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第百八十一話 西岸からの報せ



翌日。


魔皇城の外れにある訓練場。


ゼラスは一人。


完成版レイスウィザードを握っていた。


少し離れた場所には。


リズナとミテイ。


そして椅子に座ったリュミエラがいる。


「本当に来たんですか?」


リズナが呆れたように聞く。


「見るだけよ」


「安静って言われてるでしょう?」


「だから座ってるじゃない」


『昨日も同じこと言ってた』


「ミテイまで……」


その前で。


ゼラスが剣へ魔力を流す。


昨日。


記録核を移した時にも感じた。


だが。


実際に戦うように動かしてみなければ分からない。


「行くぞ」


ゼラスが踏み込んだ。


一閃。


訓練用に設置された巨大な岩へ。


刃が走る。


遅れて。


岩の上半分が滑り落ちた。


リズナが目を瞬く。


「……速っ」


『出力も昨日より安定してる』


続けて。


ゼラスが剣を振る。


縦。


横。


返し。


魔力を強く流し。


途中で絞る。


さらに。


一気に出力を上げる。


以前なら。


長年の感覚で無意識に行っていた操作。


それを。


完成版が遅れることなく受け止めていく。


そして。


最後の一撃。


轟音。


訓練場の奥にあった標的だけが。


綺麗に消し飛んだ。


リズナが口を開ける。


「……強くなってない?」


「完成版だもの」


リュミエラが答える。


「元々の性能はこっちの方が上よ」


『でもゼラスに馴染んだ』


「そういうことね」


ゼラスが剣を見る。


軽く握り直す。


「違和感ねえな」


リュミエラが微笑む。


「なら成功ね」


「ああ」


それだけ。


ゼラスは満足したように。


レイスウィザードを収納魔法へ戻した。


リズナが首を傾げる。


「もっと喜ぶかと思った」


「喜んでるぞ」


「全然見えない」


『見える』


ミテイが言う。


「え?」


『ちょっと口元上がってる』


ゼラスがミテイを見る。


「余計なとこ見てんな」


「ほんとだ」


リズナも笑う。


「ちょっと嬉しそう」


「うるせえ」


リュミエラまで笑い始めた。


「昔からそうなのよ。気に入ってるものほど素直に褒めないの」


「リュミエラまで乗るな」


その時。


訓練場の入口から兵士が走ってきた。


「ゼラス様!」


ゼラスの表情が変わる。


「何だ?」


「陛下がお呼びです。西岸の監視所から、緊急の報告が入ったと」


「西岸?」


リズナが反応する。


ミテイも立ち上がった。


『行こう』


ゼラスが頷く。


「リュミエラは――」


「分かってるわよ。私は戻る」


「本当だな?」


「子供じゃないんだから」


「無茶するだろ」


「それ、あなたに言われたくないわ」


リズナは苦笑しながら。


ゼラスとミテイを追った。




魔皇の執務室。


入ると。


魔皇は大きな地図を広げていた。


西岸。


その沖合に。


印がつけられている。


「来たか」


「はい、陛下」


ゼラスが地図を見る。


「何があったんです?」


魔皇が一枚の報告書を差し出した。


「今朝、西岸の監視所が海上に船影を確認した」


「船?」


リズナが地図へ近づく。


「ガリオールの船ではない」


魔皇が続ける。


「船体構造も帆の形式も、こちらの記録にはないものだ」


ミテイの目が細くなる。


『アスタリア』


「可能性は高い」


リズナが顔を上げる。


「まさか……」


その時。


通信盤が光った。


魔皇が起動する。


映ったのは。


セレイナだった。


『繋がった?』


「聞こえている」


『よかった。そっちにも報告が行ってると思うけど』


セレイナの表情は険しい。


『ヴェルグが消えた』


ゼラスの目が鋭くなる。


「いつだ?」


『あなたたちが帰った翌日から、東へ移動してたのは確認してた』


リズナが思い出す。


ヴェルグが持ち出していた。


古い風路の記録。


「やっぱり、あれを使って移動してたの?」


『たぶんね。人の少ない道を選ぶのに使ったみたい』


ミテイが短く頷く。


『転移じゃない』


『ええ。ただの移動よ』


セレイナが続ける。


『その後、東岸の港町で何人かが襲われた』


「港……」


『死者はいない。でも』


一度。


セレイナが息を吐く。


『沖へ出る大型船が一隻、なくなった』


部屋が静かになった。


ゼラスが地図を見る。


西岸沖の。


正体不明の船影。


「……あいつ」


リズナも理解した。


「船で来たの?」


『そう考えるのが自然』


ミテイが距離を見ている。


『時間も合う』


魔皇が腕を組む。


「つまり」


視線が西へ向く。


「ヴェルグは戻ってきた」


ゼラスが低く息を吐いた。


「わざわざな」


『完成版を諦めてない』


ミテイが言う。


「それだけじゃねえだろ」


ゼラスの顔から。


先ほどまでの笑いが消えている。


「俺らにあれだけやられて、何もせず逃げ切るような奴じゃねえ」


通信盤の向こうで。


セレイナも頷いた。


『こっちでもそう見てる』


リズナが聞く。


「船は?」


『持っていかれた以上、こちらから追う手段はない。でも船の特徴は全部送る』


「お願い」


『リズナ』


「何?」


少しだけ。


セレイナの声が柔らかくなる。


『今度こそ捕まえて』


リズナは頷いた。


「うん」


通信が切れる。


魔皇が地図上の印へ指を置く。


「監視所の報告では、船はまだ沖合だ。速度も速くない」


ゼラスが聞く。


「迎えに行って構いませんか?」


「そのつもりで呼んだ」


魔皇が答える。


「ただし、海上で沈めるな。ヴェルグだけならともかく、船員が残されている可能性もある」


「分かりました」


『私が人の反応を見る』


ミテイが言う。


リズナも剣へ手を置いた。


「今度は逃がしたくないわね」


「ああ」


ゼラスが収納魔法を開く。


一瞬だけ。


完成版レイスウィザードの柄へ手を触れる。


昨日までは。


まだ借り物のようだった剣。


今は違う。


何百年も。


自分と共に戦ったものが。


そこにいる。


ゼラスが笑った。


「ちょうどいい」


リズナが横を見る。


「何が?」


「試す相手が帰ってきた」


『さっき試した』


ミテイが言う。


「あれは岩だろ」


「ヴェルグで試すの?」


「向こうが来たんだ。仕方ねえだろ」


リズナは呆れながら。


少しだけ笑った。


「相変わらずね」


三人は部屋を出る。


海の向こうから。


千年前の因縁が。


再びガリオールへ戻ってきていた。

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