14 社畜、討伐を決意する
「ふむ……初日は波乱なく終えそうだな」
「神の召喚が波乱なく……?」
ツトムは眩しい朝日に目を細め、テラーラはツトムへの不満で目を細めていた。
「神から賜った能力の初披露が、わたくしに対してって絶対におかしいでしょ」
「必要なことだったんだ」
「必要じゃないでしょ、あんなの! なにがゴッドハラスメントですか! いりませんよ、あんな罰則!」
「必要だ。神様から言い寄られただけで、奥さんから妬まれて呪いをかけられた娘や、予知能力をもらったけど同時に誰も自分の言葉を信じてもらえなくさせられた人を救うことができる」
「うっ!」
予想外の正論をぶつけられたテラーラは唇を噛みしめながらも、それ以上の反論を展開することはなかった。
世界中に伝わる神話には、神の気まぐれで不幸になった人間が結構いるのだ。
「ゴッハラの件はさておき、『神の就業規則集』は使えるな」
「え?」
「どうやら、『神の就業規則集』での給与は神通力で支払われるらしい。つまり、自前の魔力以外に、外付けの不思議パワーを行使できるということだ」
「わたくしは25パーセントカットされましたが?」
「それは懲戒処分だったからだ。福利厚生の項目を活用すれば、むしろ力を増幅できる。昨日説明してもらった魔力とは別の供給源だからな……相当有利なアドバンテージになるとみた」
「そうですか、よかったですね」
懲戒処分の件を根に持っているらしく、テラーラは素っ気ない。
少し躊躇いつつもツトムはある話題を切り出した。
「そこで相談なんだが……ゴブリンの巣を叩こうと思う」
「え?」
テラーラが仏頂面を脱ぎ捨て、ツトムに向き直る。
「1泊して気づいた。この村はものすごく貧しい」
「そうですね……」
「1週間畑を守り通したところで、ゴブリンの脅威が消え去るわけじゃない。村の近くにあるはずの巣を潰さない限り、この村は安心できない」
たかが仔馬の誕生で、心から喜べる純朴な村人たちの顔が思い浮かぶ。
「ツトムさん……」
「昼間はゴブリンが活動しないんだろう? だから、昼間にゴブリンの巣を探そうと思う。見つけたら……」
「夜は畑の護衛でしょう? ツトムさん寝られないじゃないですか」
「僕が日本でどんな生活をしてたか知っているだろう? 2徹や3徹なんて朝飯前さ」
「そんなことする必要ありません」
「やりたいんだ。テラーラには迷惑をかけない」
「そうじゃなくて、探す必要はありません」
「え?」
「ゴブリンの巣なら、どこにあるかわかります」
「どうして?」
「わたくしは豊穣の女神です。ゴブリンの巣なんて、樹木ネットワークにアクセスすれば、秒で見つけられます」
「樹木ネットワーク?」
「樹木同士の意思疎通のことですよ。簡単に言えば、わたくしは木と会話ができます」
「どうやって?」
「どうって……樹木は匂いで会話しますから、匂いを嗅げばわかりますよ」
ツトムは試しに鼻腔から空気を目いっぱい吸い込んでみる。確かに、木の匂いはするが何もわからない。
「そうじゃなくって、匂いの粒子を脳の下のあたりで、舐る感覚で……」
「なるほど、分からん!」
「とにかく、ゴブリンの巣の場所は特定できます」
「なら、これからゴブリンの巣を叩きに行く」
「ツトムさん、ゴブリンの討伐に成功しても、成功報酬はないですよ。我々の任務は護衛任務なんですから。護衛の報酬しか支払われません」
「分かっている。分かった上でやると言っているんだ」
「ツトムさん……」
テラーラがにっこりと微笑む。
「人生、コスパだけが大事じゃあないんだ!」
「はい!」
ツトムはぐっと拳を握り、テラーラは大きく頷く。
「タイパも大事だ!」
「は――は?」
テラーラは大きく頷こうとして、急停止した。
「たいぱ?」
「タイムパフォーマンス。略してタイパだ!」
「それは知っています」
「こんなしけた村で1週間も滞在できるか! ネットもない、ガスもない、街灯すらない! こんなところで耐えられるか! こちとら、50メートルおきに自動販売機がある国で生まれ育ってるんだぞ!」
「あー……」
「今日、ゴブリンの巣を叩く! そうすれば、護衛任務も完了だ! 報酬が少ないことなど構わない! 1週間という時間を浪費するよりはマシだ!」
力説するツトムの傍らで、テラーラは大きなため息を吐いた。
「……わたくしは何度この人を見直して、その後失望するのを繰り返せばいいのでしょうか?」
その疑問には、神すらも答えを持っていなかった。




