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Re:incarnation of Fate   作者: ヴィシュヌ
第5章:交錯する因果と月下の夜想曲

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シーン4:Aランク冒険者

 瑞希の先導によって樹海の罠を抜け、一行が辿り着いたのは、巨木が円形に切り開かれた古い遺跡の広場だった。

 立ち込める霧の向こう、崩れた石柱の上に腰掛けている黒いドレスの少女――佐伯朋美が、ゆっくりと立ち上がって拍手を送ってくる。


「パチパチパチ……! さすがね、瑞希。途中に仕掛けておいた魔獣たちを、あんなに簡単に片付けてここまで来るなんて」


 朋美の笑顔は、現世の教室で見せていたあの可憐な優等生のそれと何ら変わらない。だが、その瞳の奥には、獲物を追い詰めた捕食者の冷たい光が宿っていた。

 そして、石柱の下――広場の中心には、三人の人物が壁のように立ち塞がっていた。


「……ガルド、先輩……っ!」


 瑞希の声が鋭く響く。

 中央に立つのは、身の丈ほどもある巨大な戦斧を肩に担いだ大男、ガルド。

 その右脇には、赤黒い刀身の双剣を逆手に構えた細身の男――アルディシア支部のAランク、『紅蓮の双牙』レイヴン。

 左脇には、自分の身体がすっぽり隠れるほどの巨大な鋼の塔盾(タワーシールド)を構えた重装の女戦士――同じくアルディシア支部のAランク、『鉄壁の操盾』オルガ。


 世界に五十人しか存在しないはずのAランク冒険者が、三人。

 彼らの首筋には、以前ルミナスで悠希たちに突き刺さっていたものよりも遥かに太い黒紫の糸が食い込み、その瞳からは理性の光が消え失せていた。


「ねえ、瑞希。あなたがグラニアでとってもお世話になった師匠なんですってね?」


 朋美が石柱の上から、ガルドの頭を撫でるように指先の糸を揺らす。


「だから私、特別に手を加えてあげたの。この人たちの魔力回路を私の糸で無理やりこじ開けて、限界を超えた力が出せるようにしてあげたわ。……さあ、お人形さんたち。瑞希の邪魔なお友達を、綺麗に片付けてちょうだい!」


 パチン、と朋美が指を鳴らした。

 その瞬間、三人のAランクの全身から、大気が爆ぜるような凄まじい魔力の奔流が噴き上がった。


「――来るぞッ! 散開しろ!」


 冬夜の叫びと同時だった。

 中央のガルドが、両手で大斧を高々と振り上げ、翡翠色の暴風を刀身に纏わせて広場ごと薙ぎ払った。


「『翠嵐・大旋風(テンペスト・ロア)』……ッ!!」


 虚ろな声から放たれたのは、ただの斬撃ではない。圧縮された風の魔力が巨大な横薙ぎの竜巻と化し、広場の石畳を剥がし、周囲の巨木を根元からへし折りながら冬夜たち全員へと襲いかかる。


「なっ……なんだこの規模は!?」

「【水土複合流・泥壁の城(グラディ・アクア・ウォール)】!」


 夏芽が即座に短杖を地面へ突き立て、分厚い泥の城壁を隆起させる。さらに悠希がその前に立ち、大剣を盾にして『身代わりの盾(サクリファイス)』を展開した。

 ドガァァァァンッ!!

 暴風の斬撃が激突し、夏芽の泥壁が一撃で半壊する。衝撃を受け止めた悠希の足元の石畳が蜘蛛の巣状に砕け散った。


「くぅっ……! 重い……! 一撃の威力が、これまでの敵とは桁違いだわ……!」


 だが、Aランクの猛攻はそれで終わらない。

 砕けた泥壁の煙幕を突き破り、今度は全身に燃え盛る炎を纏った双剣の男――レイヴンが、弾丸のような速度で飛び出してきた。


「『紅蓮・飛燕連斬』!」


 振るわれた双剣から、三日月型の灼熱の炎刃が数十発も同時に放たれ、機関銃のように冬夜たちへ降り注ぐ。


「させるかよッ!」


 冬夜が前へ躍り出て、左の義手から紫電と火炎を爆発させ、飛来する炎の刃を次々と拳で叩き落としていく。

 その隙に、瑞希が地面を蹴った。


「冬夜、みんな! ガルド先輩は私が引きつける! そっちの双剣と大盾はお願い!」


「おう! 師匠の相手は弟子に任せたぜ!」


 瑞希は【透明な拒絶(ステルス・リジェクション)】を発動して姿を消し、ガルドの側面へと回り込んでナイフを投擲した。ガルドが大斧を振ってナイフを弾き飛ばし、その視線が瑞希の方へと向く。

 瑞希はそのままガルドを広場の西側へと誘導し、残るレイヴンとオルガの二人に対し、冬夜、悠希、夏芽、莉子の四人が東側で対峙する形へと戦場が二分された。


 ◆


「ハァッ!!」


 東側の戦場では、冬夜と双剣のレイヴンが火花を散らして激突していた。

 レイヴンの双剣が赤熱し、炎の渦となって冬夜を切り刻もうと迫る――必殺の突撃技『劫火の牙』。

 冬夜は右手の革手甲と左の雷炎の義手を交差させ、その超高速の連撃をギリギリで捌き続けていた。


「くそっ、速え上に手数が多すぎる! 莉子、風でこいつの足を――」

「ダメ、お兄ちゃん! あの盾の人が邪魔をしてて魔法が通らないの!」


 夏芽の悲鳴のような声が響く。

 後衛の夏芽と莉子がレイヴンを狙って『水弾』や『風の刃』を放つたび、レイヴンの背後に控える重装の女戦士――オルガが巨大な塔盾を地面に突き立て、魔力を掲げていたのだ。


「『イージス・フォートレス』!」


 オルガの塔盾から、半透明の黄金の魔力障壁がドーム状に展開される。夏芽と莉子の放った魔法は、レイヴンに届く前にすべてその黄金の壁に阻まれ、霧散させられてしまう。

 それどころか、オルガの盾が不気味に発光し始めた。


「まずいわ! あの盾、私たちの魔法の衝撃を吸収して溜め込んでる……!」


 悠希の警告と同時に、オルガが盾を前方へと突き出した。


「『反撃の咆哮(カウンター・キャノン)』!!」


 ドゴォォォォンッ!!

 盾の表面から、吸収した魔力を何倍にも増幅した極太の衝撃波が、光の砲撃となって冬夜と悠希を直撃した。


「ぐあああっ!?」

「きゃああっ!」


 たまらず吹き飛ばされ、地面を転がる冬夜と悠希。

 前衛を任された二人が体勢を崩したそこへ、双剣のレイヴンが炎の刃を振り上げて容赦なく追撃に迫る。


「冬夜お兄ちゃん! 悠希さん!」


 夏芽が慌てて土の壁を作ろうとするが、間に合わない。

 BランクとAランクの間に横たわる、実力と経験の壁。しかも相手は攻防が完璧に噛み合ったアルディシアのトップランカー二人組であり、こちらは「相手を殺してはならない」という重い枷を背負わされている。


 だが――地面に叩きつけられた冬夜の瞳は、少しも死んでいなかった。


「……ちっ、いいコンビネーションじゃねえか。だが、連携なら俺たちだって負けてねえんだよ!」


 冬夜が血の混じった唾を吐き捨てて立ち上がる。


「悠希、莉子、夏芽! 霊峰の銀竜戦でやった連携の応用だ! あのデカい盾のスキルは、攻撃を吸収して撃ち返す時に一瞬だけ障壁が解ける! 悠希と莉子の『増幅』に夏芽の水を乗せて、そこへ全員の力をぶち込むぞ!」


「わかったわ! 莉子、夏芽ちゃん、合わせるわよ!」

「「うんっ!!」」


 レイヴンの双剣が冬夜の首元へ迫った瞬間、横合いから飛び込んだ悠希が、自らの大剣と身体を盾にしてその炎の斬撃を真っ向から受け止めた。

 ズバァッ! と悠希の肩口が裂け、鮮血が舞う。だが悠希は痛みに顔を歪めながらも退かず、大剣の鍔でレイヴンの双剣を強引に押し留めて動きをロックした。


「今よ、莉子ッ! 私の痛みを、全部魔力に変えて!!」

「お姉ちゃん……! いくよ、最大出力――『共鳴増幅(アンプリファイ)』ッ!!」


 悠希が負ったダメージに呼応し、後衛の莉子の全身から爆発的な風の魔力が噴き上がる。

 莉子が放ったのは、単なる風の刃ではない。夏芽が同時に発動した『水土複合流・濁流の渦』を暴風で巻き込み、巨大な水の竜巻へと昇華させた合体魔術だった。


 ゴオォォォォッ!!

 広場の地面を抉りながら迫る水と風の暴竜に対し、後方のオルガが即座に反応し、レイヴンを守るために前へ出て塔盾を構えた。


「『イージス・フォートレス』……!」


 黄金の障壁が展開され、莉子と夏芽の合体魔術と激しくぶつかり合う。

 バチバチと魔力が拮抗し、限界までエネルギーを吸収したオルガの盾が、再び『カウンター・キャノン』を放つために黄金の障壁を収束させた――まさに、そのコンマ数秒の隙。


「そこだァッ!!」


 悠希の背中を踏み台にして空高く跳躍していた冬夜が、障壁の消えたオルガとレイヴンの頭上へと急降下した。

 冬夜の左の義手には、焼き殺すための炎ではなく、極限まで圧縮された『紫電(雷)』の魔力だけがバチバチと青白くスパークしている。


「殺しはしねえ……だが、骨の髄まで痺れて眠ってろ! 『雷炎・紫電縛鎖(パラライズ・チェイン)』ッ!!」


 冬夜が地面へ左拳を叩き込んだ瞬間、蜘蛛の巣状に広がった超高圧の紫電が大地を駆け巡り、足元を水で濡らされていたオルガとレイヴンの二人を同時に下から包み込んだ。


 バヂィィィィィッ!!

「「ガ、アァァァァッ!?」」


 殺傷力を抑え、神経系を麻痺させることだけに特化した電撃の奔流。

 さすがのAランク二人も、水と雷の伝導コンボによる内部からの電撃には耐えきれず、全身を激しく痙攣させて動きを止める。

 冬夜は間髪入れず、右手の拳で二人の首筋へと踏み込み、電撃の余波で緩んだ黒紫の支配糸を、手甲の爪で力任せに引きちぎった。


 ブツンッ!!

 糸が断たれた瞬間、レイヴンとオルガの瞳から赤い濁りが消え、二人はそのまま糸の切れた人形のように地面へと昏倒した。


「はぁ、はぁ……っ! よし、二人とも気絶してるだけだ! 無事だぞ!」


 冬夜が荒い息を吐きながら叫ぶ。Bランクの四人が、見事な連携で格上のAランク二名を無傷で制圧した瞬間だった。


 ◆


 一方、広場の西側。

 瑞希と師匠ガルドの一騎打ちは、苛烈を極めていた。


「『地脈粉砕(アース・クラッシャー)』ッ!!」


 ドゴォォォォンッ!!

 ガルドが振り下ろした大斧が大地を叩き割り、闘気を帯びた岩盤が槍のように次々と地面から突き出してくる。

 瑞希は【透明な拒絶】で自身の姿と気配を完全に消し去りながら、迫り来る岩の槍を紙一重で躱し、ガルドの死角――背後へと無音で滑り込んだ。


(ガルド先輩の首筋の糸は、かなり太い……! 確実に接近して、根元から断ち切らなきゃ!)


 呼吸も、足音も、小剣が風を切る音すら完全に遮断している。

 どんな魔獣でも、ルミナスの審問官ですら反応できなかった完璧な不可視の奇襲。瑞希がガルドの背後に肉薄し、首筋の糸へ向けて小剣の峰を振り抜こうとした――その時だった。


「……ッ!?」


 前を向いていたはずのガルドの巨体が、まるで背後に目がついているかのように、迷いなく回転した。

 振るわれた大斧の柄が、何もないはずの空間――瑞希がまさに踏み込んだその一点を、寸分の狂いもなく強打する。


 ガキィィンッ!!

「く、ぅっ……!?」


 咄嗟に小剣を交差させて受け止めたものの、Aランクの剛腕から繰り出された重い衝撃を殺しきれず、瑞希の身体が木の葉のように吹き飛ばされた。

 地面を数回転がり、瑞希は片膝をついて体勢を立て直す。小剣を持つ手がビリビリと痺れていた。


(なんで……!? 気配も音も、完全に消えていたはずなのに……!)


 瑞希はもう一度【透明な拒絶(ステルス・リジェクション)】を展開し、今度は木の枝を蹴って上空の死角からガルドの頭上へと急降下した。

 だが、ガルドは虚ろな瞳のまま上空へ大斧を振り上げ、暴風の斬撃『翠嵐・大旋風』をゼロ距離で放ってきたのだ。


「きゃあっ!?」


 空中で風の刃にかすめられ、瑞希の肩口が浅く裂けて血が散る。

 着地した瑞希へ、ガルドは一切の容赦なく踏み込み、大斧の連撃を嵐のように浴びせかけてきた。


 ガンッ! ガキィンッ! ズガァンッ!!

 一撃ごとに大気が爆ぜ、受け止める瑞希の足元の地面が陥没していく。


「あははははっ! どうしたの、瑞希!? 自慢の隠密が全然通じてないじゃない!」


 石柱の上から高みの見物を決め込んでいた朋美が、お腹を抱えて愉快そうに笑う。


「当然よねぇ! だってそのおじさん、あなたに戦い方を教えた師匠なんでしょう!? どんなに姿を消したって、あなたの足の運びも、死角に回り込む癖も、全部お見通しなのよ! ほらほら、そのまま大好きだった師匠の斧で、ぐちゃぐちゃに潰されちゃいなさい!」


 朋美の嘲笑が耳を刺す。

 だが、防戦一方になりながらも、瑞希の頭の中は驚くほど冷静だった。さっき冬夜や夏芽たちに諭され、焦りを手放していたおかげで、ガルドの動きの「カラクリ」がはっきりと見えていたのだ。


(……そうか。朋美ちゃんの言う通りだ)


 ガルドの大斧を小剣で受け流しながら、瑞希は師匠の足元と肩の動きを凝視する。


(ガルド先輩は、私の気配を感知してるんじゃない。私がグラニアで先輩から叩き込まれた『歩法』のリズム……どのタイミングでどこへ踏み込むかという戦術の癖を、先輩の身体が本能で記憶して先読みしてるんだ……!)


 操られて意識を失ってなお、Aランクの戦士として培った長年の経験と、弟子である瑞希と何度も模擬戦を重ねた記憶が、ガルドの肉体を自動で動かしている。

 つまり、グラニアにいた頃のままの「ガルドに教わった技術」で戦っている限り、師匠であるガルドの壁は絶対に超えられない。


(なら……見せるしかないわよね、ガルド先輩)


 瑞希は大きく後方へ跳び退き、小剣を逆手に構え直した。

 その瞳に、強い光が宿る。


(先輩に送り出してもらってから、私が冬夜やみんなと一緒に死線を越えて掴み取った……『今の私の力』を!)


 瑞希はあえて姿を消さず、正面からガルドへと駆け出した。

 ステップを踏む足運びは、かつてグラニアでガルドから最初に教わった、基本に忠実な死角への回り込み。


「『翠嵐・大旋風』……ッ!!」


 ガルドの肉体が、その「見慣れた弟子の歩法」に即座に反応した。

 瑞希が回り込もうとした右斜め前の空間を先読みし、翡翠色の竜巻を纏った大斧が、逃げ場のないフルスイングで横薙ぎに振るわれる。


 普通に踏み込めば、身体ごと真っ二つに吹き飛ばされるタイミング。

 石柱の上の朋美が「もらったわ!」と歓喜の声を上げた、その瞬間だった。


「――【次元の刺突(ディメンション・スラスト)】!!」


 瑞希が踏み込んだ足元の空間が、グニャリと歪んだ。

 ただの歩法ではない。空間そのものに干渉し、距離と軌道を強引にねじ曲げる『空間技』。

 ガルドの大斧が巻き起こした暴風の刃が、瑞希の残像を斬り裂いて空を切る。本来なら大斧の軌道上にいたはずの瑞希の身体は、空間の歪みをすり抜け、まるで瞬間移動したかのようにガルドの懐――大斧の柄の内側へとゼロ距離で到達していた。


「なっ……!? 斧を、すり抜けた……!?」


 朋美が驚愕に目を見開く。

 歩法の見切りがいかに完璧であろうと、空間そのものを飛び越える次元干渉の技までは、ガルドの本能も対応できない。


 大振りの後で完全に無防備となったガルドの懐。

 瑞希は師匠の屈強な肉体を傷つけることなく、その首筋に深く食い込んだ黒紫の支配糸だけを見据え、小剣に空間切断の魔力を集中させた。


「これで終わりよ、ガルド先輩! 目を覚まして――【領域の切断(テリトリー・ブレイク)】ッ!!」


 ヒュン、と空間そのものを切り裂く澄んだ音が響いた。

 瑞希の小剣の刃は、ガルドの皮膚には一切触れず、彼の魔力回路と朋美の黒紫の糸が接続されている「空間の領域」だけをピンポイントで断ち切った。


 パァンッ!!

 ガラスが砕けるような音と共に、ガルドの首筋から黒紫の糸が根元から弾け飛び、黒い霧となって消滅する。


「う、ぐ……あ……?」


 大斧が地面に落ち、ズシンと重たい音を立てた。

 ガルドの巨体から禍々しい魔力が抜け落ち、前のめりに倒れ込んでくる。瑞希は小剣を鞘に収め、倒れてきたガルドの大きな身体を両腕で必死に受け止めた。


「ガルド先輩! しっかりしてください、ガルド先輩!」


 瑞希の呼びかけに、ガルドの瞼がわずかに揺れた。

 濁りが消えた彼の瞳が、自分を支えている少女の顔を捉える。


「……みず、き……か……?」


 かすれた、けれど紛れもなくあの頃の温かい声だった。

 ガルドは自分の首筋と、目の前で凛と立つ瑞希の顔を見比べ、すべてを察したように小さく息を吐いた。


「……すまねえな、格好悪ぃところを見せちまった……。だが……見事な太刀筋だったぜ。……強くなったな、瑞希……」


「ガルド先輩……っ!」


 それだけを言い残し、ガルドは安心したように目を閉じて、深い眠りへと落ちていった。

 瑞希は恩師の身体をそっと地面に寝かせると、込み上げる涙をぐっと拭い、再び小剣を抜いて立ち上がった。


 そこへ、レイヴンとオルガを無力化した冬夜、悠希、夏芽、莉子の四人が駆け寄ってくる。


「瑞希! こっちの二人も糸を切って眠らせたぞ!」

「うん、ありがとう! ガルド先輩も、もう大丈夫よ!」


 五人が広場の中心で再び合流し、石柱の上を見据える。

 そこでは、自慢のAランクの傀儡三人をすべて無傷で奪い返された朋美が、信じられないものを見るように呆然と立ち尽くし――やがて、その美しい顔を激しい怒りと狂気で真っ赤に染め上げていた。


「う、嘘よ……嘘よ嘘よ!! Aランクを三人も用意したのに……私の最高のお人形たちを、また壊したのね……ッ!!」


 ビリビリと大気が震え、朋美の全身から、これまでとは比較にならないほどの黒紫の魔力と無数の糸が噴き出し始める。

 恩師たちを救い出し、すべての障害を取り除いた『アニマの器』の五人と、追い詰められた執着の蜘蛛との、最後の戦いが始まろうとしていた。


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