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第百六十四話 崖下の入り江



翌日の昼。


アスタリアから再び通信が入った。


『西岸の古い地図を見つけたわ』


通信盤の向こうで、セレイナが一枚の地図を広げる。


リズナとゼラス、ミテイが覗き込んだ。


「昨日の範囲と重なる場所は?」


『三か所。そのうち二つは、今でも人が出入りしてる』


ミテイが地図を見る。


『残りは?』


『ここ』


セレイナが海岸線の一点を指した。


『崖の下に小さな入り江がある。昔の地図には洞穴も描かれてるけど、今は入口の半分以上が崩れてるみたい』


ゼラスの目が細くなる。


「人は入れるのか?」


『干潮なら近くまでは行ける。でも、奥は分からないわ』


リズナが尋ねる。


「もう誰か見に行ったの?」


『周囲だけね。危険だから、中には入れてない』


「それで何か?」


セレイナは別の記録を送った。


崩れた岩壁。


波に削られた黒い岩。


その一部に、不自然な切れ目が残っている。


「……また斬った跡?」


『ええ』


ミテイがすぐに解析を始めた。


『谷の傷より残ってない』


「古いから?」


『海水で削られてる。でも……』


灰色の魔力が細い残滓を拾い上げる。


暫くして、ミテイが顔を上げた。


『似てる』


ゼラスが身を乗り出す。


「完成版にか?」


『可能性はある』


「なら、谷からここまで持ってきた?」


リズナが地図を見る。


距離はある。


だが、同じ西側だった。


『まだ分からない』


ミテイはすぐに付け加える。


『でも、ヴェルグが探してた範囲とも重なる』


ゼラスが腕を組んだ。


「偶然で片付けるには、少し重なりすぎてるな」


リズナも頷く。


「セレイナ。その洞穴、無理に入らなくていいから」


『分かってるわ』


「入口の周りだけ、もう少し調べられそう?」


『潮が引いた時に確認してもらう。それ以上は、現地で判断するわ』


「お願い」


通信が終わる。


ミテイは送られてきた海岸の記録を何度も見直していた。


『もう一つある』


「何?」


『洞穴の入口に、微弱な魔力反応が残ってる』


ゼラスの表情が変わる。


「剣のか?」


『違う』


ミテイは首を横へ振る。


『もっと新しい』


リズナが眉を寄せる。


「まさか、ヴェルグ?」


『まだ分からない。でも、谷の術式と同じ特徴が少しある』


部屋が静かになった。


完成版を探しているのは、自分たちだけではない。


ゼラスが低く言う。


「向こうも、同じ場所まで辿り着いてるのかもしれないな」


「でもヴェルグ本人は、簡単にアスタリアへ行けない」


「ああ」


ゼラスは地図を見つめた。


「だからこそ、何を仕込んでるのかが気になる」


リズナも西岸の一点を見る。


崖の下。


崩れかけた、小さな入り江。


千年前に失われた剣へ続く痕跡は。


ついに、一つの洞穴へ集まり始めていた。

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