戦う者達の親友達
戦闘無しの分家の紹介
「小較つれて、暫く散歩してて、お願い」
較の言葉に良美が嫌そうな顔をする。
「こないだといい、お前、小較をのけ者してないか?」
小較が悲しそうな顔をするのを見て、較が複雑な顔をして答える。
「分家の人間が来るの。小較に嫌な思いをさせたくないの」
小較も嫌そうな顔をするので、良美が頭をかきながら言う。
「仕方ないね。いくぞ小較」
大人しく良美に付いていく小較であった。
「なんで付いて来たんだ?」
凱の言葉に正一が答える。
「お前が本気で嫌そうな顔をしていたからな」
凱が複雑な顔をして答える。
「仕方ないだろう、ボコボコにされた奴の家に、謝罪しに行くんだからな」
正一が言う。
「私の所為だな。謝るなと言うからこれ以上、謝らない。だから、それが終わった後に、この間のお礼に奢らせてくれ」
凱が笑みを浮かべて言う。
「そんな約束して良いのか? 俺は、食うぞ」
正一が肩を竦める。
「覚悟している。預金を下ろして来たから安心しろ」
凱が嬉しそうに笑う。
「そうと決まれば、嫌な説教を直ぐに終わらせて来るから、美味しそうな店でも探していてくれ」
そういって問題の家に向かっていく凱を見送った後、近くにあった時計を見る正一。
「どんなに短く見積もっても二時間は、堅いな。そうすると、ランチタイムは、終わっていると思った方が良いだろう。ゆっくりガイの好きな焼肉屋でも探すか」
振り返った時、正一は、金髪の幼女とぶつかる。
「何処見て歩いているの!」
その少女の手を引く、活発そうな黒髪の少女が文句を言ってきた。
正一は、大人しく頭を下げて言う。
「こちらの不注意でした。お詫びにお茶でもご馳走させて貰えませんか?」
金髪の幼女が慌てて言う。
「別に構いません。こちらも不注意だったのですから」
正一が苦笑しながら言う。
「同行者が私用で暫く戻ってこないので、時間があるのです。付き合ってもらえると助かります」
「ケーキ屋だったら了解しよう」
黒髪の少女の言葉に正一が頷くと黒髪の少女が先行する。
「こっちに美味しいお店があるの。そうそう、あたしの名前は、大門良美って言うわ」
正一が慌てて言う。
「自己紹介がまだでしたね。私の名前は、紅正一です」
金髪の少女、小較も頭を下げて自己紹介する。
「白風小較です」
その苗字に正一が少し驚いた顔をする。
「どうかしましたか?」
小較が質問すると、正一が慌てて言う。
「すいません、この間、知り合った人物と同じ苗字だったもので」
良美が笑いながら言う。
「白風較って事は、ないよね」
正一が驚愕した顔で言う。
「知り合いですか!」
小較が視線を逸らしながら言う。
「……妹です」
良美も哀れむように言う。
「どんな酷い目あったか知らないけど、強く生きるんだ。ヤヤと関わって、無事、ベッドから立ち上がれるのは、幸運な証拠だよ」
正一が引いた顔で言う。
「どれだけ騒動を起こしているのですか?」
ケーキを食べながらお互いの事情を話し終えた後、正一が言う。
「小較ちゃんが席を外したのは、正解ですね。権力欲に駆られた人間が、小較ちゃんの事を問題にするでしょうから」
少し落ち込む小較を見て、不機嫌そうに良美が言う。
「それにしても、何でそんなに騒いでるのか解らんよ」
正一が苦笑いをしながら言う。
「さっきの話を考えればそれ程不思議でもありません。分家の人間でも上位になれば、かなりの権力とお金が手に入る。その中でも、分家頭筆頭となれば、本家の長のサポートとして、かなりの発言力を持ちます。金銭的に言っても、何億って金の動きに関与出来る事になりますから、リベートや利益がある事でしょうね」
正一が手に持ったグラスを強く握り締めているのに気付き、良美が言う。
「後悔してるの?」
正一が素直に頷く。
「ガイの立場を考えれば、あそこに来ること自体が大問題。その上、本家の次期長にたてつけば、ただでは、すまないのは、明白です」
良美が笑顔で言う。
「友達ってそんなもんじゃないの? 自分の立場を考えて、親友を助けられないなんて変。あたしが同じ立場でも同じことしてたよ」
小較が手を上げる。
「聞いたことある。全国大会にでるレギュラーのクセに夏休みをずっとヤヤお姉ちゃんと過ごしてて、周りの部員から総スカン食らったんだよね」
「言わなくて良い!」
睨みつける良美を見て正一が言う。
「どうしてそんな事をしたのですか? 全国大会に出るくらいなら、周囲の期待も大きく、部活を最優先するのが当然ですよね?」
良美が頬をかきながら答える。
「あの時は、ヤヤを独りにできなかった。強いけど、何時自爆するか解らない爆弾岩みたいな存在だったからね。あたしが傍に居れば、暴発しないと思ったからだよ」
正一が驚く。
「それでは、暴発に巻き込まれる可能性があったのに、一緒に居たのですか?」
良美が自信たっぷりな態度で答える。
「そんな事は、ない。ヤヤがあたしを巻き込んで死ぬ様な事は、何があってもしないって確信があったね」
正一が何か凄いものを見る目をして良美を見る。
「強い人だ。私も、それくらい強かったら良かったのですが……」
良美が平然と答える。
「これから強くなれば良いじゃん。あたし達は、未来があるんだから」
正一が笑顔になる。
「そうですね」
「それよりこっちのケーキも頼んで良い?」
良美の言葉に正一が頷く。
白風家の広間では、上座に座る較の前に分家頭の長達と、次期分家頭筆頭候補者達が並んでいる。
「お久しぶりでございます」
「今回の件は、較様には、お手数をお掛けし、大変申し訳ございませんでした」
分家頭の一つ、白火の長が頭を下げると、隣に座っていた、白水家の長が言う。
「白火は、何を考えているのかしらね。曲がりなりにも次期分家頭筆頭になろうという人物が、他の組織の儀式の妨害を行うなんて、許されると思っているのかしらね」
白火の長の顔つきが怖くなるのを見て、較がすばやく言う。
「結論が出た事をこの場で言うって事は、あちきの判断に不満があるのですか?」
白水の長が慌てて否定する。
「そんな事は、ありません」
「それでは、本題に戻りますがよろしいですね」
現分家頭筆頭の白水零子の言葉に、白水の長が忌々しそうな顔をする。
較が、白風の分家頭、白水・白火・白土・白木・白金の長と次期分家頭筆頭候補達に告げる。
「先の事件で、白火凱が、次期分家頭筆頭の資格剥奪に伴う、新たな資格者の選考を行います。今回の選考には、現白風の長より、次期白風の長であるあちきが一任されています」
緊張が分家の人間達に広がる。
較は、分家の人間を一通り見てから言う。
「あちきは、過去の実績等で判断するつもりは、ありません。今回改めて実力を見せて貰います」
分家の候補者達の拳が強く握られた。
白水の長が立ち上がる。
「戦闘力だけを判断基準してもよろしいのでしょうか? 較様は、まだお若いからお解かりにならないかもしれませんが、分家頭筆頭としては、それ以外の能力も必要となります」
すぐさま白土の長が言う。
「馬鹿なことを言うな、我等八刃にとって力こそ、優先されるべき事だろう」
白木の長が言う。
「そうだろうか、今は、オーフェンと対決する重要な時期。冷静な判断が出来る者こそ必要であろう」
それに対して、白金の長が反論する。
「決断力と行動力。それこそ新たな分家頭筆頭に必要な能力じゃないのかしら」
一触即発の空気の中、較は、零子が何かを言おうとするのを止めて、敢えて黙っている。
すると、細身で、静かな雰囲気のする二十三歳の青年、白木の候補者、白木静太が言う。
「分家頭の長の皆様。白風の次期長が落胆の表情を浮かべています」
その言葉に、分家頭の長達が較を見ると、確かに較が呆れた顔をして零子の顔をみる。
「悲しいね。あちきってそんな単純だと思われていたみたい」
零子が必死にフォローする。
「すいません、前回の選考が、直接対決形式だった為です」
較が、冷や汗を垂らす分家頭の長達に言う。
「方法については、現白風の長と現分家頭筆頭に了承を受けています。それに対して、分家頭の長の意見は、必要ありません。次、同じまねがあった場合。その一族には、今回の選考から外れて貰います」
重い空気の中、較が五つのファイルを取り出すと床に広げる。
「その中には、あちきの襲撃を試みた組織の名前と首領の写真が入っている。今回の試験は、その首領に組織として、あちきの襲撃を二度とさせないと公式に誓わせること。正し、条件としてあくまで候補者が自分の名と力で行う事。そして、その際に白風は、全くの後始末は、しない。事後処理を含めた対応内容で、次期分家頭筆頭を決める。候補者からの質問だけに答えるよ」
較の質問に、妖しい色気を纏った二十一歳の美女、白水の候補者、白水隠子が言う。
「どんな方法でも良いのですか?」
較が頷く。
「それが有効だったら、人から非難される方法でも全く問題ない。ただし、さっきも言ったけど、白風は、フォローを行わないから、その結果で負う事になる恨み等も計算に入れて行動する事。そこに含まれてる意味は、きっちりと考えてね」
唾を飲む分家頭の長達を尻目に、較に一番年齢の近い、十五歳で、落ち着きが無い白金の候補者、白金京子が言う。
「封筒が五枚あるけど、どれも一緒ですか?」
較が肩をすくめて言う。
「かち合って、足の引っ張り合いになるのは、避けたいので、別の組織。規模とかも違うから、最初にどの封筒を選ぶかも勝負の分かれ目になるよ。昔から言うでしょ、運も実力の内って」
するとイの一番に体の大きい、候補者の中で最年長の二十五歳の白土の候補者、白土剛が中央にあった封筒を取る。
「俺は、これだ」
クレームを言おうとした白水の長を零子が視線で制止し、較が言う。
「他に質問がなければ封筒を持って、行動を開始して良いよ」
すると最初の謝罪から喋ってなかった白火の長が質問する。
「封筒が五枚あると言うことは、白火にもチャンスがあると言うことですか?」
較が頷き、凱を指差す。
「さっきも言ったよ。あちきは、過去の実績を気にしない。今の実力だけが選考基準。ただし、他の分家の人間にも言えることだけど、この場に居ない他の者を立てた場合は、家の体質自体を問題としマイナスポイントと考えて。ついでに言えば、幾ら過去の実績を気にしないといえ、あの事件の対応の悪さは、好印象とは、言えない。それの改善の兆しが無ければ、諦めてね」
白火の長が凱を見る。
「任せて大丈夫だな?」
凱が強く頷く。
「汚名返上のチャンスなんだろ。絶対に取り返してやる!」
そういって、凱は、悩んでいた他の候補者を掻き分けて封筒をとる。
他の候補者達も慌てて封筒を取る。
候補者達、特に隠子は、他の封筒が気になる様子だった。
「制限時間は、存在しないが、遅すぎる場合、選考対象から外れると思って。次期分家頭筆頭の選考開始」
一斉に候補者達が動き出すのであった。
良美の案内で、美味しい焼肉屋に予約を入れた正一の携帯が鳴る。
『正一、すまない急用が入った。おごりの件は、また今度にしてくれ』
正一が厳しい目で言う。
「まさか、罰として何か、とんでもない事をやらされているのか?」
『逆だ。チャンス到来だ。上手く行けばもう一度、次期分家頭筆頭になれる。絶対に汚名返上してやるんだ! そういうことで、すまないが一人で帰ってくれ』
「解った。頑張ってくれ」
正一の言葉を聴き終わると同時に電話が切れる。
「どうしたの?」
何故か一緒に食事する事になっていた良美が質問すると正一が頬をかきながら答える。
「ガイの方で何かあったらしく、食事は、また今度になった」
「えー。それじゃあ焼肉を奢ってもらえないの!」
不満いっぱいの良美を肘で突き小較が言う。
「がめつ過ぎ。メインが居ないのに食事を奢って貰うわけには、行かないでしょ」
正一が首を横に振る。
「別に良いですよ。折角予約したので、奢りますよ」
「いえいえ、そこの払いは、あちきが持ちます。妹もお世話になったみたいですしね」
いきなり現れた較に驚く正一。
「ねえねえ、どうなったの?」
良美の言葉に較が答える。
「それは、食事をしながら答えるよ」
「とりあえず、セットメニューを全部ね」
焼肉屋で、出鱈目な注文をして、店員に引かれる良美を無視して較が言う。
「一応、ガイにもチャンスをあげたけど、よくて大穴。ちなみに一番人気は、最年長でラストチャンスと騒いでる白土剛で、対抗馬は、白木静太って所かな」
正一が最初に注文したジュースを飲みながら言う。
「しかし、今の話を聞くと家の力も影響するなら、現分家頭筆頭の白水家の候補者が有利そうですが?」
較が溜息を吐きながら言う。
「零子さんって白水の中でも改変派で、白水の長は、保守派。候補者の白水穏子も保守派の人間だから連携悪いの。まー、それだけに、白水の中での権力闘争の為にも今回の選考には、白水の長も力を入れてるけどね」
「なにか、政治家みたいな話をしてるな」
良美が早速届いたキムチを食べながら言うと、正一が言う。
「仕方ないことですね。ある程度の人間が集まれば必然的に権力争いの形が出来上がり、似たような形になりますね」
「白金の候補は、どうなの?」
小較の質問に較が運ばれて来た肉を焼きながら答える。
「才能も家の力も高いけど、性格に問題あり。落ち着きがないのが致命的。白金の長は、そこらへんは、家の力で押し切るつもりだろうね」
焼けた肉を次々と奪い合う良美と小較を尻目に正一が言う。
「ガイが選考に勝つ可能性は、かなり低いのは、確かなのですね?」
較は、別個に頼んだ玉子スープを一口飲んでから答える。
「前にあった時に言ったけど、ストレートすぎるよ。正面からぶつかる事だけを考えている内は、無理だよ。実力もあるし、意志力も強いだけに勿体無いね」
正一は、その答えにある決意を固めるのであった。
凱は、羽田空港に居た。
資料を確認しながら、飛行機の時間を待つ凱。
「隣いいですか?」
凱は、その言葉に、資料から顔を上げると正一が居た。
「どうしてお前がここに居るんだ!」
正一が隣に座りながら答える。
「親友のサポートにだ」
凱が立ち上がり言う。
「邪魔だ。これは、俺一人の力でやるんだ!」
正一は、周りを軽く見回して言う。
「だから、お前を隠れて援護しようとしている人達が居るのだな?」
「うるさい。向うに着いたら、撒くから良いんだよ」
顔を真赤にして反論する凱に正一が呆れた顔をする。
「馬鹿、他の所は、家の力も使ってくる。あの子もそれを前提で今回の選考を行っている。逆に使わないとマイナスポイントだ」
怪訝そうな顔をする凱。
「どうしてお前がその事を知っているんだ?」
正一は、あっさりばらす。
「本人から聞いた。妹さんと偶然会って、一緒に食事をした。その時に今回の事を聞いた。大穴扱いされていたぞ」
大声を出す凱。
「お前何を考えてるんだ!」
正一が手荷物を見せて言う。
「お前についていく。馬鹿正直なお前の代わりに、色々考える役をやるよ」
「一般人を巻き込めるか!」
凱の言葉に正一がすまし顔で挑発する。
「ヤヤさんは、大門さんを同行させているそうだが、ガイは、出来ないのか?」
「お前一人くらい居ても大丈夫だ」
予想通り過ぎる反応に苦笑する正一。
「こんな簡単な挑発も乗るなんて、やっぱり俺が居ないと駄目だな」
凱は、ふてくされた態度で言う。
「もう良い。好きにしろ!」
正一が頷く。
「好きにさせてもらうよ」
こうして、凱と正一コンビが生まれたのであった。




