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Re:incarnation of Fate   作者: ヴィシュヌ
2章:新たな来訪者

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19/99

シーン5:バスジャックの惨劇

秋晴れの穏やかな陽射しを切り裂くように、大型観光バスは山間の深緑を走り抜けていた。


「皆様、本日はツアーにご参加いただき、誠にありがとうございます。本日ガイドを務めさせていただきます、如月美憂と申します」


車内の前方に立ち、マイクを握る美憂の表情には、プロとしての清々しい笑顔があった。 後方のシートには、窓の外の景色を虚ろな瞳で見つめる佐伯朋美。その隣でかいがいしく世話を焼く伊藤南。そして車内でも一際強い存在感を放つ、洗練された大人の気品を纏った22歳の双子――藤原悠希と莉子。


それぞれの想いを乗せたバスが、山腹をくり抜いた真っ暗な長大トンネルへと足を踏み入れた、その時だった。


不意に車内の静寂を切り裂いて、冷ややかな靴音が響く。


「皆さん、静かに。席を立たないでください」


人気教師・松岡雅紀が、眼鏡を外しながらゆっくりと立ち上がっていた。その手に握られているのは、鈍く光る大型のサバイバルナイフ。普段の温厚な面影は跡形もなく消え去り、瞳には狂気的な欲望が爛々とギラついていた。


「ま、松岡先生……? 何を……」


「黙りなさい、伊藤さん。君のまとわりつくような視線には前々から反吐が出ていたんだ」


南を冷酷に一蹴した松岡の視線は、ただ一点――恐怖に顔を強張らせる藤原姉妹だけに注がれていた。


「悠希ちゃん、莉子ちゃん……ようやくこの日が来たよ。中学の頃から待ち続けていたんだ。君たちが最も美しく、甘やかに熟すこの瞬間をね。私の完璧な死体コレクションとして、永久に保存してあげる」


「狂ってる……!」


悠希が莉子を背中に庇いながら立ち上がるが、松岡は心底愉しそうにナイフの刃を舐めた。 乗客たちがパニックに陥り、悲鳴が充満する車内。その恐怖の渦中へ、傷ついた客を守るべく美憂が果敢に飛び出した。


「やめてください! お客様には指一本触れさせません!」


「鬱陶しいな、ただのバスガイドが!」


松岡の刃が容赦なく美憂の脇腹を深く穿つ。 鮮血がシートを真っ赤に染め上げ、美憂はその場に崩れ落ちた。腹部を焼くような激痛。死への恐怖。しかし、客を護らねばならないという極限の使命感が、彼女の血脈に眠っていた潜在能力――【刈り取る者】の刻印を呼び覚ます。


「……う、あぁぁぁっ!!」


覚醒した美憂の衝撃波を受け、動揺した松岡は咄嗟に運転席へと躍り出ると、運転手の首筋をナイフで深く切り裂いた。


「ひぐっ……!?」

絶命した運転手の体がハンドルへと覆いかぶさり、制御を失った巨躯が猛スピードで傾いていく。そのまま側壁へ激突し、車体が宙へ浮き上がり横転しかけた――まさにその絶体絶命の瞬間だった。


『――刻よ、止まれ』


松岡の固有能力――時間停止。 原典世界における上限である「3秒間」、世界からすべての音が消え去り、横転しかけて傾くバスの車内も無重力のように静止する。


松岡は嘲笑を浮かべると、横転の衝撃から自分が逃げる時間を稼ぎつつ、邪魔な美憂の背中へと容赦なくナイフを深く突き立てた。そして静止した時間の中で悠々と窓を蹴り破り、脱出を図る。


時間が動き出した瞬間――


ガシャァァァァァンッ――!!!!


横転したバスがトンネルの壁面へ激しく激突し、凄惨な音を立てて車体がつぶれた。 後方座席にいた伊藤南は、砕け散った窓から勢いよく車外のコンクリート床へと放り出される。


背中と腹部を刺され、横転の衝撃で叩きつけられた美憂は、血の海の中で薄れゆく意識に抗っていた。 しかしその耳に届いたのは、潰れたバスの下敷きになった人々から上がる絶望的な悲鳴だった。


ひしゃげた鉄フレームと座席に重く押し潰された朋美、悠希、莉子の3人は、骨を砕かれ、内臓を潰される筆舌に尽くしがたい痛みに悶絶していた。


「あ……がっ……助け……て……痛い……熱いよぉ……っ!」


もう助からない。レスキューが来る前に、彼女たちはこの拷問のような痛みに狂いながら絶命していく。

美憂は血の海を這いながら、激痛に悶える彼女たちのもとへ寄り添った。


(お願い……もう苦しまないで……! 今、楽にしてあげますから……っ!)


美憂は涙を流しながら、最後の力を振り絞って【刈り取る者】の力を解放した。


透明な空間の刃が、3人の体を優しく撫でる。 次の瞬間、激痛に歪んでいた彼女たちの表情からすっと苦痛が引き、まるで深い眠りにつくかのように穏やかな静寂が訪れた。苦しむ客を死の激痛から救うための、悲痛な安楽死――。


だが――その瞬間だった。


「朋美……先輩……?」


外へ投げ出され、奇跡的に擦り傷程度で済んでいた伊藤南が、膝を震わせながら這い上がってきた。

煙の向こう側、南の目に飛び込んできたのは――背中と腹から血を流した美憂が、倒れている朋美や双子に向けて手をかざし、彼女たちが一瞬で動かなくなる光景だった。


「あ……あぁ……美憂さんが……朋美先輩たちを……殺したぁぁぁっ!!」


「ち……違う……私は……この人たちを……っ」


かすれる声で助けを求め、手を伸ばす美憂。しかし、目の前の惨状に正気を失った南には、その手が自分をも殺めんとする殺人鬼の手にしか見えなかった。


「来ないで! 狂人! 殺人鬼ぃぃぃっ!!」

南は金切り声を上げながらスマートフォンを取り出し、震える指で通報ボタンを押すと、振り向きもせず闇の中へ逃げ出していった。


遠くで聞こえ始めるパトカーのサイレン。 満身創痍の体で血の海に残された美憂は、人を救おうとした代償として「大量殺人犯」の濡れ衣を着せられ、指名手配犯として暗闇へと姿を消すしかなかった。


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