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第百四十話 変わる守護体



黒い槍が一斉に放たれた。


ゼラスは魔剣レイスウィザードを横へ振る。


刃が描いた軌道に沿って炎が走り、迫る槍だけを焼き切った。


砕けた破片が床へ落ちるより先に、四本腕の守護体が踏み込んでくる。


ゼラスは正面から剣を合わせた。


金属音が地下通路へ響く。


一撃は重い。


だが、ゼラスの足は動かなかった。


「力だけなら、さっきと大して変わらんな」


守護体の別の腕が横から迫る。


ゼラスは身を沈めて避け、懐へ入った。


魔剣の柄を胸部へ叩き込み、巨体を一歩後退させる。


そこへリズナが走り込んだ。


「首の装甲、右側だけ薄いわ!」


風を纏った剣が、装甲の境目を正確に斬り裂く。


だが、露出した内部に制御核はなかった。


空洞だ。


『移動している』


ミテイの声が飛ぶ。


『制御核を胴体内部で動かしている。攻撃される直前に位置を変えた』


「そんなことまで覚えるの?」


『今、覚えた』


守護体の胸が開く。


赤い光が収束した。


ゼラスはリズナの腰を掴み、その場から引き寄せる。


直後、二人が立っていた床を光線が抉った。


「ちょっと、自分で避けられたわよ」


「知ってる。俺の方が早かっただけだ」


「そういう問題じゃ――」


「次が来るぞ」


守護体が腕を振り上げる。


リズナは言葉を切り、ゼラスの腕から抜けた。


二人は左右へ分かれる。


四本の腕が別々の軌道で追ってきた。


ゼラスは二本を魔剣で受け流し、残る二本の間を踏み抜く。


リズナは風で身体を浮かせ、守護体の背後へ回った。


「ミテイ!」


『今は左脇腹』


「了解!」


リズナの剣が装甲の継ぎ目へ入る。


だが、刃が届く直前に核が移動した。


『胸部上方』


ゼラスが魔剣を返す。


守護体が腕を交差させ、胸を守った。


「なら、逃げる場所をなくす」


ゼラスは守護体の肩へ片足をかけ、魔剣を首元へ突き立てた。


外殻を貫くのではない。


刃から流した炎を、内部の魔力経路へ直接通す。


赤い線が守護体の全身へ広がった。


『内部経路が閉じる。核の移動先は三つに限定された』


「三つなら十分よ」


リズナが剣を構える。


足元から三本の風が走り、守護体の胸、腹、脇腹へ同時に突き刺さった。


一つは空。


二つ目も空。


三つ目に触れた瞬間、風の流れが弾ける。


「見つけた!」


リズナが踏み込んだ。


剣先が左脇腹の装甲を貫き、その奥にあった制御核を斬り裂く。


赤い光が消えた。


守護体の身体が傾く。


ゼラスは肩から飛び降り、倒れる巨体を片手で支えた。


床へ静かに寝かせる。


「今のは綺麗だったな」


「誰かさんが中を焼いたからね」


「役に立っただろ」


「ええ。かなり」


素直に認められ、ゼラスの口元が少し上がった。


「それならよかった」


リズナは一瞬だけ彼を見たが、すぐに次の敵へ向き直った。




リュミエラの前では、二体の守護体が同時に腕を振り下ろしていた。


彼女はその場から動かない。


青白い魔力が足元から広がり、二体の脚を覆う。


外殻ではなく、関節内部を流れる魔力だけが凍りついた。


守護体の動きが止まる。


「ミテイ、今よ」


『分かった』


床から伸びた二本の石柱が、守護体の胴体を左右から挟み込む。


同時に、ミテイが細い石針を放った。


一本目は胸。


二本目は背中。


どちらも装甲へ弾かれる。


『核が移動した』


「どこ?」


『まだ分からない。二体が互いに情報を共有している』


凍結していた関節が赤く光る。


外側から流れ込んだ魔力が、氷を内側から溶かし始めた。


リュミエラが僅かに眉を寄せる。


「私の魔力まで覚えたのね」


『次は同じ止め方が効かない』


「なら、違うことをするだけよ」


リュミエラは両手を合わせた。


二体の間に、青白い球体が生まれる。


それは急速に縮まり、周囲の魔力を吸い込んだ。


守護体の赤い線が歪む。


二体の核が、吸引を避けるため同時に外側へ移動した。


ミテイの目が灰色に光る。


『見えた』


左右の壁から細い石刃が飛び出した。


一体は右肩。


もう一体は左腰。


装甲の隙間を貫き、移動したばかりの核へ突き刺さる。


二体が同時に沈黙した。


リュミエラがミテイを見る。


「今の連携、よかったわね」


『リュミエラが核を動かしたから』


「それ、褒めてる?」


『褒めている』


「なら、素直に受け取っておくわ」


リュミエラは笑い、魔皇の方へ視線を向けた。




魔皇は扉の紋章へ皇核の力を流し続けていた。


幾重にも重なった円が、一つずつ本来の位置へ戻っていく。


その周囲には、黒い糸のような接続が絡みついていた。


一本を外すたび、施設全体が低く震える。


『陛下、右下の線は切らないでください』


ミテイが戦いながら声を送る。


『地脈の制御線と重なっています』


「分かった」


魔皇は力の流れを変え、黒い線だけを浮かび上がらせた。


残る守護体が、魔皇へ向けて光線を放つ。


リュミエラが間へ入った。


展開された障壁が光を受け止める。


「陛下、こちらはお任せください」


「頼む」


障壁の表面に亀裂が走る。


リュミエラは片手を前へ出したまま、もう片方の手で魔力を束ねた。


細い青光が守護体の脚元へ走り、床ごと凍らせる。


「ゼラス!」


呼ばれるより先に、ゼラスは動いていた。


魔剣を低く構え、守護体の横を駆け抜ける。


斬ったのは身体ではない。


床から守護体へ伸びていた外部命令の線だった。


黒い光が切れる。


守護体の動きが一瞬止まった。


「リズナ!」


「分かってる!」


風を纏ったリズナが高く跳ぶ。


守護体の四本腕を足場にして駆け上がり、頭上から剣を振り下ろす。


首の装甲が割れた。


ミテイの石針がその隙間へ入り、制御核を貫く。


最後の守護体が沈黙した。


通路に静けさが戻る。


倒れた十体はいずれも、施設そのものを大きく傷つけることなく停止していた。


リズナは剣を払って鞘へ戻す。


「思ったより壊さずに済んだわね」


ゼラスも魔剣を下ろした。


「俺が加減したからな」


「みんなで加減したのよ」


「俺も含まれてるなら、それでいい」


以前なら、自分の働きを訂正されて終わっていただろう。


今のゼラスは、少し楽しそうに笑っていた。




重い音が響く。


巨大な扉が、ゆっくりと左右へ開き始めた。


その先には、円形の広間が広がっている。


中央には底の見えない縦穴。


その上を覆うように、無数の光の線が交差していた。


地脈。


境界路。


各地へ伸びる管理経路。


その中に一本だけ、異質な黒い線が混ざっている。


アスタリアへ続く接続だった。


『見つけました』


ミテイが魔皇へ告げる。


『あれが、外側から皇核へ伸びている線です』


「想像していたより深く食い込んでいるな」


魔皇が広間へ足を踏み入れる。


その瞬間。


縦穴の底から、赤い光が立ち上った。


広間全体を覆う術式が一斉に反転する。


魔皇の前に半透明の文字が浮かんだ。


『現皇核保持者を確認』


続いて、別の文字が現れる。


『指定回収個体を確認』


赤い光が、リズナを真っ直ぐに捉えた。


「……あたし?」


黒い接続線が大きく脈動する。


縦穴の底で、何かが組み上がり始めた。


石でも金属でもない白い外殻。


六本の腕。


人の形に似せながら、人とは明らかに異なる巨体。


ミテイの表情が僅かに強張る。


『守護体ではない』


「では、何だ?」


魔皇の問いに、ミテイは浮かび上がった識別情報を読み取った。


『外側から送られた回収機能です』


白い巨体の顔に、一本の赤い線が灯る。


その視線がリズナへ固定された。


『第七移住群指定個体。

損傷を確認。

回収処理を開始』


六本の腕が、一斉に広がる。


ゼラスはリズナの前へ出た。


魔剣を肩へ担ぎ、白い巨体を見上げる。


「悪いが、そいつは渡せない」


回収機能の背後で、巨大な門の輪郭が浮かび上がった。

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