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第百六十二話 似せられた剣



魔皇城へ戻った三人は、そのままリュミエラの部屋へ向かった。


机の上には、森で回収した黒い金属片と、砕けた赤い魔石が並べられている。


リュミエラは金属片を一つ手に取り、僅かに眉を寄せた。


「よく似せてあるわね」


「やっぱり偽物ですか?」


「ええ。少なくとも、レイスウィザードそのものではないわ」


ゼラスも欠片を手に取る。


「軽すぎる。それに脆い」


『強い魔力を流したら耐えられない』


ミテイが記録板へ解析結果を映した。


『でも、表面の魔力反応は完成版の記録にかなり近い』


リズナが赤い魔石の欠片を見る。


「じゃあ、ヴェルグは完成版に似たものをわざわざ作ったってこと?」


「おそらくね」


リュミエラは欠片を机へ戻した。


「ヴェルグは研究に参加していた。完成版の構造をある程度覚えていても不思議じゃないわ」


『剣として使うためじゃない』


ミテイが言う。


『本物を探すための基準にしてたと思う』


「アスタリアの谷に残ってた術式で?」


『うん。探したい魔力の特徴を、こっちで再現して比較してた』


ゼラスが小さく息を吐いた。


「やっぱり完成版は持ってないか」


「そう考えるのが自然ね」


リズナも頷く。


観測所でヴェルグは、完成版がまだ必要だと言っていた。


森に残されていたのが偽物なら、その言葉とも矛盾しない。


リュミエラがふとゼラスを見る。


「試作版を出してくれる?」


「ああ」


ゼラスが収納魔法からレイスウィザードを取り出した。


黒く湾曲した大剣が姿を現す。


リュミエラは偽物の欠片と見比べた。


「形だけなら、よく調べてる。でも、本物はこんなに単純じゃない」


「何が違うんですか?」


リズナが尋ねる。


「長く使われた魔道具には、使い手の魔力の癖が残るのよ」


リュミエラはレイスウィザードへ視線を落とす。


「特にこの剣は、元々魔力の流れや負荷を見るために作ったものだから、その影響を受けやすい」


ゼラスが眉を上げた。


「俺の癖も残ってるのか?」


「残ってるどころじゃないわ」


リュミエラが少し笑う。


「あなた、何百年これを使ってると思ってるの?」


「数えてないな」


「でしょうね」


リュミエラは刀身へ指を近づける。


「魔力を入れる速さも、刃へ集中させる位置も、昔とは微妙に変わってる。剣そのものが、あなたの使い方に馴染んでるのよ」


リズナはレイスウィザードを見る。


「じゃあ、同じ試作版でも、作られたばかりの頃とは違うんですね」


「ええ。別の剣になったわけじゃないけれど、今これを一番扱えるのは間違いなくゼラスでしょうね」


ゼラスは暫く大剣を見つめた。


「……まあ、長い付き合いだからな」


その声には、どこか満足そうな響きがあった。


リズナは黒い刀身へ目を向ける。


「じゃあ、完成版が見つかっても、すぐそっちを使うとは限らないのね」


ゼラスは答えなかった。


ただ、柄を握る手に僅かに力を込める。


長く馴染んだ重さを確かめるように、ほんの少しだけ剣を持ち上げた。


それから何事もなかったように、レイスウィザードを収納魔法へ戻す。


リズナはその仕草を見て、小さく笑った。


言葉にしなくても、十分だった。


ミテイが偽物の欠片を記録袋へ収める。


『ヴェルグは本物を持ってない。でも、探してる』


「しかも、アスタリアに残った昔の痕跡を使ってな」


ゼラスの表情が引き締まる。


リズナも頷いた。


「だったら、あたしたちも先に見つけたいわね」


「ええ」


リュミエラが答える。


「谷の斬痕が本当に完成版のものなら、まだ追える手掛かりはあるはずよ」


千年前に失われた完成版。


ヴェルグも、その現在地を知らない。


ならば今は。


どちらが先に、その痕跡を辿り切るかだった。

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