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Re:incarnation of Fate   作者: ヴィシュヌ
1章:ようこそ異世界へ

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シーン10:歪な面影、そして・・

『黒曜の谷(アビス・ヴァレー)』の深層へと繋がる洞窟の片隅。 小さな焚き火がパチパチと爆ぜ、冷たく暗い岩肌をオレンジ色に染めていた。


「……んっ」

冬夜は浅い吐息を漏らし、背中を岩壁に預けた。 左肩から先――肉体を失い、紫電と赤熱の火炎で強引に構築された魔力の腕。その過熱した異形から立ち上る熱気が、呼吸を荒くさせている。


「冬夜さん、動かないでください。今、冷やしますから……」


隣に座る夏芽(ルナ)が、真剣な眼差しで両手をかざした。 【水】の清らかな魔力が、冬夜の左肩から胸元にかけて染み込み、焼き焦げた皮膚と歪む痛みを優しく包み込んでいく。


「……すまない。助かる」


低く呟いた冬夜の声には、三ヶ月前のような刺々しい殺気は影を潜めていた。 冬夜が前衛で凄まじい雷炎を振るい、夏芽が【土】の防壁で死角を補い、【水】で傷と過熱を癒やす。一切の言葉を交わさずとも、互いの呼吸や間合いが驚くほど完璧に噛み合う二人。


冬夜にとって、初めはただの【応急処置用のヒーラー】だったはずのフェリシア族の少女は、いまや最も信頼の置ける唯一の相棒となっていた。


「冬夜さんは……いつも無茶ばかりします。そんなに急いで上層に行かなくても……」


夏芽は甲斐甲斐しく手ぬぐいを水で濡らし、冬夜の額の汗を拭いながら、小声で窘めた。


「急ぐさ。……僕には時間がない」


冬夜は右目の熾火を静かに揺らし、夜空の見える洞穴の隙間を見上げた。


「夏芽があの惨痛なバス事故に巻き込まれてから……どれだけの月日が流れたか分からない。あいつが命を落とし、この狂った死後の世界に落ちてしまったのなら……一刻も早く見つけなきゃいけないんだ。あいつが一人でここでどうなっているか……考えたくもない」


妹の命と死後を案じる冬夜の横顔。 夏芽は胸をぎゅっと締め付けられた。


(お兄ちゃんは……私があの事故で死んで、この世界に落ちたと思って……だから自分を追い詰めて探してくれているんだ……)


「冬夜さんの妹さんは……どんな人だったんですか?」


夏芽は必死に声を震わせないよう、無邪気な問いを装った。 冬夜は少し意外そうに目を細め、口元にかすかな、本当に愛おしそうな苦笑を浮かべた。


「少しおせっかいで、泣き虫で……僕の顔色ばかり気にしているようなやつだった。……不思議なんだ。お前と一緒にいると、ときどき元の世界で夏芽と過ごしていた頃の感覚を思い出す。お前が作るスープの匂いも、水を編む手つきも……どこかあいつに似ているんだ」


「そ、それは……気のせいです……っ!」


動揺する夏芽が言葉を返そうとした――その瞬間。


グラァァァッ!!


洞窟の天井が激しく崩落し、暗闇から巨大な黒影が雪崩れ込んできた。 【奇襲種・影爪獣】――光を嫌い、獲物の隙を突いて死角から襲い来る中層の凶悪な魔物。数頭の群れが一斉に夏芽の背後へと躍り出る。


「ルナ、伏せろ――っ!」


冬夜が即座に割り込み、代用の左腕から紫電を爆発させる。 同時に、背後で恐怖に煽られた夏芽は【土壁】を展開しながら、反射的に「冬夜の背中にすがりつき、服の裾をギュッと強く握りしめる」という行動に出た。

それは幼い頃から、雷や恐怖に怯えた際に咄嗟に出てしまう防衛本能。冬夜の背中に隠れながら服を掴んでいた『妹の癖』そのものだった。


「な……っ!?」


背中に伝わる華奢な身体の震えと、服を引っ張る独特の力の込め方。 振り向きざまに散る岩屑の中、夏芽が乱した猫耳の隙間――右耳の付け根にある、小さな黒いホクロが冬夜の視界に飛び込んだ。


さらに、守られながらも冬夜の雷炎が最も放ちやすい間合いへと、無意識に足を引いて死角を譲る足さばき。


「が、アァァっ!」


冬夜の雷炎が最後の魔物を焼き尽くすが、彼の意識はもう戦闘にはなかった。 呼吸が止まり、十五年間の記憶が一気に脳裏を駆け巡る。


(この裾を掴む手……このホクロ……! 偶然か?いや、何よりこの背中への隠れ方……っ!!)


ただの「現地人の少女」であるはずのルナ。 だが、いま自分の背中に隠れ、震えながら服を握りしめているその挙動は、他人のものではない。十五年間共に育った妹――「佐々木夏芽」そのものの魂の反応だった。


静まり返る洞窟。 冬夜の服の裾を握りしめたまま、肩で息をする夏芽(ルナ)が、恐る恐る顔を上げた。


「冬夜さん……怪我は……あ……」


夏芽の言葉が凍りついた。 振り返った冬夜の瞳には、赤熱の火炎とともに、激しい動揺と恐ろしいほどの悲壮感が宿っていた。


「……お前」


冬夜は震える右手で、泥に汚れた夏芽の頬をそっと包み込んだ。 至近距離で交わる視線。動揺した時に、左眉をほんの少し引き上げる夏芽の癖が、隠しようもなく露わになる。


「僕の裾を掴むその手……右耳のホクロ……。そんな癖をするやつを、僕は一人しか知らない……」


「と、冬夜さん……何言ってるの……っ」


首を振る夏芽の目から、溢れ出た涙が冬夜の指先を濡らす。 冬夜は自分の指に触れるその温もりと涙を固まったように見つめ、声をかすませた。


「嘘だろ……。ルナ、お前……」


息が詰まるほどの静寂の中、冬夜の瞳が激しく揺れる。 すがりつく指の強さも、震える肩の感触も、十五年間ずっと隣で守ってきた妹そのものだった。


「お前……夏芽、なのか……?」


問いかける声はどこまでも優しく、けれど今にも崩れ落ちそうなほど弱く、洞窟の暗闇へと静かに溶けていった。


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