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Re:incarnation of Fate   作者: ヴィシュヌ
2章:新たな来訪者

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シーン9:商業都市連合アルディシアの閃光

 辺境樹海国グラニアの冒険者ギルド【緑翠の抱擁(シルヴァニア)】を旅立ってから数週間。 岡田瑞希は、他国を跨ぐ険しい道をたった一人で順調に踏破していた。


 道中、幾度となく強力な魔獣や野盗の奇襲に遭ったが、いまの瑞希に恐れはない。 半年間で培った冒険者としての直感と、ソロでランクBへと上り詰めた地力。そして何より、固有能力【透明な拒絶(ステルス・リジェクション)】の精度は、グラニアにいた頃とは比べものにならないほど研ぎ澄まされていた。


(ただ気配を消して隠れるだけじゃない……自分の身体、手にした小剣、投擲するナイフの軌道、さらには着地する足元の『接地面』の音まで能力の領域で遮断する……!)


 かつて現世で閉じこもるためだけに存在していたはずの力は、いまや誰よりも速く、誰にも知られずに敵の急所を穿つ、洗練されたソロ戦闘技術へと昇華されていたのだ。



 ◆



 グラニアから伸びる広大な街道を抜け、瑞希が辿り着いたのは世界中の物資と資金が集まる経済の中心地――【商業都市連合アルディシア】だった。


 巨大な石造りの城壁と、幾重にも連なる賑やかな市場。大通りには見たこともない豪華な馬車や多種多様な種族が行き交い、圧倒的な熱気と物流の活気に満ちあふれている。


 瑞希はまず、この都市の冒険者ギルド支部【黄金の天秤(メルカトル)】へと足を運んだ。旅の資金を稼ぐための討伐依頼と、何より「別の世界から来た人間」に関する情報を集めるためだ。


「いらっしゃい、お嬢さん。……ほう、その若さでグラニア発行のBランクプレートかい? 大したもんだな」


 受付のベテラン職員が、瑞希の差し出した鉄のプレートを見て感心したように目を丸くする。


「ありがとうございます。あの……実は、中央聖導国ルミナス方面へ向かいながら情報収集をしているのですが、何か気になる噂はありますか?」


 瑞希が尋ねると、受付の職員は顎をさすりながら声を潜めた。


「ルミナスかい? ああ、あそこはいま色々と話題に事欠かないぜ。……特に、ルミナスの領内に入ってすぐの場所にある『採掘と迷宮の街:黒曜の谷(アビス・ヴァレー)』周辺だな」


「黒曜の谷……アビス・ヴァレー……?」


 聞き慣れない響きに、瑞希は耳を澄ませた。


「ああ。ルミナスの中心にある巨大ダンジョンと地上を繋ぐ、炭鉱と迷宮の交易都市だ。危険な魔獣やダンジョン素材を求めて凄腕が集まる場所なんだが……噂じゃ、そこに『アニマの器』を名乗る二人組の探索者が現れて、目覚ましい成果を上げてるらしい」


 その言葉を聞いた瞬間、瑞希の胸が大きく跳ね上がった。


「アニマの器……! ガルド先輩が言っていた……!」


「おや、知ってるのかい? 片方は異形の左腕から恐ろしい雷と炎を打ち振るう魔法戦士の青年。もう片方は、清らかな水と土の魔法で彼を支える、フェリシア族の猫耳の少女だ。二人はギルド総本部【オルディナ】からも注目されていてな、今はアビス・ヴァレーのダンジョン前線を拠点に活動しているそうだ」


(雷炎の戦士……! 水と土を使う猫耳の女の子……! 本当にいたんだ……同じ『別の世界』から来た仲間たちが……!)


 噂だけだった存在が、明確な「アビス・ヴァレー」という場所とともに手繰り寄せられた。胸の奥から熱い感情が溢れ出していく。



 ◆


 情報を得た瑞希がギルドを後にし、アルディシア郊外を通る主要街道を進んでいた時のことだった。


「ひ、ひぃぃぃっ!? た、助けてくれぇーッ!」


 悲痛な叫び声が響き渡る。 見れば、アルディシアへ向かう大型商隊の馬車が、街道の脇から突如出現した数頭の大型凶暴魔獣――『鋼鉄熊(アイアン・ベア)』の群れに襲われ、壊滅寸前に追い込まれていた。


「ダメだ! 奴らの皮が硬すぎる! 剣が通らん!」


「護衛兵が倒された! 逃げろーッ!」


 混乱と絶望が支配する現場。 だが、そこへ足音ひとつ立てずに近づく影があった。瑞希だ。


(助ける……! 私の力なら間に合う!)


 瑞希は深く息を吐き、意識を集中させた。



【透明な拒絶(ステルス・リジェクション)】――展開。


 瞬時に瑞希の姿、足音、匂い、そして纏う魔力の気配すらも世界から完全に消滅した。


 襲いかかる鋼鉄熊の群れに対し、瑞希は無音のまま空中へ躍り出る。 不可視のまま空中を舞い、手に握った数本の投擲ナイフに『領域遮断』を付与。ナイフそのものの気配と風切り音すら消し去った状態で、死角から同時に放つ。


 ――シュッ、という音すら聞こえない。


 死角から吸い込まれるように飛んだ不可視のナイフが、先頭の2頭の唯一の弱点――「眉間の装甲の隙間」を寸分の狂いもなく正確に打ち抜いた。


「ガ、アァァっ!?」


 何が起きたのか理解できず、突如として激痛に見舞われた2頭が体勢を崩して血を噴き出す。 そこへ、完全不可視の瑞希が目にも留まらぬ速度で滑り込んだ。地面を踏みしめる音すら存在しない。無空から繰り出された小剣の一撃が、残る個体の頸椎の隙間へと深く突き刺さる。


 間髪入れず、体勢を崩していた巨獣たちの隙へも影のように肉薄し、精密な一撃で息の根を止めていく。


「な……んだ!? 一体何が起きているんだ!?」


襲われていた護衛の冒険者たちが、驚愕で目を剥いた。


誰の姿も見えない。魔術の詠唱すら聞こえない。それなのに、自分たちを追い詰めていた凶悪な魔獣の群れが、次々と無空から出現した刃によって同時に倒され、あっという間に沈黙していくのだ。


 わずか数十秒。 群れをなしていた鋼鉄熊たちは、反撃の機会すら与えられないまま全滅した。


 瑞希は倒れた魔獣の巨躯から小剣を静かに引き抜き、安全を確認してから『透明な拒絶』を解除した。


何もない空間から、武器を構え直したひとりの少女がすっと姿を現す。


「……ふぅ。怪我はありませんか?」


「あ……あたたた、君は……!? たった一人であの魔獣の群れを……!?」


「姿も気配も完全に消えていたぞ……! 一体どんな神業なんだ……!?」


「あはは……ただの隠密が得意なBランク冒険者ですよ!」


 瑞希は少し照れくさそうに笑い、小剣を鞘へと収めた。



 ◆



 助けた商隊から溢れんばかりの感謝と礼金を受け取った瑞希は、いよいよ目的地へと向けて決意を新たにした。


 アルディシアを後にし、ルミナス国境の巨大な関所を潜り抜ける。 眼前に広がるのは、中央聖導国ルミナスの広大な大地だ。


(待っていてください……『アニマの器』の皆さん! アビス・ヴァレーで……絶対に追いついて見せますから!)


 同じ境遇を持ち、この世界で力強く生きているかもしれない仲間たちへ会うために――Bランク冒険者・岡田瑞希は、ついにルミナス領内へ入国し、佐々木兄妹が待つ『採掘と迷宮の街:黒曜の谷(アビス・ヴァレー)』を目指して足を踏み出すのだった。


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