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必滅少女伝  作者: 鈴神楽
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伝説の槍を受け継ぐ者

古流の修行の為に山篭りにやって来たヤヤ達。そこで新たな戦いの幕が開く

 較達は、東京から少し離れた場所にある、白風の所有する山に向かっていた。

「一つ聞いていい?」

 良美の言葉に、良美の分の荷物も背負った較が答える。

「いいけど、コンビニ等の施設は、無いからね。携帯とネットは、繋がるけど、普通の人が入る場所じゃないから」

「どうして、その山に向かっているの?」

 良美の質問に眉を顰める較。

「出る前にも言ったよ、古流の鍛錬の為に叔父さんのところに行くって」

 良美が頷く。

「それは、聞いたけど、どうして白風の技を教わりに、叔父さんの所に行くの? だってヤヤが本家なんでしょ?」

 較が肩を竦めて言う。

「そうだけど、お父さんが撃術って人間向きにした技を主体にしたから、古流の技に関しては、叔父さん達の方が上なんだよ」

「白水って分家も優れた使い手って言ってたきもするよ」

 一緒に鍛錬に来た小較の言葉に較が頷く。

「それには、事情があってね。撃術は、才能に左右されやすい。だから分家には、才能に左右されにくい古流が浸透しているの。でも、古流を極めているのは、叔父さんかその息子さん、あちきの従兄妹にあたるゼロさんだよ」

 小較が驚いた顔をする。

「お父さんより凄いの!」

 較があっさり頷く。

「お父さんは、天才だから、地道な鍛錬しなかったの。自分にあった技を撃術として昇華させて、古流は、一通りしか習得してないからね」

 良美が納得した顔をする。

「そうすると、ここで山篭りするのにその叔父さん達に手伝ってもらうって事?」

 較が視線を逸らして言う。

「……おじさん達ってここに住んでるの」

 良美が雰囲気を察知して前に出て言う。

「どんな裏の事情があるの?」

 較が頬を掻きながら言う。

「あちきが小学校の頃に次期長の権利を叔父さんから奪い取ったから、面子が丸つぶれになって、竜夢区に住めなくなったの」

 小さく溜息を吐く良美に不思議そうな顔をする小較。

「元々ヤヤお姉ちゃんが次期長じゃ無かったんだ?」

 較が困った顔をする。

「八刃は実力が全てだからね、分家だって実力が上だったら次期長になれるの」

 良美が呆れた顔をして言う。

「その頃のお前だったら、相手の面子を完全に無視しただろう? よく訓練に応じてくれたな?」

 較が反省する顔をしながら言う。

「今更ながら、反省しているよ。でも、鍛錬に関しては、八刃は言われたら手伝うって言うのが基本方針。技を秘匿するって考えないの。奥義だって普通に教えるよ」

 その時、無数とも思えるカマイタチが較達に迫る。

 較は、無雑作に手を振る。

『ヘルコンドル』

 自分達に当るカマイタチのみ相殺する。

「最低限の攻撃で、攻撃を回避する。更に腕を上げたね」

 そう言って出てきたのは、線が細い高校生の少年が出てくる。

「ゼロさん、お久しぶりです」

 較が頭を下げてから、良美と小較を紹介する。

「こっちの二人が、親友の大門良美と妹になった小較です」

「始めまして」

 小較が普通に頭を下げるとゼロと呼ばれた少年が言う。

「私の名前は、白風零レイ、ゼロと呼ばれているよ」

 そんな呑気なやり取りを見て良美が言う。

「ヤヤの家の挨拶って、攻撃から始まるの?」

 嫌味のつもりの言葉だったが較があっさり頷く。

「ひさしぶりに合う場合は、よくね。相手の実力を知るのは、大切だから」

 良美が呆れた顔をしていると、零が言う。

「それより、今更、古流を鍛錬し直そうなんて、どんな風の吹き回しだい?」

 較が真剣な顔で答える。

「やたら、人以外との戦闘が増えたんで、古流の習い直しが必要になったからです」

 零が頷く。

「話は、聞いてる。オーフェンという奴等と敵対してるらしいね。何度か下部組織の壊滅の仕事をしたが、確かに古流が必要とされる場合が多いね」

 較と零が鍛錬内容を相談しながら、宿泊施設に向かう。

「待っていたぞ、ヤヤ!」

 その怒声と共に、無数の傷跡を持つ中年が現れる。

 地面が盛り上がり、較に向かってのびる。

 大蛇の様にしなり、襲い掛かるが較は、半歩下がり、地面に手を付ける。

『ナーガ』

 地面が盛り上がるが、襲い掛かってくる大蛇と較べると数も大きさも劣って居た。

「そんな略式の技が本式の技に勝るか!」

「勝る必要は、無いです」

 較が作った地面の蛇は、大蛇の流れを逸らす。

 較が通り過ぎていく土の大蛇の腹に手を当てる。

『タイタンハンド』

 土が崩れて土煙が生まれる。

 その中、中年が印を刻む。

『白い風よ我が前に現れ、全てを吹き払え。白風撃ハクフウゲキ!』

 突風が土煙を晴らす。

『オーディーン』

 較の手刀が中年に迫る。

『白い風よ、我が手を包み、全てを切り裂け、白刃ハクバ

 中年は、白い風を纏った手刀を較に振り下ろす。

 ぶつかって、両者が大きく弾き飛ばされる。

 二人とも地面に軽く接触するだけで体勢を直す。

「あいさつは、このくらいでいいですか?」

 較の言葉に舌打ちをしながら中年が言う。

「腕は、落ちていないみたいだな」

 そう言って、家に入っていく。

「あれ誰?」

 良美の質問に苦笑しながら零が言う。

「私の父親です。白風氷コオリです。身内からは、ヒョウと呼ばれてる」

 小較が首を傾げる。

「何か、他の人たちと違って尖ってます」

 較が頬を掻く。

「お父さんの代から白風の人間ってあんなもん。ゼロさんは、京さんって偉大な使い手に似て、落ち着いているけど、レアだよ」

 零が溜息を吐く。

「白風は、大戦以降、その力をもてあまし、性格的に問題がある人間が多い」

 口を膨らませる小較。

「ヤヤお姉ちゃんは、普通だもん」

 困った顔をする零。

 較が遠い目をして答える。

「あちきも少し前までは、あんなもんだよ。バトルクレイジーってよく言われていたもん。お父さんなんてお母さんと出会うまでは、八刃で一番危険な男って言われてたんだからね」

 零が悲しそうな顔をする。

「でも、エンさんもヤヤもそれを超えて、おちつきがあります。今だって、その気になれば一撃入れる事も出来た筈。それをしなかったのは、父のプライドを護る為だよね?」

「つまり手加減したのか?」

 良美の言葉に較が頭を掻く。

「少しね。ヒョウ叔父さんって弱くなってる」

 辛そうに頷く零。

「古流に拘りすぎ。エンさんは、間違いなく天才。効率という意味ならば撃術は、古流を圧倒的に上回っている。そんな状態で古流を無駄にレベルアップさせようと足掻いた結果だよ」

「そういうゼロさんは、一段と強くなってる。古流最強は、ゼロさんみたいだね」

 較の言葉に対して零が告げる。

「だが、君は、私の何倍も強くなった。もう追いつけないな」

 複雑な顔をする較。

「強さってなんだろうね。あちき、十分に強いって思わない。でも力だけじゃない気もしますけど」

 零も髪を軽く掻いて言う。

「力だけじゃない。でも、力を求めるのも強さの一つだと思う」

 そんな会話をしながら鍛錬が始まる。



「何でいきなり物読みなの?」

 良美が蔵の中で、昔の資料を読む較達に文句を言う。

「古流は、儀式が複雑だから、全てを口頭で教えるのは、難しい」

 零の説明に較が続く。

「自分で使う呪文や儀式動作なんて、体に教え込ませているから、一から教え込むのって難しいの。特に八刃の技で大切なのは、イメージ。理屈を理解しないと駄目だからね」

 納得できない顔で良美がはたきを振って言う。

「よくある魔法少女や魔法使いみたいに呪文一発で良いんじゃないのか?」

 較が資料を読みながら説明する。

「ああいうのは、ようは、裏技で、神様が作った法則にある抜け道を言霊や儀式によって導き出す物。あちき達の場合、その神様とかと戦わないといけないから、その理屈を理解して、意思の力で変更していく必要があるの」

 小較の質問に答えながら零もフォローする。

「常人には、そんな事は、出来ない。それを可能にするためには、神器と呼ばれる様な強力な意志力の増幅がなければ不可能。しかし、白風には、先天的に白牙様の遺伝子という神器を持っている。白風の技は、その力を上手く使うための手段なのだよ」

 上手く理解できないまま良美が暇を持て余して蔵の中を歩いていると、奥に鎮座する一本の槍を見つける。

「これなに?」

 較が資料をみたまま答える。

「ご先祖様から伝わる槍で蒼牙ソウガって言うらしい。物凄い力を持った神器だったらしいけど、今は、何の力も残ってないって」

 零がその槍に触りながら言う。

「この槍には、曰くがあってね。この槍の所有者は、始祖様の祖父らしい。白牙様の体を食らった始祖様でなく、その祖父がなんでそんな神器を持っていたのか、口伝にも残っていない為、力の回復方法も解らないのだ」

 良美が、ペタペタと叩く。

「ただの古い槍にしか見えないけどね」

「罰当りな事を平然としてるねー」

 小較の言葉に苦笑する較と零。

「神とやりあっているから、何ともいえないよ」

 較の言葉に笑いがあがる。

 そして最後に零がその槍に触って言う。

「本当に力があるのなら、その力を授けて欲しいものだ」

 その後も良美が一族の宝を無雑作に触って騒ぎを起こした上、簡易封印された妖魔を復活させてバトルに発展する等の展開があったが、語るまでもない日常茶飯事であった。



 深夜の蔵、何故か零が来ていた。

「危険な感じだ。もしかしたら操られている可能性がある」

 そう呟きながらも零は、足を止めないが、入り口の所に暗号をのこした。

 そして零が導かれるように槍の傍に来ていた。

「お前が私を呼んだのか?」

『力が欲しいか?』

 テレパシーの声に一瞬だけ驚いた顔をする零だったが、直ぐに真面目な顔をして答える。

「力とは、自ら掴み取る物。昼間は、ああいったが、他人から与えられた力では、意味が薄い」

『そうだ。だから私は、汝に危険で過酷な試練を与える事しか出来ない』

 意外な答えに戸惑いながらも零が聞き返す。

「その試練とは、どんな物なんだ?」

『先ほどまで居た、白牙に侵食された者とお前との差は、何だと思う?』

 暫く考えた後、零が答える。

「戦闘センスの差?」

 答えは、直ぐ返って来る。

『違う。修羅場を経験した回数の差だ。自分の限界以上の戦いをし続けた結果の力だ。私は、お前にもその力を得られる試練を与えられる』

 零が唾を飲む。

「交換条件は、何だ?」

『無い。しかし、先に言っておくが、一度始めたら取り消しは、きかない。試練を突破できなければ、永久に試練を受け続けることになるぞ』 今度は、零が即答する。

「試練を受ける。他人と較べれば、力に憧れる下らない決意かもしれないが、私は、強くなりたい。強く輝くあの人たちと力を競い合いたい」

『解った。これから行うのは、私の記憶にある戦いを仮想空間で実体験させる。時間は、短縮されるが、全ての敵を打ち破るまで出る事は、出来ない。最後にもう一度だけ聞くが、良いな?』

「もし、もどれなければ、私の器がそこまでだっただけの事、後悔は、しない」

 零の答えと同時に、その姿が消えた。



「ゼロさんの気配が無い」

 夜明けと共に発覚した事実、父親の氷が冷たく言う。

「ゼロも白風、どんな事態に陥っても自力でどうにかするだろう」

 良美が睨むが気にした様子もみせない氷。

「幾らなんでも、痕跡すら見つからないなんて異常だよ! 探しに行こう」

 小較の言葉に較が頷き、周囲を探索した時、蔵の入り口の暗号に気付いた。

「何かに誘導されて蔵に入ったみたい。下手するとオーフェンに誘拐されたかも」

 慎重に蔵の中に入り、微かに残った気配を辿り蒼牙の前に立つ較。

「空間が歪んでるよね?」

 小較の言葉に頷く較。

「やったのは、その槍だよ。まさか力が残っていたなんて」

『そっちの小娘の中の白牙の気配を食らって力にしただけだ』

 蒼牙からのテレパシーでの答えに一同が驚くが、即座に良美と小較の前に出て較が言う。

「貴方がゼロさんを誘拐したの?」

『そう思ってもらっても構わん』

 蒼牙からの答えに、較が戦闘モードになった時、空間が歪み、零が現れる。

「ゼロさん無事だったんですか?」

 零は、蒼牙に頭を下げる。

「試練ありがとうございました。重ね重ねすいませんが、力を貸して頂けますか? ホワイトファングを打ち破る効果的な方法が他に見つからないのです」

『相手も白牙の力を得ているのだ、かまわないだろう』

 蒼牙の答えに頷き、零が蒼牙を掴み較の方に向く。

「ホワイトファングの威力を知りたい、撃って貰えるか?」

「蒼牙に操られてるの?」

 較が油断無く構えて質問する中、零は、平然と較の横を通り、蔵を出て言う。

「試練の中で知りました。蒼牙様は、白牙様と牙を交えた事もある高位の存在。中途半端な技は、通用しません」

 良美が後押しする。

「ヤヤ、一発で消し飛ばせ!」

 較も外に出て蒼牙を構える零に右手を向ける。

『ホワイトファング!』

 較の右手から放たれた、神すら打ち破る光が蒼牙の刃とぶつかる。

 周囲に白い光が撒き散らされる。

 光が収まった時、そこには、輝く蒼牙を握った零が平然と立っていた。

「凄い力だ。蒼牙様のご加護無しには、受け止められない。改めて申しこみたい、次期長をかけて、この蒼牙を使い、白風較に勝負を挑みたい。受けてもらえるか?」

 較は、後ろで呻いて居る良美に近づきながら答える。

「断れる訳ないよ。でも、良美の回復まで待って」

 零が頷く。

「それでは、一週間後、それまでは、お互い接触を断ちましょう」

 その場を立ち去っていく零。

「ヤヤお姉ちゃん、ゼロさん、雰囲気がまるで違ってた。やっぱり操られているの?」

 小較の言葉に較が首を横に振る。

「違う、本気で操られて居るんだったら、今挑戦してくる。蒼牙の試練で格段パワーアップしただけ。とにかく今は、良美を安静にさせるのが先だよ」

 良美を抱き上げながらも較は、感じた。

 厳しい戦いになる事を。

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