なスキルだ。収容する事ができる個数や重量、大きさなどには制限があるのかどうか分からない程に広い容量を持つ。だが、アオトは勇者とは思えないステータスの低さからか容量に空きがないのか物が入れる事ができない時があった。今はどこまで入るのか分からない無限の空間と化しているが。まさに四次元ポケ◯トのような代物だ。魔法の袋がそれに一番合っている気がするけれど。更には空間そのものがこの世界から隔離されたものなので盗難は不可能の意外に凄いスキルなのだ。
ついでにアオトのアイテムボックスには魔物の皮などの素材が大量に保存されている。出すときにまだ慣れていないのか多少のタイムロスがあるのが難点なので魔法の袋に必要な物を入れている。
「さて、今度こそ行くか」
「当たり前だよ。これ以上の寄り道は無駄になるんだから」
「寄り道する所じたいがもうないんだがな」
そのまま調理場を出て通路を移動する。通路は学校の廊下程度と言えば想像がつくだろうか。それが右側に寝室と調理場。左に不思議な空間の部屋といった構成になっている。一つ一つの部屋は大きく、人が20人程度が入ってしまいそうだった。そんなに入ればぎゅうぎゅう詰めになってしまうのだがそこは然程考える価値がない。
学校の廊下を歩いている感覚でのんびりと移動するアオト。セリアからはまさかまだ寄り道する気なのではないかと疑いの目線を向けられているがそれをアオトが気づく事はない。対してアオトは地球での生活を思い出す事ができて懐かしさが心に満たされているが残念ながら隣にコトノの姿はない。
まるでそこにコトノがいるかのように無意識で左手を軽く握ったが勿論それは空を掴む事になった。左手から全身にもやもやが伝染するが余計な思考はこの際心の奥底へと仕舞い込んだ。
「この扉の先か?」
「うん。そうだったと思う」
最後の確認をとったアオトは戸惑いもなく扉を開いていく。
その先にあったのはその名の通りのよく分からない空間。黒と紫メインとしてその他の色がぐちゃぐちゃに混ざり合っている。それはまさに空間の捻れだった。捻れと言っても異空間に繋がっている、なんて事はなくてアオトが体験した意識を捕われた空間を似ているか同じかと言った所だ。
「これまた……」
「吸い込まれそう」
セリアの言い表し方は正しくて、扉にはまだ入っていないがその空間に吸い込まれる感覚がある。前に見たときはこんな事はなかったのにと心の中で悪態を吐くがそんな事を考えている間にもその空間に引き込まれていく。
「どうせ通る道だ。行くぞ」
「うんっ!」
アオトとセリアの間には早くも友情と言うのかもう意識の疎通が出来ていた。
そんな二人が同時に部屋の中に入り込むと中央に向かって自分たちの体が流れていくのが分かった。
(これは何かの磁力場でも働いているのか? だとすればこれは引力の力が作用しているのか……。仮定の話だがこれが本当だとすればこの引力は魔法によるものだと思う。何よりこんな強力な引力で更に部屋の外には一切効果がからな。でも俺が知っている魔法の中に引力の魔法はなかった……俺が知らないだけかもしれないが特別な魔法だってこともある)
そこまで仮定に仮定を重ね合わせて考えるのをやめた。先を読むのは大事な事だが先を読み過ぎて的外れの結果になるのは良くない。何より恐らくもうすぐその答えが分かるのだ。
だがぞっとする事もある。部屋一つだが引力かなにかで空間を多少ねじ曲げているのだ。それが魔法によるものだとしたらその術者は相当な魔力の持ち主だという事になる。
それはもしかしたら……嫌、もしかしなくてもアオト以上に魔力が高い。
変な空間を足がつくこともなく、何かに引き寄せられる不思議な感覚でゆっくりと移動する事数分。酸欠にはなることはないのも不思議だがそれに触れようとした瞬間、空間が弾けるようなイメージで目に光が差し込んできた。その光は元々見えていたのだが考え込んだアオトは目の前が見えなくなったようで突然目に強い光量が入ってきたように感じたのだ。
「……」
「……セリア。警戒を怠るなよ」
と、アオトの指示を待つ間もなく目の前のその正体へと警戒の意と周りに気を配る。
その正体とは…………どこでも見るような飼い犬のような小さな黒と焦げ茶の色をした犬と思わしき生物とそれを連れた無表情とは言わないが感情が掴みにくい背の低い少女。髪は銀。セリアが白だとしたら銀色の髪をしていて比べてみると色が違うという事がよく分かる。その銀色の髪を持つ少女。顔は鼻が高くて人のできる最早、幼女と言っても過言でない幼女はアオト達をがんみしている。その表情はアオトには「よくこれたね?」って感じでセリアには「出て来られたんだ」って感じだ。
「ようこそ。六柱が一つ。絶望の巣へ。私はこのダンジョンの創造者、ピスセータ・グスドルという者です。日本の名前では天海亜衣と名乗っていました」
その言葉を聞いたときによりいっそう警戒心を高めるとともに二人の緊張感が無意識に薄れる華麗な声だった。それはもう、威厳と可憐を掛け合わせたような声で。
ここで新たな人物登場です。この幼女(笑)はこれからとても重要な位置づけになっていきますので要注意です。六柱とは何なのですかねえ。そして日本の名前を持っているとは何者なのでしょうかねえ。真相は次回明らかに―――!? 全ては明かしませんが。
感想、ご指摘お待ちしています。




