表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
98/292

第九十七話 片道の救出



『リズナ、聞こえるか!』


父の声の向こうで、金属が軋むような音が響いている。


『固定環が勝手に動いている。術師が触れても止まらない!』


「父さん、表示されている文字を読める?」


『帰還者をガリオールへ渡すな、と出ている。それから――』


通信が激しく乱れた。


空中に浮かぶアスタリア文字が、別の文章へ切り替わる。


リズナは目で追い、表情を強張らせた。


「帰還者の緊急回収を開始……外部同行者は排除する、って」


「正確に訳せ」


ゼラスが巨大な環を見上げた。


「外部同行者は、誰を指してる」


「ガリオール側の生命反応。つまり、あんたたちよ」


「拒んでるんじゃないな」


ゼラスの声が低くなる。


「向こうは、お前だけを強引に引き戻す気だ」


管理体の青い光が明滅した。


『アスタリア側から一方向の魔力圧を確認』


『通常帰還経路ではありません』


「無理に通されたら、どうなるの?」


『経路の安定を保証できません』


「随分と迷惑な救出ね」


リズナが言い終えるより早く、巨大な環が強く輝いた。


足元の風が西へ引かれる。


高く結んだ赤い髪が、環へ向かって大きくなびいた。


「っ……!」


リズナの身体まで引きずられる。


ゼラスが腕を掴み、その場へ引き留めた。


「踏ん張るな。風を内側へ回せ」


「引かれて、うまく――」


「俺の魔力に合わせろ。お前ならできる」


ゼラスの魔力が、掴んだ腕を通して細く流れ込む。


リズナは一度目を閉じた。


乱れていた風を集め、ゼラスの魔力を軸にして身体の周囲へ巡らせる。


引力が僅かに弱まった。


「できたわ」


「ああ。そのまま離すな」


リュミエラが三つの制御核へ魔力を広げる。


「こちら側の出力を落とすわ」


「切るな。急に切れば、リズナの魔力だけ持っていかれる」


「分かったわ」


ミテイも床へ両手を触れた。


『石が、向こうへ曲がっている』


灰色の枝が施設の内部へ広がり、歪み始めた構造を支える。


『長くは保たない』


エルシアが環の前へ立ち、アスタリア語で呼びかけた。


「聞こえますか! そちらの装置は、リズナさんを危険に晒しています!」


父の声が返る。


『止めようとしている! だが、下層の制御室へ入れない!』


リズナがゼラスへ訳す。


「封鎖された制御室があるみたい。向こうの装置は、そこから動いてる」


「入口の周囲に環はいくつある」


「父さん! 封鎖された扉の周りに、環はいくつあるの?」


『四つだ! 三つは光っている。右下だけ消えている!』


ゼラスは一瞬で考えをまとめた。


「消えてる環が封印の基点だ。左上の環へ魔力を集中させて、逆回転させろ」


リズナが父へ伝える。


『そんなことをすれば、固定環が壊れるかもしれない!』


「壊れても修理できる」


ゼラスが環の流れを押さえながら言う。


「このままなら、リズナの身体が先に壊れる。選んでる時間はない」


リズナはその言葉も、そのまま父へ届けた。


短い沈黙。


『分かった。やる』


向こう側で、複数の声が飛び交う。


やがて巨大な環の回転が乱れた。


リズナを引く力が、さらに強くなる。


ゼラスの靴が床を滑った。


それでも、彼は腕を離さない。


「ゼラス!」


「前を見てろ」


「でも――」


「俺の心配は、抜けてからしろ」


直後。


遠くで何かが砕ける音がした。


巨大な環が停止する。


リズナを引いていた力が消え、彼女の身体がゼラスの方へ倒れ込んだ。


ゼラスはそのまま受け止める。


「怪我は?」


「ないわ」


リズナは息を整えながら、掴まれた腕を見る。


「ずっと離さなかったのね」


「離せば飛んでいっただろ」


「そうだけど」


ほんの少し口元を緩めた後、リズナは環へ向き直った。


『こちらの封鎖扉が開いた!』


父の声が届く。


『今から制御室を調べる。無事か、リズナ!』


「無事よ。みんなが止めてくれた」


返事をした瞬間、停止したはずの環に新たな文字が浮かんだ。


リズナが読み上げる。


「風の器の回収を妨害した者を、敵性存在と認定……」


ゼラスが目を細めた。


「風の器、か」


アスタリア側の施設は、ただリズナの名を知っていたのではない。


彼女が何であるかまで、知っていた。


『敵性存在を記録』


文字の下に、四人の名が順番に刻まれていく。


リュミエラ。


ミテイ。


エルシア。


そして最後に。


『最優先排除対象――ゼラス=ヴェルゼイア』


ゼラスは刻まれた自分の名を見上げた。


「今度は、向こうにも覚えられたか」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ