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第百九十話 残響の終わり



翌朝。


リズナが目を覚ますと。


すぐ目の前に、ゼラスの胸があった。


昨夜のまま。

成人した姿で眠っている。


少しだけ顔を上げると。


「……何見てんだ?」


「起きてたの?」


「ああ」


ゼラスの手が、リズナの背中をゆっくり撫でる。


「やっぱ、お前の肌すべすべだな」


「朝からそこ?」


「綺麗だから仕方ねえだろ」


リズナは嬉しそうに笑い。


もう一度、胸へ頬を戻した。


「……また二人で来ようね」


「ああ」


「約束」


「分かった」


少しだけ。


そのままでいる。


やがてリズナが顔を上げた。


「そろそろ帰ろっか」


「だな」


最後に唇を重ね。


二人はようやく寝台を出た。




昼前。


魔皇城へ戻ると。


廊下でミテイと出会った。


『おかえり』


「ただいま」


ミテイは二人を見て。


すぐに言った。


『リズナ、機嫌いい』


「うん。仲直りしたから」


隠す気もなかった。


ゼラスの腕へ軽く身を寄せる。


『よかった』


ミテイもそれ以上は聞かない。


リズナも。


もう昨日のことを蒸し返さなかった。


「陛下のところ?」


『うん。ゼラスたちを待ってた』


「じゃあ行くか」


三人で。


魔皇の執務室へ向かった。




「ご苦労だった」


一通りの報告を終え。


魔皇が書類を閉じた。


ヴェルグの拘束は維持され。


魔力封じにも異常はない。


千年前の研究や、その後の行動についても。


順次、聴取が進められているという。


「処分については、すべての確認が終わってから決める」


「承知しました、陛下」


ゼラスが答える。


リズナも小さく頭を下げた。


「分かりました」


『私も承知しました』


魔皇は三人を見る。


「リズナ殿、ミテイ殿。長きにわたり力を貸してくれたこと、感謝する」


「こちらこそ、お世話になりました」


『お役に立てたのでしたら何よりです』


そして。


魔皇の視線がゼラスへ移った。


「特にゼラス」


「はい」


「お前はすでに軍籍にない。それにもかかわらず、今回も最後までよくやってくれた」


ゼラスは僅かに目を伏せた。


「俺にできることをしただけです、陛下」


「それでもだ」


魔皇は静かに頷く。


「軍人でも臣下でもないお前に、私は随分と頼った」


「……」


「感謝している」


ゼラスが少しだけ表情を緩める。


「ありがとうございます、陛下」


魔皇も。


僅かに笑った。


「しばらくは休め。これは命令ではないがな」


「はい。そうさせていただきます」


リズナは横で。


少しだけ笑いそうになった。


昨日からすでに。


かなり休んでいる。


だが。


もちろん口には出さなかった。




執務室を出ると。


リュミエラが待っていた。


「終わった?」


「ああ」


ゼラスが答える。


「ヴェルグは?」


「大人しく聴取を受けてるそうだ」


「そう」


リュミエラは。


静かに息を吐いた。


「ようやく終わったのね」


「ああ」


千年前から続いていたもの。


壊された剣も。


盗まれた完成版も。


ヴェルグ自身も。


すべて決着した。


失われたものまで元へ戻ったわけではない。


それでも。


ゼラスの手には今。


完成したレイスウィザードがある。


その中には。


古い剣と積み重ねた記録も残っている。


ゼラスがリュミエラを見る。


「体調は?」


「今日はいいわよ」


「本当に?」


「本当」


「無理はしてねえな?」


「してません」


少し強めに返され。


ゼラスが黙る。


リズナが笑った。


「ゼラス、心配しすぎ」


「仕方ねえだろ」


「まあ、それはそうだけど」


『ゼラスはたぶん、これからもっとひどくなる』


「おい」


リュミエラが吹き出した。




午後。


四人は城の庭で過ごした。


仕事も。


追跡も。


戦いもない。


リュミエラは椅子へ座り。


リズナとミテイも近くでくつろいでいる。


ゼラスは。


その真ん中にいた。


風が。


静かに木々を揺らす。


リズナは空を見上げた。


「こういうの、久しぶり」


「そうだな」


『静か』


ミテイが呟く。


リュミエラも。


穏やかに笑っていた。


誰かを追う必要もない。


次の手を考える必要もない。


ただ。


ここにいる。


それだけでいい時間だった。


長い間。


彼らの背後から響き続けていた過去は。


もう追ってこない。


残響は。


ようやく静かになった。

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