↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Re:incarnation of Fate   作者: ヴィシュヌ
第6章:【ミラージュ・エデン】

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

86/99

幕間13:共鳴する覇者たち

鏡像世界『ミラージュ・エデン』の夜空を、一条の青白い閃光と漆黒の稲妻が切り裂いていった。 神崎恭を乗せた【幻影電車(ミラージュ・トレイン)】が次元の壁を突破し、この世界の大気へと滑り込んだその瞬間――世界の理そのものが軋むような強大な波動が、大陸全土へと脈動のように駆け巡ったのである。


人里離れた険しい山脈の尾根。 月光を浴びて風に揺れる金髪を押さえながら、腰に二振りの剣を佩いた女剣士――フランジールは、凛とした表情を険しくして遥か頭上の夜空を見上げていた。


「……ねえ、エリオット。この短期間で、一体どうなっているの……?」


空間の揺らぎを敏感に察知する彼女の声には、隠しきれぬ戸惑いが滲んでいた。


「少し前、北のヴァルハイトの方角で高次元の波動が起きたばかりよ。それなのに今夜、ネルガルの深淵で二度目の異質な脈動が弾けたかと思えば、今度は空そのものを引き裂いて三度目の巨大な力が降りてきた……。こんな短期間に立て続けに三度も『神の気配』が顕現するなんて、普通じゃないわ」


『ほんとだよー! 空気がピリピリしてて、羽が痺れちゃうよエリオット!』


フランジールの隣で、淡い燐光を纏った小さな妖精――アイリスが、不安そうに羽を震わせながら飛び回る。 そんな二人の横で、黒と銀を基調としたモノトーンの旅装束に身を包み、羽飾りのついたつば広の帽子を被った青年――エリオット・ヴァンガードは、帽子のつばを指先で軽く押し上げた。


彼の深い瞳には、青い月の前を横切るようにして雲海の上を疾走していく、不可視のはずの列車の軌跡が映っていた。 遠くの夜空から、かすかに重厚な駆動音と、高らかな汽笛の残響が届く。


「神の気配、か。……最初のひとつはそうかもしれないけれど、今夜の二つはきっと神なんかじゃないさ」


挿絵(By みてみん)


エリオットは吹き抜ける夜風に目を細め、どこか懐かしむような、静かな微笑みを浮かべた。


「……始まりの汽笛だ。やっぱり、君なんだね」


◆


同じ時刻。大陸の中央から外れた、静かな湖畔のほとり。 焚き火のそばで膝を抱えて座っていた一人の冒険者がふと顔を上げて夜空を見つめた。


まだ幼さの残る、端正でどこか儚げな顔立ち。 彼女の周囲には、この世界の文明には存在しないはずの、無機質で奇妙な物体が静かに浮遊していた。


冒険者は雲海の彼方を走り抜けていった魔力の余波を肌で感じ取ると、目を瞬かせ、ぽつりと独り言をこぼした。


「……なんだろう。なんだか、すごく懐かしい感じがするな……」


無垢な瞳が、遠い記憶の断片を探るように細められる。 だが、彼女はすぐに小さく息をつくと、再び静かに焚き火の炎へと視線を戻した。


◆


一方、荒涼とした岩山が連なる大渓谷の底。 群れを成して襲いかかってきた上位魔獣たちを、水と土の魔力を纏った拳の連撃だけで次々と沈めていた一人の青年が、ぴたりと足を止めた。


強さを求めて世界を放浪する求道者――アレクである。 精悍な顔立ちの青年は、手甲についた土埃を払いながら、突如として頭上を駆け抜けた圧倒的な魔力の塊に鋭く反応して空を仰いだ。


「……っ! なんだ、あの強そうな能力は……!」


アレクの双眸に、純粋な闘志の火が灯る。 ただならぬ強者の気配に当てられ、彼の胸の鼓動が早鐘を打ち始めていた。まだ見ぬ規格外の力に対する、抑えきれない高揚感。


「すげえ魔力だ……。あんなヤバい奴が、この世界のどこかにいるのかよ!」


アレクはニヤリと口角を上げると、大地を強く蹴り、空を切り裂いていった魔力の軌跡を追いかけようと全速力で渓谷を駆け出した。 だが、その数秒後には上空の反応は空間の彼方へと完全に掻き消えてしまい、足を止めたアレクは「ちっ、もう消えちまったか……!」と悔しそうに、それでいてどこか楽しげに夜空を睨み上げるのだった。


◆

そして、旧魔導領域ネルガルの深淵にそびえる黒曜石の古城。 城の主である魔女『九龍(クーロン)』は、誰もいない静かな自室の窓辺に立ち、月夜を見上げていた。


長い黒髪を揺らす彼女は、夜の空を切り裂いて東方へと走り抜けていった【幻影電車】の魔力波長を、紫色の瞳で静かに観測していた。


「……ふふ。今の魔力、ただの流星じゃないわね」


九龍は窓ガラスに細い指先を添え、意味深に目を細めた。


「きっと、こちらと関係ありそうね……」


夜の静寂の中、魔女はひとり静かに微笑みを深めた。


◆


――その頃。北方『永劫霊峰国ヴァルハイト』の辺境にある街。 外では冷たい吹雪が吹き荒れる中、高橋優子は街の酒場に足を踏み入れ、フードを下ろして周囲の様子を窺っていた。


この世界へ降り立ってから数日。あてもなく自分の『魂の片割れ』を探すことに限界を感じた優子は、大陸中に情報網を持つ「冒険者」になって手がかりを集めようと、情報収集のためにこの酒場を訪れていたのだ。


優子が空いている席を探してカウンターの脇を通った、その時だった。


「……おい、ちょっと待てよ、姉ちゃん」


近くのテーブルでジョッキを傾けていた傷顔のベテラン冒険者が、優子の顔を見てギョッとしたように目を見開き、声をかけてきた。


「あんた……どうしてこんな北の辺境にいる? いや、その顔……まさか、ネルガルの『魔女』様か……?」


「え……? ネルガルの、魔女……?」


思いがけない言葉に、優子は足を止めてその男へと向き直った。 近くで見直した男は、「いや、違うか。あのお方がこんな安酒場に一人で来るはずがねえし、纏ってる空気も別物だな……」と首を捻る。 だが、優子はその言葉を決して聞き逃さなかった。自分と同じ顔をした人間がこの世界に存在するのだとすれば、それこそが探し求めていた『自分自身の半身』である可能性が極めて高い。


「あの、すみません。今おっしゃった『ネルガルの魔女』という方について、詳しく教えていただけませんか? 私にそんなに似ているのですか?」


優子が真剣な眼差しで尋ねると、傷顔の冒険者は面食らいつつも、顎を撫でながら教えてくれた。


「ああ、生き写しってレベルで瓜二つだぜ。……俺が言ったのは『九龍(クーロン)』様のことだ。世界に五人しかいないレジェンドランク――SSランクの冒険者の一人でな、旧魔導領域ネルガルの奥地に城を構えて隠居してる、人体と魔導の研究者だよ。俺も昔、一度だけ遠目に拝んだことがあるだけだが、あんたの顔を見た瞬間、心臓が止まるかと思ったぜ」


(私と瓜二つの顔をした、SSランクの魔女『九龍』……。間違いない、十年前、私がこの世界へ飛び込んだ時に分かたれた私の半身は、その『九龍』としてこの世界で生きているんだわ……!)


優子は胸の奥で確かな手応えを掴み、「ありがとうございます、とても参考になりました」と男に深く礼を言ってカウンターから離れた。


その一部始終を、酒場の隅の席からじっと観察していた人物がいた。 グラニア出身の冒険者『ザック』の仮面を被った、伊藤南である。霊峰から下山した後も、南は松岡に繋がる情報を求めてこの街に留まっていた。


優子が店の奥で一人考えをまとめていると、そのザック(南)が人の良さそうな笑みを浮かべて歩み寄ってきた。


「よお、今の話が聞こえちまったんだが……姉ちゃん、これから冒険者になってネルガルの情報を集めるつもりかい? 俺はザックっていうんだ。よかったら、少し話を――」


南が気さくな調子で一歩近づいた瞬間、優子の静かな瞳と真正面から視線が交錯した。 その刹那、二人の間の空気がピシリと張り詰める。


(……っ!? なによ、この女……!)


南の背筋に、冷たい緊張が走った。 近くで向き合った瞬間に肌を刺した、人間離れした『光』と『闇』の魔力の圧。ただの新米などではない、底知れない強者の気配だった。


同時に、優子もまた、自身の内に宿る高次元の魔力感覚によって、目の前の男(ザック)の体内を巡る「魔力の流れの異常さ」を瞬時に察知していた。 表面上は人間の男を装っているが、その内側で渦巻いているのは、人間のものとは全く異なる冷血で異質な魔力の脈動。


「……あなた、随分と精巧な『仮面』を被っているようですが」


優子は一切の隙を見せず、静かに目を細めて男の奥底を射抜いた。


「その皮の下から、人間のものではない異質な魔力の流れが漏れていますよ。……私に近づいて何を探るつもりなのか、少し話を聞かせてもらおうかしら」


「……ッ!」


ザックの顔の下で、南の息が詰まる。 完璧に擬態していたはずの魔力の違和感を、たった一目で看破された。南は内心で舌打ちしながらも、即座にザックの愛想笑いを保ったまま一歩後ずさった。


(チッ……! どこのどいつだか知らないけど、今の私じゃ分が悪すぎるわね……!)


ここで正面からぶつかるのは得策ではない。 南は「ははっ、冗談キツいぜ姉ちゃん。酔っ払いに絡まれたと思って忘れてくれ」と軽く両手を上げて見せると、酒場の喧騒と酔っ払いたちの群れに紛れるようにして、素早く店の外へと気配を晦ませていった。


優子は店の扉へと視線を向けたが、すでにその異質な魔力は吹雪の夜へと消え去っていた。


(今の男、一体何者だったのかしら……。でも、深追いしている暇はないわね)


ようやく自分の半身である『九龍』という魔女の存在に辿り着いたのだ。だが、相手はSSランクと呼ばれる最高峰の実力者であり、住処は危険な旧魔導領域ネルガルの奥地だという。


「……まずは予定通り冒険者として登録して、もう少しネルガルと『九龍』についての情報を集めた方が良さそうね」


優子はフードを被り直し、確かな目的を胸に刻んで静かに酒場を後にした。


◆


――そして同時刻、商業都市連合アルディシアの宿屋、その最上階の一室。


『俺の名前は、神崎恭。……お前たちを電車でこの「ミラージュ・エデン」へ送り込んだ張本人であり、お前たちにちょっとばかりデカい仕事を頼みに来た男だよ』


開かれた扉の前で、黒いロングコートを羽織った青年が、あまりにも自然な調子でそう名乗った。


俺――佐々木冬夜は、左の義手に紫電と火炎を纏わせたまま、目の前に立つその男から一瞬たりとも視線を外せずにいた。 隣の瑞希も、後ろの夏芽や悠希、莉子も、突然現れた男の言葉に息を呑んで固まっている。


俺たちをあの電車で轢き、この世界へ送り込んだ張本人。 だが、その衝撃的な告白以上に俺の神経を逆撫でしていたのは、この『神崎恭』という男から漂う、底の知れない不気味な存在感だった。


瑞希の感知網すら素通りして扉の前に立つまで気づかせず、こうして向かい合っていても、その力の底がどこにあるのか全く掴めない。


(……こいつは、間違いなく何かを呼ぶ)


俺たちの旅に、いや、この世界そのものに、とんでもない嵐を呼び寄せる男だ――俺の本能が、そう強く警鐘を鳴らしていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。