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千年魔族は少年の姿で旅をする  作者: ポボンゴ
第二章 外側の門編
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第十六話 火と風



白い構造物が、地面を割りながらせり上がっていく。


六本の弧が上空で重なり、巨大な門の輪郭を形作った。


まだ完全にはつながっていない。


それでも、門の内側では景色が歪み、黒風の森とは異なる暗闇が広がり始めていた。


「全員、後退!」


リュミエラの命令が森へ響く。


封魔杭を運んでいた兵士たちは、互いを支えながら木々の奥へ下がった。


遺構へ集まっていた風は、白い門の周囲で激しい渦を作っている。


リズナは風晶石を押さえた。


結晶から伸びた白い線が、門の中央へつながっている。


魔力を止めても消えない。


「これ、私の魔力を吸ってるわけじゃない」


「なら、何をしている?」


ゼラスが白い線へ目を向ける。


「私の風を覚えてる。

風晶石からじゃなくて、私自身から流れを引き出そうとしてるみたい」


リズナが後ろへ下がる。


だが、白い線は距離を保ったまま伸び続けた。


同時に、白い構造物の表面を走る文字が、ゼラスへ向けて明滅する。


彼が炎を消した後も、その反応は止まっていなかった。


リュミエラが二人の間へ紫色の術式を展開する。


光の壁が白い線を遮った。


一瞬だけ線が揺れたものの、術式の表面を這うように回り込み、再びリズナへ伸びる。


「防壁を避けた……?」


リュミエラの表情が険しくなる。


「魔力を奪っているのではないわ。

二人の魔力を識別して、門の術式へ組み込もうとしている」


「標定の続きか?」


ゼラスが尋ねる。


「おそらくはね。

けれど、位置を探すためだけの処理ではなさそうよ」


地面が大きく揺れた。


白い門の左右が近づき、上空でつながろうとする。


隙間は、もう僅かしか残っていない。


門の内側に広がる暗闇が、周囲の光を薄く歪めていた。


木々の影が不自然に伸び、門の中央へ吸い込まれていく。


「残りの封魔杭を打ち込めば止まりますか?」


リズナが尋ねる。


「本来の位置へ打てれば、魔力の循環は崩せるはずよ。

でも、設置地点があの構造物の内側にある」


地面に置かれたままの封魔杭は、白い門の根元に取り囲まれていた。


近づけば、触れたものを白く崩す線に襲われる。


さらに今は、門の周囲で風と魔力が渦巻いている。


兵士を向かわせられる状況ではなかった。


「俺が打つ」


ゼラスが歩き出す。


「待ちなさい」


リュミエラが腕を伸ばした。


「今の門は、あなたの魔力にも反応しているのよ」


「だからって、放っておけないだろ」


ゼラスは収納魔法から一本の曲剣を取り出した。


レイスウィザードではない。


黒風の森でも使っていた、市販の曲剣だった。


「リズナ、風を押さえられるか?」


「全部は無理。

でも、杭までの道を作るくらいなら」


「十分だ」


「勝手に話を進めないで」


リュミエラの声が鋭くなる。


ゼラスは白い門を見たまま答えた。


「他に方法があるなら聞く」


リュミエラは一瞬だけ黙った。


白い門は今も組み上がり続けている。


考える時間は長く残されていない。


「……分かったわ。

私が構造物の術式を押さえる」


リュミエラはリズナへ向き直った。


「リズナ、ゼラスの周囲だけでいい。

門へ向かう風を外へ逸らして」


普段の「リズナちゃん」ではなく、呼び捨てで放たれた指示だった。


その切迫した声音に、リズナの意識が一瞬で研ぎ澄まされる。


「分かりました」


「ゼラスは杭を設置したら、すぐに離れて。

白い文字には直接触れないこと」


「ああ。」


リュミエラの周囲に、幾重もの紫色の術式が広がった。


その全てが白い門へ向けられる。


「行くわよ」


展開された術式から、無数の光の鎖が放たれた。


紫色の鎖は六本の白い構造物へ巻きつき、表面を巡る文字の動きを押さえ込む。


門全体が大きく震えた。


白い線が地面を走り、リュミエラへ伸びる。


ゼラスが右手を向けた。


魔法弾が連続して放たれ、迫る線を次々と弾き飛ばす。


「リズナ!」


「今やってる!」


リズナは両腕を広げた。


遺構へ集まる風の流れを探り、その一部へ自分の魔力を重ねる。


強引に止めれば、反動で周囲へ被害が出る。


流れを途切れさせるのではなく、進む方向を少しずつずらす。


遺構へ向かっていた風が左右へ分かれ、白い門の周囲に細い道が生まれた。


「ゼラス、今!」


ゼラスが地面を蹴った。


細い風の道を駆け抜け、白い構造物の内側へ入る。


足元へ白い線が伸びた。


曲剣を振るい、線が触れる直前に地面ごと切り裂く。


白い光が土と共に弾けた。


残された封魔杭まで、あと僅か。


だが、門の内側の暗闇が揺れた。


そこから、細長い白い何かが伸びてくる。


腕にも、触手にも見えない。


形を定めないまま、ゼラスの胸元へ向かっていた。


「右!」


リズナの声に、ゼラスが身体を沈める。


白いものが頭上を通り過ぎた。


背後の木へ触れた瞬間、幹の半分が白く変色し、音もなく崩れ落ちる。


ゼラスは転がるように封魔杭へ近づき、その上部をつかんだ。


「重いな」


両腕へ力を込め、地面から持ち上げる。


門の構造物が大きく脈打った。


表面に浮かぶ文字が一斉にゼラスへ向く。


「リュミエラ!」


「押さえているわ!」


紫色の鎖が強く輝く。


白い文字の動きが鈍った。


ゼラスは封魔杭を設置地点へ運び、鋭い先端を地面へ向けた。


「場所はここで合ってるか?」


リズナは地中の流れへ意識を伸ばした。


白い構造物に触れないよう、細い風だけを送り込む。


「そこから左へ二歩!

少し門の反対側へ傾けて!」


ゼラスが位置をずらす。


封魔杭の先端を土へ突き立てた。


上部の魔石へ魔力を流そうとした瞬間、白い文字が強く発光する。


ゼラスの手の中に、小さな炎が生まれた。


本人が放ったものではない。


「何だ、これは」


炎は指先から離れ、白い門へ吸い込まれていく。


門の中央に広がる暗闇の奥で、赤い光が灯った。


それに呼応するように、リズナの風晶石から風が噴き出す。


「止まらない……!」


リズナは結晶を両手で押さえた。


吹き出した風は、白い線に沿って門へ流れ込んでいく。


暗闇の中で火が揺れ、風を受けて大きくなった。


門の向こうから、深く息を吸うような音が響く。


リュミエラの顔色が変わった。


「二人の魔力を使って、向こう側から門を開こうとしている」


「なら、先にこっちを止める!」


ゼラスは封魔杭の上部へ拳を叩き込んだ。


魔石が紫色に輝く。


杭が地中へ沈み始めた。


白い門から幾本もの線が伸び、ゼラスへ襲いかかる。


リズナは片手を前へ出した。


「行かせない!」


風の壁が白い線を受け止める。


一本。


二本。


触れた風が白く染まり、次々と消えていく。


それでもリズナは流れを作り直した。


風晶石の光が強くなる。


「あと少し!」


ゼラスが杭へさらに魔力を流す。


封魔杭が半分を越え、地中深くへ突き刺さった。


残る三本の杭が同時に反応する。


四か所から紫色の光が走り、遺構を囲む巨大な輪を描いた。


白い門の表面に亀裂が入る。


暗闇の奥で燃えていた赤い火が揺らいだ。


「封印を閉じるわ!」


リュミエラが両手を組む。


紫色の鎖が一斉に縮まり、白い構造物を地面へ引き戻していく。


門の内側から、凄まじい風が吹き出した。


リズナは足を踏ん張る。


ゼラスも封魔杭から手を離し、地面へ剣を突き立てて身体を支えた。


白い門が軋みながら狭まっていく。


もう少しで閉じる。


そう思った瞬間、暗闇の中から声が響いた。


――火を確認。


ゼラスの周囲で、赤い火の粉が舞う。


――風を確認。


リズナの風晶石が、返事をするように一度だけ震えた。


門の隙間から、白い光が二人へ伸びる。


リュミエラが鎖を強く引いた。


「閉じなさい!」


白い構造物が地面へ叩きつけられた。


門が閉じ、暗闇も白い光も消える。


強く吹いていた風が、唐突に止まった。


森に静寂が戻る。


ゼラスはゆっくりと立ち上がり、リズナのもとへ戻った。


「大丈夫か?」


「うん、ゼラスは?」


「問題ない」


リュミエラは二人の無事を確認すると、地面へ沈んだ白い構造物を見た。


四本の封魔杭は、全て正常に起動している。


門が再び開く気配もない。


それでも、リュミエラの表情は緩まなかった。


「今の声、二人にも聞こえたわね?」


「ええ。」


リズナは風晶石へ目を落とした。


結晶の表面に、見覚えのない白い印が浮かんでいる。


小さな渦のような形だった。


ゼラスが右手を開く。


その掌にも、赤黒い線で描かれた印が残っていた。


炎を思わせる、鋭い形。


二つの印は淡く明滅した後、皮膚と結晶の奥へ沈むように消えた。


森の風が、再び流れ始める。


だが、その一部だけが、リズナとゼラスの周囲を確かめるようにゆっくりと巡っていた。

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