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02 社畜、異世界に立つ

 瞼(まぶた)を貫(つらぬ)くほどの光が収まるのを待って、ツトムは恐る恐る目を開けた。


 世界が一変していた。

 透き通るような一面の青空、青々とした牧草が生い茂った大地。

 なだらかな丘が点在する草原に、ツトムは立っていた。

 地平線の向こうまで、建物も人間も見えない。

 日本にこんな土地は存在しないだろう。

 ツトムは異世界に来たことを実感した。

 つやつやした牧草の上に、腰を下ろす。

 そして、美しい光景を見つめたまま、動かなかった。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


 5時間後、ツトムを人非(ひとあら)ざる声が呼んだ。


『あのー、田中勉さん? 何をしていらっしゃるんですか?』

 ツトムがゆっくりと振り返ると女神さまがいた。

 正確には、真っ暗な空間で会った女神さまとは容姿が異なっていた。

 手の平に乗るほどの小ささで、2頭身になっている。服装は同じだったがずいぶん印象が違う。まるで、どこかのマスコットキャラだ。

 背中から妖精のような羽を生やし、宙を飛んでいる。


「……なにも」

『でしょうね!』

 マスコットキャラ造形の女神さまは腰に手を当てて、怒っているらしい。


『いつまでここにいるつもりです? 早く冒険に出ましょうよ! もう太陽が90°くらい移動しちゃってますよ!』

「ああ……太陽って動くんだっけ……忘れてた」

『朝から晩まで会社にいたから⁉』

「こうして太陽を見るのはいつぶりか……」

『地下室に監禁でもされてたんですか⁉ そんなことより、なんでいつまでもじっとしているんですか!』


「……ウィンドウが開くのを待っている」

『うぃんどう?』

 女神さまはきょとんとした表情で固まった。

 やがてツトムの発言の意味を理解した。


『ここはパソコンのデスクトップ画面じゃありません! こんな美しい風景を見て、パソコンを思い出すのはいろいろとヤバいですよ!』

「えー……日本人の9割くらいは僕と同じ反応だと思うけどなあ……ということは、僕は過労死した結果、パソコン内に転生したのではないと?」

『違います! 過労死した人をパソコン内に転生させるほど、神は非情ではありません! どんな地獄ですかっ!』


「じゃあ、ここはどこ?」

『夢と希望に溢れた中世ヨーロッパ風異世界です! 心躍る冒険や人間らしい営(いとな)みが待っている世界です!』

「ふーん……」

 ツトムは興味なさげに呟(つぶや)く。

 立ち上がる気配はない。

 女神さまはぷんぷん怒気を発した。


『さあ! 立って立って! 街に行きましょう!』

「でも……」

『このまま夜になったら、魔物や人食いオオカミに骨まで食い尽くされますよ!』

「……ここは夢と希望に溢(あふ)れた異世界だったのでは……?」

 女神さまに脅された――もとい、励(はげ)まされたツトムは、立ち上がり、地平線の向こうへ歩き出した。


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