表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
168/351

第百六十七話 潮の奥



三日後。


アスタリア西岸。


大きく潮の引いた入り江に、セレイナは立っていた。


崖下に口を開けた洞穴の前では、同行した者たちが崩落した岩を慎重に確認している。


ガリオールから何度も記録だけを受け取るより、現地で判断した方が早い。


そう考え、セレイナ自身も西岸まで来ていた。


「どう?」


「通れます。崩落の横を一人ずつ抜ければ、奥まで行けそうです」


「無理に岩は動かさないで。このまま入るわ」


セレイナたちは狭い隙間を抜けた。


潮の音が遠ざかる。


その先には、小さな空間が残っていた。


そして。


「……あった」


岩の間から、黒い刃が突き出している。


緩やかに湾曲した巨大な刀身。


波打つような背。


根元近くに埋め込まれた赤い魔石。


傍らには、長い年月を経た人骨が残っていた。


だが、今はそちらを調べている場合ではない。


セレイナは剣を見つめた。


「これが、完成版……」


周囲の岩を確認し、剣を挟んでいる小さな石だけを慎重に取り除いていく。


最後の一つが外れた。


剣が僅かに傾く。


その瞬間。


赤い魔石が光った。


「離れて!」


セレイナが叫ぶ。


黒い刀身から膨大な魔力が溢れ、洞穴全体が震えた。


長い間内部に滞留していた魔力が、一気に解放される。


岩壁に亀裂が走った。


「崩れる!」


全員が入口へ退く。


直後。


巨大な岩が落下した。


その中央を、黒い刃が通り抜ける。


岩が真っ二つに裂けた。


誰も触れていない。


だが、解放された魔力が刃へ流れただけで、落下してきた岩を断ち切ったのだ。


やがて赤い光が弱まる。


洞穴へ静けさが戻った。


セレイナは暫く剣を見つめていた。


「……これ、本当に持って帰って大丈夫なの?」


返事をする者はいなかった。




同じ頃。


ガリオール。


魔皇城の解析室で、ミテイが突然顔を上げた。


机の上には、ヴェルグの隠れ場所から回収した偽物の欠片が置かれている。


砕けた赤い魔石。


その一つが、淡く光っていた。


『反応した』


「何が?」


リズナが近づく。


『偽物の魔石』


ゼラスも目を細めた。


「何で今さら」


ミテイはすぐに解析を始める。


『完成版に似せた魔力を持たせてた。でも、これだけじゃなかったみたい』


「どういうこと?」


『本物の魔力を拾った時に反応するようになってる』


リズナの表情が変わった。


「まさか……」


その時、通信盤が光った。


アスタリアからだった。


ミテイが接続する。


映し出されたセレイナの姿は、少し疲れていた。


『見つけたわ』


「本当に?」


『ええ。それと、たぶん本物』


セレイナから記録が送られてくる。


洞穴の中で解放された魔力。


岩を断ち切った黒い刃。


ミテイが情報を受け取った瞬間、灰色の魔力が一気に広がった。


『……完成版』


ゼラスの目が鋭くなる。


「間違いないか?」


『リュミエラの記録と一致する』


リズナが思わず息を吐いた。


千年前から行方の分からなかった剣。


ようやく見つかった。


だが。


ミテイは机の上の偽物へ視線を戻した。


『まずい』


「何が?」


『完成版が外へ出た瞬間、こっちの欠片も反応した』


ゼラスがすぐに意味を理解する。


「ヴェルグも同じものを持ってる可能性がある」


『うん』


「じゃあ……」


リズナが通信盤を見る。


「ヴェルグにも、完成版が見つかったことが伝わったかもしれない?」


『その可能性が高い』


セレイナの表情が引き締まった。


『場所まで分かる?』


『正確には分からない。でも、ヴェルグはもう西岸まで絞ってた』


「十分危ないわね」


セレイナは即座に頷く。


『剣はここに置かない。こちらで移動させる』


「お願い、セレイナ」


『ええ。保管場所も必要な者以外には知らせないわ』


通信が切れる。


ゼラスは机の上で光を失った欠片を見つめていた。


「先を越したのは俺たちだ」


「でも、ヴェルグにも気づかれた」


リズナが答える。


『これからは探すんじゃない』


ミテイが記録板を閉じる。


『守る方になる』


ゼラスは静かに頷いた。


完成版レイスウィザードは見つかった。


だが。


千年前から続いていた探索は、それで終わらなかった。


今度は。


見つかった一本の魔剣を巡る争いが始まろうとしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ