02 社畜、異世界に立つ
瞼を貫くほどの光が収まるのを待って、ツトムは恐る恐る目を開けた。
世界が一変していた。
透き通るような一面の青空、青々とした牧草が生い茂った大地。
なだらかな丘が点在する草原に、ツトムは立っていた。
地平線の向こうまで、建物も人間も見えない。
日本にこんな土地は存在しないだろう。
ツトムは異世界に来たことを実感した。
つやつやした牧草の上に、腰を下ろす。
そして、美しい光景を見つめたまま、動かなかった。
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5時間後、ツトムを人非ざる声が呼んだ。
『あのー、田中勉さん? 何をしていらっしゃるんですか?』
ツトムがゆっくりと振り返ると女神さまがいた。
正確には、真っ暗な空間で会った女神さまとは容姿が異なっていた。
手の平に乗るほどの小ささで、2頭身になっている。服装は同じだったがずいぶん印象が違う。まるで、どこかのマスコットキャラだ。
背中から妖精のような羽を生やし、宙を飛んでいる。
「……なにも」
『でしょうね!』
マスコットキャラ造形の女神さまは腰に手を当てて、怒っているらしい。
『いつまでここにいるつもりです? 早く冒険に出ましょうよ! もう太陽が90°くらい移動しちゃってますよ!』
「ああ……太陽って動くんだっけ……忘れてた」
『朝から晩まで会社にいたから⁉』
「こうして太陽を見るのはいつぶりか……」
『地下室に監禁でもされてたんですか⁉ そんなことより、なんでいつまでもじっとしているんですか!』
「……ウィンドウが開くのを待っている」
『うぃんどう?』
女神さまはきょとんとした表情で固まった。
やがてツトムの発言の意味を理解した。
『ここはパソコンのデスクトップ画面じゃありません! こんな美しい風景を見て、パソコンを思い出すのはいろいろとヤバいですよ!』
「えー……日本人の9割くらいは僕と同じ反応だと思うけどなあ……ということは、僕は過労死した結果、パソコン内に転生したのではないと?」
『違います! 過労死した人をパソコン内に転生させるほど、神は非情ではありません! どんな地獄ですかっ!』
「じゃあ、ここはどこ?」
『夢と希望に溢れた中世ヨーロッパ風異世界です! 心躍る冒険や人間らしい営みが待っている世界です!』
「ふーん……」
ツトムは興味なさげに呟く。
立ち上がる気配はない。
女神さまはぷんぷん怒気を発した。
『さあ! 立って立って! 街に行きましょう!』
「でも……」
『このまま夜になったら、魔物や人食いオオカミに骨まで食い尽くされますよ!』
「……ここは夢と希望に溢れた異世界だったのでは……?」
女神さまに脅された――もとい、励まされたツトムは、立ち上がり、地平線の向こうへ歩き出した。




