↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Re:incarnation of Fate   作者: ヴィシュヌ
2章:新たな来訪者

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

28/101

シーン13:狂気の糸と蠢く影

「なぁ……ここ最近、セシリアちゃんを見かけないんだが、誰か知らないか?」


 ルークス村の簡易ギルド前で、年配の受付人が心配そうに周囲の冒険者へ問いかけていた。


「さあ……薬草摘みにでも出たきり戻らないんだろ? まさか深い森で凶暴な魔獣にでも遭ったんじゃ……」


「あんなに健気で、良い子だったのに……。無事だと良いんだが……」


 村人たちは皆、あたたかい善意と純粋な懸念から、消えた可憐な少女『セシリア』の無事を祈っていた。 だが――彼らが心配する少女の優しさなど、最初からこの世界のどこにも存在してはいなかったのだ。



 ◆



 3ヶ月前、ルークス村から北へ遠く離れた山林の暗がり。 村人たちの温かな心配など爪の垢ほども意に介さず、夜陰に紛れて速やかに村を去っていた朋美は、心地よさそうに身体を震わせて笑っていた。


(あの村でのごっこ遊びも、まあ悪くはなかったけれど……瑞希が見つかった今となっては、ただのゴミクズね)


 地下室で血の滲むような激痛に耐え、絶えず魔力をミリ単位で微調整し続けたあの時間。 不自然な肉体を隠し通すために重ねた泥臭い努力は、意図せず朋美に「桁違いの魔力容量」と「神業レベルの精密な魔力制御力」をもたらしていた。


(あの激痛と苦難は……すべて瑞希、あなたを完璧に私のお人形にするために与えられた試練だったのね……!)


 指先をふわりと掲げると、そこから肉眼では視認できないほど極細の黒紫色の糸が、生き物のように蠢きながら立ち上る。


 固有能力【執着の網】の応用。 ただ対象を物理的に絡め取り、捕縛するだけの糸ではない。地下室で培った極小の魔力操作によって、相手の皮膚や呼吸器官から直接体内に侵入させ、魔力回路と神経系に直接絡みつく『侵食の糸』。


「さあ……見せてちょうだい。私の新しい『お人形の糸』の力を……」


 朋美の眼下には、太い鉄の鎖で崖の岩肌に繋ぎ止められた、体長数メートルを超える巨大な魔獣――剛殻暴竜が組み伏せられていた。


 朋美が指先を滑らせると、数千本もの見えない黒紫の糸が、暴竜の傷口や毛穴からズブズブと体内に侵入していく。


『ガ……ッ!? グオォォォ……ッ!?』


 暴竜の瞳が、一瞬にして理性を失った血赤色へと染まる。 侵入した糸が暴竜の魔力器官を無理やりこじ開けて狂暴な魔力を脈動させ、神経を麻痺させて朋美の意志に従う肉体へと書き換えていく。


【マリオネットの呪い】


「すごい……! 意志も、痛覚も奪って、私の糸ひとつで何でも命令を聞く……! これなら、どんなに強い魔獣でも……人間でも、私のお人形にできるわ……!」


 朋美は歪んだ悦びで頬を赤らめ、うっとりとその惨劇を見つめた。



 ◆


 ――そして、現在。


 瑞希がギルドで積んだ実績や進路を予測し、北の中央聖導国首都ルミナス近郊の廃屋へと先回りしていた朋美は、指先から遠く伸ばした糸の先――遥か南の『アビス・ヴァレー』にいる暴竜の「視覚」を共有していた。


「あはっ……あははははっ! 見つけた……見つけたわ、瑞希……ッ!」


 暴竜の赤い瞳に映る、見間違えるはずもない愛しい少女の姿。 軽やかに身を躍らせ、小剣を構えて暴竜へ立ち向かう瑞希を目にした瞬間、朋美の全身を激しい興奮と歓喜の悪寒が駆け抜けた。


(可愛い……! 素敵よ瑞希! 私のいないところで、そんなに逞しくなっちゃって……ッ!)


 視界を共有する狂おしさと所有欲の昂ぶりに、朋美は呼吸を荒らげ、無意識のうちに指先へ全魔力を込め注ぎ込んでしまった。


「あ……やだ、私としたことが……興奮しすぎちゃった……」


 遠隔から送られすぎた過剰な黒紫の魔術が、アビス・ヴァレーの暴竜の体内でキャパシティを超えて暴走を始める。暴竜の肉体は内側から黒く爛れ、自滅するように狂暴化を増していった。


 だが、暴竜が悲鳴を上げて崩れ落ちる間際まで、朋美はその目を奪われていた。 瑞希を庇うように強大な炎と雷を放つ異形の腕の男(冬夜)と、鋭い追撃を見せる猫耳の少女(ルナ)。


 パチン、と糸が切れ、アビス・ヴァレーからの視覚情報が途絶える。


「ふふ……あははははっ! すごいじゃない、瑞希! 頼もしいお友達を作って、随分と強くなったのね……!」


 朋美は暗闇の中で胸を抱きかかえ、狂おしそうに体をよじらせた。 瑞希が自分以外の仲間を信頼し、楽しそうに戦っている事実。それが、朋美の歪んだ所有欲を最高潮に刺激する。


「でもね、瑞希……無駄よ。あなたがどれだけ強くなろうと、どんな仲間を増やそうと……私の『網』からは絶対に逃げられないわ」


 朋美はゆっくりと振り向いた。 廃屋の最も深い暗がり。そこには、月明かりすら届かない影の中に、じっと動かず佇む二つの人影があった。


 糸が手首や首元に幾重にも絡みつき、人形のように虚ろな瞳でただ朋美を見つめている、不気味な気配。


「待っていてね、瑞希……。もうすぐ、最高の舞台で再会できるわ。その時は……その新しいお友達も一緒に、私だけの完璧なお人形にしてあげるから――」


 遥か南から近づいてくる獲物を待ちわびるように、朋美はおぞましくも可憐な笑みを闇に浮かべた。 運命の歯車は交錯し、瑞希たちを待ち受ける最大の試練となって、静かに、そして苛烈に研ぎ澄まされていくのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。