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Re:incarnation of Fate   作者: ヴィシュヌ
1章:ようこそ異世界へ

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シーン4:初めての殺人

「恭くん、聞いて! 今度の研修ツアー、ついに私がメインでマイク握ることになったんだから!」


数日前、誇らしげに報告したときの自分の声を、美憂は悪夢の中で思い出していた。

新人バスガイドとして憧れの職につき、ようやく任された初めての大役。恋人の神崎恭に「すごいだろ」と得意気に見せたあの笑顔が、遠い過去のように霞んでいく。


恭はいつもの無愛想な顔で「無理すんなよ」と笑っていたけれど、心から喜んでくれているのは痛いほど伝わっていた。



なのに――それなのに、どうしてこんなことになっているのだろう。


「……う、あ……っ……」


山道のカーブで横転し、大きく潰れた高速バスの車内。

ガソリンと鉄、そして鮮血の匂いが充満する凄惨な現場で、美憂は途切れそうな意識をどうにか繋ぎ止めていた。


ひしゃげた天井、粉々になった窓ガラス。乗客たちの悲鳴はいつの間にか途絶え、不気味な静寂と、掠れた呻き声だけが残されている。


(なんで……私、ただ……ガイドとして、みんなを無事に送り届けるはずだったのに……)


自分自身を見下ろせば、意識は朦朧としているが奇跡的というか、不気味なほどに無傷だった。


服が少し汚れ、擦り傷が数箇所ある程度。神フィストから賜った【刈り取る者】の能力が、所有者である美憂の肉体を無意識のうちに庇い、致命的な衝撃から守り切ってしまったのだ。


(……あいつの……恭くんのせいじゃないの、これ……?)


ふと、恋人の顔が脳裏をよぎる。

車掌として働く恭の周りでは、昔から理由のわからない人身事故や不運なトラブルが頻発していた。


恭自身が何かを呼び寄せているのか、それとも運命に嫌われているのか。「また事故かよ」と乾いた溜息を吐いていた彼の影が重なる。


(恭の不運が私にまで移ったっていうの……!? 初めての大舞台で……こんなのってないじゃない……っ!)


理不尽な事態に対する憤りと怨嗟が胸を焼く。だが、恨み言を吐き捨てようとした美憂の視界に、ひとつの小さな影が飛び込んできた。


潰れたシートの隙間、ガラス片の散らばる床に倒れていたのは、まだ幼さの残る黒髪の少女――佐々木夏芽だった。頭部から流れた血が黒髪を濡らし、その胸の上下は今にも止まろうとしている。


「あ……あ……っ」


少女の命の灯火が消えかけている。その瞬間、美憂の胸の奥で、ドクンと嫌な鼓動が跳ねた。


(あの子……死んじゃう……。私のガイドしたバスで……こんな子供が……)


理不尽な事故への怒りが、瞬時に冷徹な覚悟へと上書きされる。美憂は膝を突き、震える指先で夏芽の冷たくなりかけた頬に触れた。


(……ごめんなさい。でも、私は……死なせたくない。それに、あの悪魔から家族を取り戻すためなら……!)


美憂は自身の胸元に深く手を当てた。溢れだしたのは、不気味で眩い黒銀の光。

現れたのは、身の丈を超える長柄と、禍々しい三日月型の刃を持つ神禍の大鎌――【刈り取る者(Reaper)】。



死の淵にある人間の魂を刈り取り、自らの魂と『バイパス』を繋ぐ残酷な神器。


「大丈夫……死なせはしない。この理不尽な世界の理の外側へ……私が逃がしてあげるから」


美憂は大鎌を静かに振り下ろした。

刃が夏芽の胸をかすめた瞬間、鮮血の代わりに澄み切った青白い光を放つ魂が刈り取られた。


その魂は美憂の胸へと吸い込まれ、彼女の体内に刻まれた『1つ目のバイパス』へと接続される。ズキン、と胸の奥で激しい異物感と痛みが走り、美憂は歯を食いしばって耐えた。

直後、空間が円状に歪み、バイパスを渡った夏芽の魂は現実世界から消失。


鏡像世界「ミラージュ・エデン」の空へと弾き飛ばされていった。


これで、一人目。

「待っていて。お父さん……お母さん、亜夢……。絶対にあなたたちの仇は取ってみせるから……」


美憂は立ち上がり、大鎌を消去すると、周囲に転がる乗客たちの死体を見渡した。


新人ガイドとしての初仕事で起きた最悪の惨劇。だが、自分だけが無傷で生き残り、この能力を初めて使ってしまった以上、もう引き返せない。


血と煙の煙る車内で、美憂は冷酷な復讐者の顔を覆い隠すように深く息を吐き、救助を呼ぶための偽りの悲鳴をあげ始めた。


挿絵(By みてみん)



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