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Re:incarnation of Fate   作者: ヴィシュヌ
3章:首都ルミナス

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シーン16:そして始まる物語

旧魔導領域ネルガルの、深く暗い森の奥。


生臭い血の匂いが漂う汚泥の上で、巨大な蛇の尾が歓喜に打ち震えるようにうねっていた。


「あはは……ふふふ……っ!」


伊藤南は、引き裂いた魔獣の肉を長い舌で舐め上げながら、恍惚とした笑い声を漏らした。人間の姿を捨て、ラミアとしての冷血な本能に完全に飲み込まれた彼女の瞳孔は、縦に細くひび割れている。


「先生……松岡先生……。私、こんなに強くなったの。もう誰にも邪魔なんてさせない……っ」


血に濡れた鱗を月光に光らせながら、南は南の空――松岡がいるかもしれないまだ見ぬ方角へと、狂気に満ちた視線を向ける。


「待っていてね、先生。あなたを見つけ出して、私のこの長い身体で、骨の髄まで愛してあげるから……!」


愛と憎悪がドロドロに溶け合ったおぞましい執着が、暗い森に響き渡った。



◆



同時刻、中央聖導国ルミナス近郊の廃屋。


月明かりすら届かない深い闇の中で、佐伯朋美はただ一人、自らの指先から溢れ出す漆黒の糸を編み続けていた。


「……瑞希。ああ、私の可愛い瑞希」


双子のハーフエルヴンを操っていた糸を断ち切られた怒りは、すでに彼女の中で極限まで研ぎ澄まされた冷たい殺意と支配欲へと昇華されていた。


「新しいお友達が、あなたを私から遠ざけるのね。……なら、次はもっと素敵な網を用意してあげる」


朋美の指先から放たれた無数の黒い糸が、廃屋の床や壁を突き破り、地中深くに潜り込んで四方八方へと広がっていく。


「邪魔な虫たちを全部すり潰して、あなたを完璧な私だけのお人形にしてあげるわ。……絶対に、逃がさない」


可憐な顔に浮かぶ、底知れぬ狂気。執着の蜘蛛は、獲物(アニマの器)を絡め取るため、密かに、そして広大にその絶望の網を張り巡らせ始めていた。



◆



ルミナスの地下深層。


瓦礫で塞がれた禁書庫の前に立つ『白の執行者』クロムウェルは、冷徹な瞳で手元の通信用魔導具を起動していた。


「……ターゲットは五名。雷炎の義手を持つ男、フェリシア族、人間の女、増して双子のハーフエルヴン」


無機質な声で、彼は教団の暗殺部隊のネットワークへ全手配を流す。


「奴らは星の真理に触れた。我が教団の威信にかけて、一人残らず塵へ還せ。……隣国の商業都市アルディシア方面へ向かう可能性が高い。網を張れ」


『――御意』


クロムウェルが通信を切り、静かに音叉を懐に収める。教団の容赦なき絶対の刃が、冬夜たちを排除すべく静かに動き出した。



◆



一方、ルミナスから遥か遠く離れた、鋼鉄機導国ガルガニアの国境に広がる荒涼たる森。


ルミナスの地下へ帰還すべく歩みを進めていた松岡雅紀は、月明かりの下で足を止め、目の前の「芸術的な惨状」に感嘆の息を漏らしていた。


「ほう……これは素晴らしい。一体どんな強大な魔獣同士が殺し合ったのかと思ったが……」


木々はなぎ倒され、周囲には数え切れないほどの魔獣の死体が散乱している。巨大な顎でミンチのようにすり潰されたような痕跡と、鋭利な刃物で細胞ごと両断されたような異常な切断面。


その血の海の中心に立っていたのは、魔獣ではなく――二人の「人間」だった。


赤黒い陽炎を放つ血塗れの包丁を握りしめ、獲物を威嚇する獣のように肩で息をする女(玲奈)。そして、彼女の背後に隠れるように座り込み、感情の抜け落ちた虚ろな瞳でスケッチブックに黒いクレヨンを擦りつけている幼い少女(愛奈)。


「……男」


玲奈が、松岡の姿を認めるなり、どす黒い憎悪を孕んだ声で低く唸った。男という存在そのものへの恐怖と殺意が、彼女の持つ包丁の禍々しいオーラをさらに膨張させる。


「お前も……私たちを虐げようっていうの? なら……殺す。愛奈に近づく男は、私が全部殺す……ッ!」


一触即発の殺気。だが、松岡は一切の恐怖を見せることなく、むしろ恍惚とした笑みを浮かべて両腕を広げた。


「いやいや、警戒しないでいただきたい。私はただの教師ですよ」


原典世界(オリジン)での記憶と、彼女たちが放つ異質な気配。松岡は一目で、この母子が自分と同じように「あちらの世界」からやってきたイレギュラーであると看破していた。


「現世の泥の中で壊れてしまった芸術品……。あなたたちのような美しい狂気を、私は誰よりも愛している」


松岡の狂った眼差しと、玲奈の剥き出しの殺意、そして愛奈のスケッチブックから滲み出し始めたドロドロとした黒い泥。


最悪の猟奇殺人鬼と、現世の絶望から生まれた狂気の母子。全く異なる悪意と悪意が、異世界の深い森の中で予測不能の邂逅を果たしていた。



◆



――絡み合う悪意、追り来る狂気、そして世界の深淵に潜む神々の思惑。


すべてが自分たちの行く手を阻むように動き出していることなど、彼らは知る由もなかった。


夜が明け、地平線の彼方から眩い朝日が昇り始める。


ルミナス郊外の広大な街道を、5つの影が並んで歩いていた。


雷炎の義手を隠すように外套を羽織った冬夜。その隣で、新しい決意を胸に前を見据える夏芽、瑞希、そして悠希と莉子。


「……ルミナスの追手が来る前に、一気に国境を越えるぞ。目指すは商業都市連合アルディシアだ」


冬夜の声に、全員が力強く頷く。


「教団が隠していた『世界の真理』……そして、奪われた魂を救う方法。アルディシアの巨大な情報網なら、きっと次の手がかりが見つかるはずだ」


瑞希が小剣の柄を握りしめ、かつての気弱な自分を完全に振り払うように微笑む。


「ええ。もう、誰にも私たちの命を弄ばせはしない」


悠希と莉子も、互いの手を固く握り合いながら、自分たちを縛っていた教団の教義と過去のトラウマを乗り越える強い光を瞳に宿していた。


理不尽な運命に翻弄され、この異世界へ放り出された者たち。

だが、彼らはもう孤独ではない。『アニマの器』という断ち切れぬ絆が、彼らを繋いでいる。


「行こう。俺たちの手で、この世界の理(ルール)を全部ひっくり返す。」


冬夜の力強い言葉とともに、5人は朝日に照らされた街道を、未知なる運命の交差点・商業都市アルディシアへ向けて、確かな足取りで歩み出したのだった。


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