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16 社畜、傷を癒す

 戦いは終わった。

 ゴブリンを全滅させ、長であるホブゴブリンも倒した。彼らはみな『核』を残し、消滅した。

 体から緊張が抜けていく。


「痛だだだだ……」

 同時に、体中から痛みを感じ始めた。

「もう……無茶な戦い方して……顔面が滅茶苦茶腫(は)れてきましたよ」

 テラーラの言う通り、顔面が痛み以外の感覚が失われている。

 自分では見えないが、ひどい腫れ方をしているのだろうと思う。この場に鏡があったとしても、見る勇気はない。


「殴り合いの喧嘩でさえしたことなかったんだ……あれでも上出来だろう」

 ツトムは立っていることもできず、地面にへたり込む。

「それにしても、少しは手伝ってくれても良かったんじゃないか?」

「無理ですよ。神通力カットされてるし、わたくしは戦闘タイプの神じゃないんですから。それに、わたくしはこういう生物が少ない環境では大幅に力が失われるんですから」

「そういう重要情報は先に言ってくれ……ていうか、ゴブリンたちを倒してた種は?」

「ヤドリギの種ですか? あれは飲み込ませなきゃ寄生させられません。ホブゴブリンは結構警戒してましたから、飲み込ませることはできませんでしたよ」

「なるほど……あれは魔物との戦闘より、人間相手の暗殺向きの能力だったのか……」

「ありがたい豊穣の能力を、暗殺向きだなんて言わないでください! そんなことより、治癒してあげますよ」

 テラーラは手の中から別の種を取り出し、地面に指で押し込む。

 すると、固い地面だというのに、種が芽吹き、根を張った。

 見る見るうちに成長し、高さ30センチほどの草が生える。


「……確かに落ち着いてみると神秘的な能力だな」

「そうでしょう、そうでしょう!」

 テラーラは嬉しそうに、中腰になる。

 葉っぱを1枚ちぎる。

 テラーラはそれを口に含んだ。


「もぐもぐもぐもぐ……」

 咀嚼する。

「ぺっ!」


 べちょ!


 テラーラはクリーム状になった葉っぱを、ツトムの顔面に吐き捨てた。

「汚な! なにしやがる!」

「治癒だって言ってるでしょう⁉ この薬草を患部に塗るんですよ!」

「もっと神秘的なやり方があるだろう⁉」

「神秘的でしょうが! ゴッドマウスに含み、ゴッドトゥースで細切れにして、ゴッドタンで混ぜ合わせるんですから!」

「ゴッドってつけりゃいいとでも⁉」

「うるさいなぁ……地球でも昔は乙女の口で酒を造っていたんですよ! 神聖な儀式なんです!」

「くそう……草臭いなあ……」

 口論は無駄と悟り、ツトムは黙ってされるがままとなった。

 テラーラは次々と葉っぱと唾液のブレンドを、ツトムの顔面に塗っていく。

 驚くほど急速に痛みが消えていった。


「おお……これが回復魔法の力か……」

 普通なら全治2週間はかかりそうな傷が、跡形もなく消えていた。

「感動しましたか?」

 テラーラがえっへんと胸を張る。

「感動させたいんなら、魔法のかけ方を配慮して欲しかった……」

「何か言いました⁉ お礼は⁉」

「……ご対応のほど、ありがとうございます。今後も、よろしくお願いいたします」

「そんなビジネスメールみたいなお礼ならいりません! まったく……」

 ぷりぷり起こりながら、テラーラが立ち上がった。


「さあ、もう立てるでしょう? ゴブリンの巣とはいえ、わたしたちはダンジョン攻略に成功しました。これから、お楽しみタイムですよ!」

 ツトムも立ち上がる。

「お楽しみタイム……? ああ……略奪か」

「そんな言い方しないでください! せめて拾得物隠匿と言ってください!」

「そっちの方が生々しくて嫌だと思うがな……」

 要は、お宝を探そうというのだ。

 ダンジョンの最奥部には貴重なアイテムが眠っているのが、RPGでの常識ではある。


「流石にわかりやすい宝箱は置いてないな」

「所詮ゴブリンですからね……悪魔とかリッチーとかは1番大事なアイテムを大仰に置いていることがありますよ。でも、ゴブリンも人間から奪ったものを巣に持ち込む習性がありますから、意外に高価なものがあるかも」

「ふうん……」

 テラーラと2人で洞窟の最深部を物色する。

 とはいうものの、棚とか机があるわけではないので、地面を見ながら徘徊するだけだ。

「ん?」

 視界の端にキラッと光るものがあった。


「これは……」

 金色に輝く円形の板。

「金貨か!」

「あ、本当ですね……王国発行のちゃんとした金貨です」

 テラーラもツトムが拾い上げた金貨を覗き込む。

「金貨か……地球基準なら、1枚で大卒初任給くらいの価値があるな……」

「へえ……そうなんですか」

「うむ……僕がこの世界に来る前なら、40万円くらいか……」

「ほう」

「……日本の大卒初任給は20年以上前から、20万円くらいのままだがな……」

「……ダンジョン攻略を成し遂げてなお、日本への不満がなくなりませんか……」

 テラーラは深々と溜息を吐いたが、ぱっと顔を輝かせる。


「いろいろとツッコミどころはありましたが、無事クエスト成功です! しかも、成功報酬以上の成果ありです! 初クエストは大成功と言っていいんじゃないでしょうか⁉」

「いや……」

 喜んでいるテラーラに水を差すのは忍びないが、ツトムはまだ喜べなかった。


「まだ終わってない……」

「え?」

「まだ、僕にはやるべきことが残っている……」

「やるべきこと?」

 テラーラにはツトムの言っていることがまったくわからないらしい。

「あの村のために、やらなければならないんだ……」

 しかし、ツトムは確信を持って、告げた。

「まだ終わってない。今夜も護衛を続けるぞ。僕の読みが正しければ、今夜畑が襲われるはずだ」



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