第一話 黒風の森
石床に刻まれた術式が光を放ったのは、リズナが遺跡の最深部へ足を踏み入れた直後だった。
床一面に広がる古い紋様。
壁際に並ぶ崩れかけた石像。
そのどれにも触れていない。
魔力を流した覚えもなかった。
それでも術式は、侵入者を待ち構えていたかのように起動した。
「転移罠……!」
リズナは反射的に後ろへ跳んだ。
同時に風を巻き起こし、自分の身体を術式の外へ押し出そうとする。
だが、床から伸びた青白い光は風の壁をすり抜け、両脚へ絡みついた。
視界が歪む。
石壁も、通ってきた通路も、足元の床さえも、引き伸ばされた光の中へ溶けていく。
リズナは腰に差した二本の短剣を抜いた。
右手の刃へ風をまとわせ、足元の術式へ振り下ろす。
石床が砕けた。
紋様の一部が切断され、光が激しく明滅する。
それでも転移は止まらなかった。
むしろ術式を破壊したことで魔力の流れが乱れ、周囲の空間が大きく軋んだ。
「まずい……!」
身体が宙へ浮いた。
上下の感覚が失われる。
次の瞬間、リズナの姿は遺跡から消えていた。
視界が戻った時、目の前には灰色の空が広がっていた。
「え?」
風が頬を打つ。
赤い髪が激しく舞い上がる。
身体は、遥か上空から落下していた。
眼下には黒々とした森が広がっている。
リズナは空中で身を捻り、両手を地面へ向けた。
「風よ!」
吹き上がった風が身体を包んだ。
落下の勢いが弱まる。
それでも完全には殺しきれず、リズナは木々の枝を次々と折りながら森の中へ落ちていった。
太い枝へ足をかける。
折れる直前に蹴り、身体を横へ逃がす。
最後に風を地面へ叩きつけ、衝撃を周囲へ散らした。
湿った土と枯れ葉が舞い上がった。
リズナは片膝をついた姿勢で着地する。
数秒遅れて、折れた枝が頭上から落ちてきた。
横へ跳んで避ける。
地面に突き刺さった枝を見てから、リズナは小さく息を吐いた。
「……危なかった」
立ち上がり、身体の状態を確かめる。
骨や関節に異常はない。
二本の短剣も残っている。
肩から下げていた荷物も無事だった。
ただし、転移前に持っていた水筒の蓋が開いている。
中身はほとんど残っていなかった。
「最悪……」
リズナは水筒を逆さにした。
数滴の水が地面へ落ちる。
食料も確認したが、遺跡へ入る前から残りは少なかった。
干した果実が二つと、固くなったパンが一切れ。
そのパンも転移の衝撃で潰れている。
食べられないことはない。
しかし、積極的に口へ入れたい姿ではなかった。
リズナは潰れたパンを荷物へ戻し、周囲を見回した。
幹が炭のように黒い木々が、どこまでも続いている。
枝葉は厚く重なり、昼間のはずなのに森の中は薄暗かった。
見覚えのある植物はほとんどない。
地面を覆う苔も、枝から垂れ下がる蔓も、リズナが知るものとは微妙に形が違っている。
転移の出口らしきものは見当たらない。
空間の歪みも、術式の残滓も感じられなかった。
リズナは目を閉じた。
周囲を流れる風へ意識を重ねる。
葉の隙間を抜ける空気。
草木の間を走る小さな流れ。
森に住む生き物が動くことで生まれる、微かな揺らぎ。
風は目に見えないものまで教えてくれる。
だが、その流れに触れた瞬間、リズナは眉を寄せた。
「何、この風……」
森を流れる風が、ひどく重い。
水の中を進んでいるかのような抵抗がある。
吹く方向も不自然だった。
右から左へ流れていた風が、何の前触れもなく逆向きになる。
木々の隙間を抜けたはずの流れが、同じ場所へ戻ってくる。
地面の下から、這い上がるように吹く風さえあった。
地形だけが原因ではない。
風そのものに、何かが混じっている。
黒く淀んだ魔力。
それが森中の空気へ薄く溶け込んでいた。
「……気持ち悪い」
リズナが腰に下げた風晶石へ触れる。
薄緑色の結晶が、僅かに震えていた。
その震えを確かめていた時、背後の茂みが揺れた。
獣の唸り声が響く。
リズナは振り返りながら短剣を抜いた。
茂みの奥に、赤い光が二つ浮かんでいる。
姿を現したのは、狼に似た魔物だった。
普通の狼よりも一回り大きい。
灰色の毛皮には黒い筋が走り、口元から長い牙が覗いている。
一体だけではない。
左右の木々の陰にも気配があった。
正面に二体。
右に一体。
背後に二体。
リズナは風の揺らぎから数を読み取る。
合計五体。
「転移したばかりの相手を囲むなんて、随分と親切な森ね」
正面の一体が地面を蹴った。
リズナはその場から動かない。
魔物の牙が首元へ迫る。
噛みつかれる寸前、身体を半歩だけ横へずらした。
すれ違いざまに短剣を振るう。
風をまとった刃が、魔物の喉を切り裂いた。
血を撒き散らしながら巨体が地面へ転がる。
左右から二体が飛びかかってきた。
リズナは身を低くする。
頭上ですれ違った二体の腹へ、左右の短剣を同時に突き立てた。
刃を引き抜くと同時に風を放つ。
二体の身体が反対方向へ吹き飛び、それぞれ木の幹へ叩きつけられた。
背後から足音が迫る。
リズナは振り向かず、左手の短剣だけを後方へ投げた。
刃は風に乗って軌道を変え、飛びかかってきた魔物の眉間へ突き刺さった。
最後の一体が足を止める。
赤い目が仲間の死骸とリズナを交互に見る。
「逃げてもいいわよ」
言葉が通じたわけではないだろう。
それでも魔物は本能で力の差を悟ったらしい。
身体を翻し、森の奥へ逃げ出した。
リズナは追わなかった。
伸ばした手へ風を集める。
魔物の眉間に刺さった短剣が引き抜かれ、宙を飛んで手元へ戻ってきた。
刃についた血を払い、二本とも鞘へ収める。
「この程度なら問題ないけど……」
倒した魔物へ近づく。
毛皮を観察し、傷口へ意識を向けた。
血に混じって、黒い靄のようなものが滲んでいる。
目を凝らさなければ見落としてしまうほど薄い。
靄は空気に触れると、すぐに消えていった。
「さっきの風と同じ……?」
指先で触れようとしたが、思い直して手を止めた。
得体の知れない魔力へ不用意に触れるべきではない。
リズナは立ち上がった。
森の異常も気になるが、今は現在地を知る方が先だった。
飲み水と食料を確保しなければならない。
転移した距離によっては、帰還手段を探すだけで何日かかるか分からない。
「とりあえず、人を探さないと」
そう呟き、再び風へ意識を広げる。
森の中に誰かがいるなら、焚き火の煙や足音を風が教えてくれるはずだった。
だが、風に乗って届いたものは、足音でも煙でもなかった。
匂いだった。
香ばしく焼けた肉の匂い。
脂が火へ落ち、煙と共に立ち上る匂い。
その中に、僅かな香草の香りまで混じっている。
リズナの動きが止まった。
腹が鳴った。
静かな森の中で、思っていた以上に大きな音が響く。
リズナは周囲を見回した。
当然、誰もいない。
「……仕方ないでしょ」
誰にともなく言い訳する。
朝から遺跡を歩き続けていた。
転移に巻き込まれ、上空から森へ落とされ、その直後には魔物に襲われた。
空腹になる理由は十分にある。
問題は、匂いの先にいる者が友好的とは限らないことだった。
旅人かもしれない。
猟師かもしれない。
盗賊かもしれない。
あるいは、人を誘き寄せるために肉を焼いている魔物という可能性も、絶対にないとは言い切れない。
もう一度、腹が鳴った。
「様子を見るだけだから」
リズナは肉の匂いを運ぶ風を追った。
風をまとい、音を立てないよう森を進む。
黒い木々の間を抜けるほど、肉の匂いは濃くなっていった。
やがて、木々が途切れた小さな空間へ出る。
中央に焚き火があった。
火の上には細い金属棒が渡され、大きな肉の塊が吊るされている。
表面は程よく焼け、滴った脂が火へ落ちるたびに小さな炎が上がっていた。
焚き火のそばには、一人の少年が座っている。
見た目は十三歳ほど。
黒を基調とした簡素な旅装を身につけ、赤黒い髪の間から尖った耳が覗いていた。
人間ではない。
リズナと同じ魔族だった。
少年は細い枝を使い、焼けた肉の表面へ香草らしきものを塗っている。
周囲に仲間の姿はない。
荷物も一人分。
武器らしいものも見当たらなかった。
こんな森で、少年が一人きりで野営している。
どう考えても不自然だった。
リズナは木の陰から様子を窺った。
少年は肉を裏返し、焼け具合を確かめる。
表情に緊張はない。
まるで危険な森の中ではなく、自宅の庭で夕食を作っているかのようだった。
肉の表面が弾け、香ばしい匂いが広がる。
リズナの腹が三度目の音を立てた。
少年の手が止まった。
ゆっくりと、リズナが隠れている木の方へ顔を向ける。
「そこにいるなら、出てくればいい」
落ち着いた声だった。
「肉を盗むつもりなら、もう少し腹の音を抑えた方がいいぞ」
リズナは木の陰で固まった。
数秒後、何事もなかったような顔で姿を現す。
「別に、盗むつもりはないわ」
「そうか」
「たまたま通りかかっただけ」
「この森で?」
「ええ」
「肉の匂いを追って?」
「風向きが同じだっただけよ」
少年はしばらくリズナを見つめた。
やがて、口元に僅かな笑みを浮かべる。
「なるほど。随分と腹を空かせた風だな」
「……喧嘩を売ってる?」
「肉なら売ってもいい」
「お金を取るの?」
「冗談だ」
少年は焼けた肉の一部を短刀で切り分けた。
それを木製の皿へ載せ、焚き火の向こう側へ置く。
「食うか?」
リズナは少年と肉を交互に見る。
「見ず知らずの相手へ、随分親切ね」
「毒は入ってない」
「普通は毒を入れた本人がそう言うのよ」
「なら、俺が先に食べればいいか?」
少年は自分の分を切り取り、何の躊躇もなく口へ運んだ。
数回噛み、飲み込む。
「うまいぞ」
「自分で言うんだ」
「事実だからな」
肉の香りが漂ってくる。
表面は香ばしく焼けているが、中には肉汁が残っていた。
塗られている香草も、ただ匂いを誤魔化すためのものではない。
肉の味を引き立てるよう、量が調整されている。
リズナは少年の向かいへ座った。
「一口だけ貰うわ」
「その量を一口で食べるのか?」
皿には、拳二つ分ほどの肉が載っている。
「細かいことを気にする男は嫌われるわよ」
「会ってすぐ嫌われる心配までしてくれるとは、親切だな」
リズナは返事をせず、肉を一口かじった。
表面は僅かに硬く、中は柔らかい。
噛むたびに肉汁と香草の風味が広がった。
空腹だったことを差し引いても、かなり美味しい。
「……おいしい」
「だろ?」
少年の得意げな顔が少しだけ癪に障る。
「まあ、食べられないことはないわね」
「さっき、おいしいって言っただろ」
「聞き間違いじゃない?」
「便利な耳をしてるな」
「魔族の耳はよく聞こえるのよ」
「俺も魔族なんだが」
リズナは少年の尖った耳を見る。
「それは見れば分かるわ」
「なら、聞き間違いじゃないことも分かるだろ」
「肉、返すわよ」
「食いかけを返されても困る」
少年は小さく笑った。
リズナは肉を食べ進めた。
警戒を解いたつもりはない。
それでも、少年から敵意は感じられなかった。
焚き火の周囲にも罠らしきものはない。
肉にも異常な魔力は混じっていない。
少なくとも、今すぐ襲ってくる相手ではなさそうだった。
気がつけば、皿の肉はほとんどなくなっていた。
少年が水筒を差し出す。
「水もいるか?」
リズナは僅かに迷った後、水筒を受け取った。
匂いを確かめる。
ただの水だった。
「ありがとう」
「どういたしまして」
水を飲み、水筒を返す。
少年は受け取った水筒を荷物の横へ置いた。
「それで?」
「何?」
「こんな森の中へ、どこから通りかかったんだ?」
リズナは少し考えた。
自分でも状況を整理できていない。
すべてを話したところで、信じてもらえるかも分からなかった。
「遺跡にあった転移罠に飛ばされたの」
「転移罠?」
「気づいた時には、この森の上空にいたわ」
少年が頭上を見る。
厚い枝葉の向こうには、ほとんど空が見えない。
「随分と乱暴な送り方だな」
「おかげで水もほとんどなくなったわ」
「飯の前に水を頼めばよかったんじゃないか?」
「先に肉を出したのはあなたでしょ」
「腹の音が切実だったからな」
リズナは少年を睨んだ。
少年は悪びれる様子もなく、焚き火へ薪を足している。
「ここは何という場所?」
「黒風の森」
「黒風の森……」
聞き覚えのない名前だった。
リズナは記憶を探ったが、同じ名の森は思い当たらない。
「近くに町はある?」
「あるにはある。だが、ここから歩けば数日はかかる」
「数日……」
森を抜けるだけでも時間がかかるらしい。
現在地さえ分からない状態で、一人で動くのは危険だった。
リズナは目の前の少年を見る。
見た目だけなら頼るべき相手には思えない。
しかし、この森の中で一人きりで野営し、魔物に怯える様子もない。
武器を見せていないことも、無防備なのではなく、必要としていないだけのように感じられた。
「あなたは、ここで何をしてるの?」
「仕事だ」
「子供が一人で?」
「見た目だけで判断しない方がいいぞ」
「やっぱり子供じゃないの?」
「少なくとも、お前に保護されるような年齢じゃない」
「私より年上には見えないけど」
「世の中には色々あるんだ」
少年は枝で焚き火をつついた。
火の粉が夜の森へ舞い上がる。
「最近、この森で異変が起きてる」
「異変?」
「魔物が以前より凶暴になってる。森の奥では黒い霧を見たという話もある」
リズナは先ほど倒した魔物を思い出した。
傷口から滲んでいた黒い靄。
風へ混じっていた、淀んだ魔力。
「私も見たわ」
少年の視線がリズナへ向く。
「どこで?」
「ここへ来る途中。狼みたいな魔物に襲われたの。その傷口から黒いものが出てた」
「襲われた?」
少年はリズナの身体へ視線を走らせた。
怪我がないことを確かめたらしい。
「魔物は?」
「倒したわよ」
「何体いた?」
「五体」
「一人で?」
「他に誰がいるのよ」
少年は少しだけ目を細めた。
疑っているというより、リズナの力量を測り直しているようだった。
「黒いものには触れたか?」
「触れてない。風に混じって消えたわ」
「そうか」
少年は考え込むように焚き火を見つめた。
即座に何かを断定することはない。
リズナから聞いた話を、一つずつ自分の中で確かめているようだった。
「その魔物がいた場所を覚えてるか?」
「当然」
「案内してほしい」
「構わないけど、その前に名前くらい教えてくれる?」
少年は顔を上げた。
「まだ名乗ってなかったか」
「肉で買収して、そのまま済ませるつもりだった?」
「うまくいくと思ったんだがな」
「もう食べた後だから返さないわよ」
「返せとは言ってない」
少年は僅かに笑った。
「ゼラスだ」
「ゼラス?」
「ああ」
リズナはその名を頭の中で繰り返した。
聞き覚えはない。
だが、なぜか妙に馴染む響きだった。
「私はリズナ」
姓は告げなかった。
目の前の相手が悪人には見えなくとも、出会ったばかりであることに変わりはない。
自分がどこへ転移したのかも分からない以上、不必要な情報まで明かすべきではなかった。
「リズナか」
ゼラスは確かめるように名前を呼んだ。
「何?」
「いや。覚えた」
「忘れたら、二度と魔物の場所へ案内しないから」
「それは困るな」
ゼラスは残った肉を切り分け、布で包んだ。
焚き火へ土をかけ、炎を小さくしていく。
「もう行くの?」
「暗くなる前に場所だけ確認しておきたい」
リズナは空を見上げた。
枝葉に遮られ、明るさだけでは時間が分かりにくい。
それでも、先ほどより森の闇が濃くなっている。
「夜の森を歩くのは危険じゃない?」
「この森は昼でも危険だ」
「説得力のない答えね」
「俺一人なら問題ない」
「私がいるから問題だと言いたいの?」
「肉の匂いだけで知らない相手の野営地へ来る奴だからな」
「空腹だったのよ」
「知ってる。森中に聞こえそうな音だった」
リズナは無言で短剣の柄へ手を置いた。
ゼラスは荷物を背負い、すぐに両手を上げる。
「冗談だ」
「次に言ったら、肉を焼く前に火を消すわよ」
「それは困る」
「だったら気をつけなさい」
ゼラスは焚き火が完全に消えたことを確かめ、森の中へ歩き出した。
リズナもその後に続く。
数歩進んだところで、ゼラスが振り返った。
「案内するのはお前だぞ」
「分かってるわよ」
リズナはゼラスの隣を通り過ぎ、先頭へ出た。
風に残された自分の魔力を辿れば、先ほどの場所へ戻るのは難しくない。
森の奥から、冷たい風が吹いてきた。
木々の間を通り抜ける風ではない。
地面の下から滲み出すような、黒く淀んだ流れだった。
リズナは足を止める。
「どうした?」
「また変な風が吹いてる」
ゼラスも森の奥へ視線を向けた。
「俺には風の違いまでは分からない」
「森の空気に、何かが混じってる。さっき倒した魔物から出てきたものと同じかもしれない」
「追えるか?」
リズナは目を閉じた。
淀んだ流れは薄く、森中の風へ溶け込んでいる。
だが、完全に同化しているわけではない。
僅かな違和感を拾い上げれば、その流れが向かう先を辿ることはできそうだった。
「やってみる」
「頼む」
ゼラスの返事には迷いがなかった。
出会ったばかりのリズナの言葉を、根拠もなく信じているわけではない。
風に関しては自分よりリズナの方が詳しい。
ただそれだけを認め、任せたのだ。
「随分素直なのね」
「得意な奴に任せた方が早いだろ」
「子供にしては殊勝な心がけね」
「まだ子供扱いするのか」
「見た目は完全に子供だもの」
「なら、迷子の子供を安全な場所まで連れていってくれ」
「案内されるのは私の方なんだけど」
「お互い様だな」
ゼラスは楽しそうに笑った。
リズナは小さく息を吐き、再び歩き始める。
奇妙な森。
黒く淀んだ風。
正体の分からない魔物の異変。
そして、少年の姿で一人きりの野営をしていた、ゼラスという魔族。
何一つ分からない。
それでも、不思議と不安ばかりではなかった。
焚き火の残り香と、焼けた肉の味がまだ僅かに残っている。
こうして二人は、黒風の森を歩き始めた。
それが長い旅の始まりになるとは、この時のリズナはまだ知らなかった。




