↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
185/370

第百八十四話 戻った者たち



西岸へ戻る頃には。


空は夕暮れに染まっていた。


飛空艇が発着場へ降りる。


着地した瞬間。


リズナは操縦席へ身体を預けた。


「……疲れた」


ゼラスが横から覗き込む。


「ちゃんと飛ばせたじゃねえか」


「誰のせいでやることになったと思ってるのよ」


「経験になっただろ」


「海の上でいきなり経験積ませないで!」


『でも上手くなった』


ミテイが言う。


「最後はミテイにかなり助けてもらったけどね……」


ゼラスが操縦盤を見る。


「今度ちゃんと教えてやるよ」


リズナがじっと見た。


「本当に?」


「ああ」


「途中で飛び降りたりしない?」


「敵がいなきゃな」


「それ、約束になってないからね?」


三人が飛空艇を降りる。


少し遅れて。


港へ入った大型船からも人が降り始めていた。


救助された船員たち。


そして。


その中央。


両手両足を拘束され。


魔力封じまで施されたヴェルグが歩いてくる。


周囲は魔皇軍の兵士が固めていた。


ゼラスがその姿を見る。


「今度は大人しいな」


「これ以上の逃走は、さすがに無意味でございましょう」


「やっと分かったか」


「ええ。少々遅かったようですが」


ヴェルグは薄く笑った。


だが。


以前のような余裕はなかった。




魔皇城。


ヴェルグはそのまま魔皇の前へ連行された。


魔皇の傍らにはリュミエラ。


長く立つことを禁じられているため。


椅子へ座っている。


ゼラス。


リズナ。


ミテイも同席していた。


扉が開く。


兵士に囲まれたヴェルグが入ってくる。


リュミエラは。


しばらく黙って彼を見つめた。


前に会った時とは違う。


今度は逃げ道もない。


「……今度は、逃げなかったのね」


ヴェルグがゆっくり頭を下げる。


「逃げられなかった、が正確でございます。リュミエラ様」


「そう」


リュミエラは拘束具へ目を落とす。


「ようやく、ちゃんと話ができるわね」


「……はい」


「千年前のことから全部、話してもらうわよ」


「承知しております」


魔皇が口を開く。


「ヴェルグ=アルディオン」


「はい、陛下」


「貴様が関与した案件については、こちらでもすでに調査を進めている」


ヴェルグは黙って聞く。


「千年前のレイスウィザード盗難。自身の死の偽装。近年の記録改竄。そして転移事件への関与」


魔皇の声が低くなる。


「アスタリアで行ったことも含め、全てだ」


「はい」


「隠していることがあるなら、今のうちに話せ」


短い沈黙。


ヴェルグは視線を落とした。


「隠し続ける意味も、もはやございません」


リュミエラが聞く。


「どうして、そこまでしたの?」


ヴェルグが顔を上げる。


「知りたかったのでございます」


「何を?」


「強いものが、どこで壊れるのかを」


ゼラスの目が僅かに細くなる。


ヴェルグは続ける。


「強大な魔力にも」


「優れた武器にも」


「完成された術式にも」


「必ず構造がございます」


リュミエラが静かに答えた。


「構造があるなら、弱いところもある」


「左様でございます」


「それを探すために、完成版を盗んだの?」


「はい」


「私の魔力を制御するために始めた研究だったのに」


ヴェルグは答えない。


「最後には、壊し方を探す研究に変えた」


「……否定はいたしません」


リュミエラの表情が曇る。


怒りだけではない。


呆れにも近かった。


「馬鹿ね」


「……」


「千年もかけて、何やってるのよ」


ヴェルグが僅かに目を伏せる。


「返す言葉もございません」


ゼラスが腕を組んだ。


「珍しく素直だな」


「完敗した直後でございますので」


「そうかよ」


「ええ」


魔皇が兵士へ視線を向ける。


「詳しい聴取は後ほど行う」


「はっ」


「処分についても、全ての事実を確認してから決める」


ヴェルグが頭を下げた。


「異存はございません」


兵士たちが動く。


ヴェルグも扉へ向かう。


その途中。


一度だけ足を止めた。


「リュミエラ様」


「何?」


「完成版は」


僅かな間。


「……良い剣でございました」


リュミエラが呆れたような顔をする。


その横で。


ゼラスの眉が動いた。


「お前が言うな」


ヴェルグがほんの少し笑う。


「ごもっともでございます」


今度こそ。


兵士たちに連れられ。


部屋を出ていった。


扉が閉じる。


静かになる。


リュミエラが息を吐いた。


「……やっと捕まったのね」


「ああ」


ゼラスが答える。


「あいつが逃げねえように、かなり厳重に縛ってある」


『私も確認した』


ミテイが言う。


『今度は簡単に転移できない』


「そう」


リュミエラは閉じた扉を見る。


「千年前のことも、これでようやく終わらせられるかしら」


ゼラスが小さく頷いた。




その後。


四人は研究室へ移った。


机の上へ。


ゼラスが収納魔法から一つの武器を取り出す。


ウェポンブレイカー。


リュミエラが身を乗り出した。


「これが?」


「ああ」


『レイスウィザードを切った武器』


ミテイが補足する。


リュミエラは黒銀の刃を確認する。


固定部は壊れている。


以前の戦いで入った亀裂も残っていた。


「ここをゼラスが壊したの?」


「本体は壊してねえぞ。腕から外しただけだ」


「珍しく加減したのね」


「欲しくなったからな」


リズナが横を見る。


「やっぱり最初から狙ってたの?」


「途中から」


『拾った時、嬉しそうだった』


「ミテイ」


『本当』


リュミエラが笑いながら、ウェポンブレイカーへ僅かに魔力を流す。


刃に薄い光が走った。


「……確かに面白い構造ね」


「だろ?」


ゼラスがすぐ食いつく。


リズナが呆れた顔をする。


「ヴェルグを捕まえた時より嬉しそうじゃない?」


「そんなことねえよ」


『ちょっと嬉しそう』


「お前らな……」


リュミエラは固定部を確認する。


「本体はまだ使えそう」


ゼラスの顔が明るくなる。


「直せるか?」


「固定部を作り直せばね」


リュミエラがゼラスの左腕を見る。


「ヴェルグとは腕の大きさも魔力の流し方も違うから、そのまま付けるのは無理」


「じゃあ俺用にすればいい」


「簡単に言うわね」


『できる?』


「できると思うわ」


ゼラスがウェポンブレイカーを手に取った。


もう一度。


軽く振る。


風を切る感触を確かめる。


そして。


口元を僅かに上げた。


「完全に気に入ってるじゃない」


リズナが言う。


「レイスウィザードを右。こいつを左」


ゼラスが自分の腕を見る。


「使い道ありそうだな」


『武器増えた』


「収納できるから問題ねえ」


「その理屈、便利すぎない?」


リュミエラがウェポンブレイカーを取り上げた。


「はい。今日はここまで」


「え?」


「私、休むから」


ゼラスの表情が即座に変わる。


「ああ。それなら休め」


「急に素直ね」


「あたりめえだろ」


「ウェポンブレイカーより私の方が大事?」


「比べんなよ」


即答だった。


リュミエラが少しだけ笑う。


「じゃあ、調整は明日以降ね」


「ああ」


『明日』


「ミテイまで楽しみにしてるの?」


『うん。構造見たい』


リズナが息を吐く。


「結局みんな好きなのね、こういうの」


研究室を出る。


長い廊下。


リズナは歩きながら。


小さく息を吐いた。


「……終わったわね」


「ああ」


「今度こそ」


「ああ」


ミテイも頷く。


『追わなくていい』


その一言に。


リズナは少しだけ足を止めた。


痕跡を探して。


逃げ先を読んで。


海まで越えた。


それも。


もう終わった。


「明日は休みましょ」


リズナが言う。


ゼラスが横を見る。


「いいぞ」


「珍しい」


「何だよ」


『私も休む』


「じゃあ三人で何もしない日にしましょ」


『うん』


ゼラスも頷く。


「たまにはな」


三人は。


急ぐことなく。


ゆっくりと廊下を歩いていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。