代打で潜入する少女
お久しぶりのオーフェンの暗躍話です
「平和だね」
良美が呑気に背伸びをする。
「意外と、平和だね」
較も周りを見回す。
「何処をどう見れば平和だといえるんだ?」
元殺し屋の連絡員、ツバサが銃撃戦の繰り広げられる空港前の広場を指差す。
較は、平然と答える。
「平和でしょ? 内乱が起こっている、独裁国家ポルポドで、人間同士の争いで済んでるんだから」
実戦配備されている戦車を指差す。
ツバサが溜息を吐く。
「いつも思うんだが、どうしてオーフェンの奴等は、物騒な国で行動するんだ?」
較が銃撃戦の中を平然と歩きながら言う。
「力を貸す代わりに、かなりの資金とコネを手に入れているの。意外と資金面では、裕福だって話だよ」
良美もその後に続き、その顔の直ぐ横を銃弾が通り過ぎていく。
「この国にもオーフェンが関ってるって、説明聞いたけど、本来これってオーフェンハンターの仕事じゃない?」
較が頷く。
「そうだよ。今回は、お父さんが前回の件で謹慎を食らってるから、代打なの。オーフェンとの関連の証拠を見つけて、それをツバサさんに持って帰ってもらえば、本格的に八刃が動く事になってるの」
思いっきり嫌そうな顔をするツバサ。
「辞退したいんだが、駄目か?」
良美が横目で見て言う。
「情けないな、何時もと同じただの荷物運びじゃん」
較が手を横に振り言う。
「普段は、単なる家族の伝言レベルで、不確定情報だから追撃の手も緩いの。今回は、間違いなく漏らしたら不味い情報だから、執念深く追ってくるだろうね。安全な脱出方法を考えておくよ」
「ギャラのアップも頼むぞ。本気で、親馬鹿な手紙の配達に命をかけるのは、嫌なんだからな」
ツバサの言葉に較が苦笑した時、荷物の影に隠れていた子供が手から落ちたボールをとりに路上に出てしまう。
「戻って!」
母親が叫び、駆け寄ろうとするが、ボールを追いかける子供に銃弾が迫る。
「いきなり道に出ると危ないよ」
較は、ボールを子供に渡す。
「ありがとう」
子供は感謝の言葉を言って母親の元に戻る。
しかし、母親は、お礼の言葉をあげられなかった。
目の前の少女、較に無数の弾丸が直撃しているのだから。
「ヤヤ、ホテルに行こう!」
良美の言葉に較が向きを変える。
「今行く」
そして銃弾の中を平然と通り、何発もの銃弾の直撃を受けても平然としている較に、何時しか銃撃が止まっていた。
ホテルで、お茶を飲みながら較が言う。
「この後、情報元と会って、情報の確認を行って、証拠をゲットするよ。取敢えず、ヨシは、ここで休んでる?」
欠伸をしながら良美は悩む。
「人と会うだけなら休んでたいね」
較があっさり頷くとツバサに言う。
「そういうことだから、あちきが帰るまでヨシの事をお願い。一般的な襲撃や強盗レベルなら任せて大丈夫だよね?」
ツバサが頷く。
「これでも、一般的な修羅場だったら慣れてる」
「一般的な修羅場って何だよ」
良美が茶化すとツバサが溜息を吐きながら答える。
「物理法則が通用する、血と絶望が支配する場所だよ。懐かしいよ、一歩踏み外せば死ぬかも知れないって場所だ」
「それでいくと、あたし達の日常は、何に成るの?」
良美の質問にツバサが遠くに視線を向けてしみじみ言う。
「底が見えない谷の上を空中歩行する様なもんだな。間違っても真似できない」
苦笑しながら、較が部屋を出て行く。
較は、独裁に反発するゲリラのアジトに来ていた。
「それでは、相手がオーフェンと呼称する組織から特殊な兵器を手に入れて、南の軍事基地内で研究してるって事ですね?」
較の問に、ゲリラのリーダーが言う。
「そうだが、ハチバは、舐めているのか?」
較は肩を竦めて言う。
「情報は、感謝します。これは、お礼です」
そういって、金塊が入ったバックを置いてその場を出ようとした時、数人の男が囲み、ゲリラのリーダーが言う。
「随分、お金がある組織のようだな。だったら、我等の気高い理想に、力を貸してもらえないか?」
較が深い溜息を吐く。
「個人的に力を貸すことがあっても、八刃は、どこの勢力にも力を貸しません。八刃にあるのは、敵かどうかだけです。貴方達は、敵になりたいのですか?」
ゲリラの兵士達が銃口を較に向けてくる。
「我々は、どんな方法を使ってもこの国を開放しなければいけないのだ」
「敵対者には、容赦は、ありませんよ」
較の目が鋭く光る。
数分後、ポルポドで大きな勢力を誇っていたゲリラ組織、白き開放軍が壊滅するのであった。
「ヤヤも、大変だね」
ベッドの上で、呑気にジュースを飲んでいる良美。
「白風の次期長だからな、色々大変なんだろう」
ツバサは、銃器の手入れをしながら答える。
床に血痕があるが、それは、無謀にも強盗を働こうとした哀れな男達の物である。
ドアがノックされた。
ツバサが素早く、ドアスコープから外を確認するとそこには、一人の少女が居た。
それを確認すると同時に叫ぶ。
「逃げろ!」
良美が反応する前に、窓が破れ、蝙蝠の羽を持った化物が良美に飛び掛る。
ツバサが舌打ちした時、ドアが開き、少女が入ってくる。
「選ばせてあげる。大人しくついて来るか、ここで死体と言う名のメッセージになるかを」
ツバサは、あっさり諦める。
「拳銃は、持っていても構わないだろう」
その少女が頷くとツバサは、拳銃をしまうと良美が怒鳴る。
「根性なし! もう少し抵抗しないの!」
蜘蛛の糸みたいな物でがんじがらめにされた良美が暴れるのを見ながらツバサが肩を竦める。
「残念だが、六頭首の一人、魔磨を相手に、どうこう出来ないさ」
入ってきた少女、魔磨が答える。
「流石に、最強の鬼神の傍に居るだけは、あるわね」
そして、尚も騒ぐ良美の口を塞ぎ、魔磨達は、ホテルを後にする。
去り際にツバサは、壁に傷を付けた。
ツバサが残した傷を見て較が怒鳴る。
「ドジった!」
その壁を粉砕する較。
「……お客様、落ち着いて下さい」
ホテルの従業員に、札束を渡して言う。
「部屋の弁償、荷物は、家の方に送っておいて!」
較は、ホテルを出ると直ぐに、軍事基地に向かった。
南の軍事基地の傍に来た較。
「ヨシの気配が上手くつかめない。何か細工しているな」
その時、護衛を引き連れた高級車が目の前を通る。
「ラッキー、丁度良い情報源だ」
手を振る較。
『ヘルコンドル』
高級車のタイヤをカマイタチが切り裂き、高級車がスリップして止まる。
護衛が動く。
較は、平然と近づく。
「そこの偉い人と少し話をさせてもらいますか?」
「ふざけるな!」
護衛は、一斉にマシンガンを撃つ。
『アテナ』
較は、ゆっくりと護衛の中を進む。
銃弾の直撃を無視する較を見て、護衛の顔が青褪め、後退していく。
そして高級車の後部座席のドアを開ける較。
そこには、一人の青年が居た。
「どの組織の人間かは、知らないが、私を殺しても父は、止まらないぞ」
その顔を確認して手を叩く較。
「ゴッラー将軍の息子のスミソンさんですよね? 別に貴方の命もこの国の行く末も関係ありません。あちきの興味があるのは、軍事施設で特別な兵器の研究をしている場所だけ。知ってたら教えてください。知らなかったら調べて教えてください」
眉を顰めるその青年、スミソンが驚いた顔をする。
「何で、その事を知っている?」
「白き解放軍って人達に教えて貰いました。その様子だと、研究自体は、知ってるようですけど、細かい場所は、どうですか?」
較の答えにスミソンは、較をにらみ付ける。
「白き解放軍を壊滅させたのは、お前の組織か!」
較が少し考えてから言う。
「正確に言うと違うよ。あちきが一人で潰したからね」
「冗談は、止せ! 白き解放軍は、一番可能性が有ったのだぞ!」
立ち上がるスミソンに較が周りを見る。
護衛の人間達の大半が逃げる中、強い意志を持った者だけが残っているのに気付いた。
「もしかして、白き解放軍に問題の情報を流したの貴方?」
スミソンが言う。
「そうだと言ったらどうする?」
較が少し考えてから言う。
「詰り、問題の研究は、ポルポドの独裁者であるゴッラー将軍の直轄で行われている研究で、息子の貴方にも手が出せない上、問題があると言うことだね?」
探り合う二人だったが、較が即座に無駄な事を止めた。
「あちきは、オーフェンと対立している組織の人間。ついでに言うと連れがその組織の奴等に連れて行かれた。奪回して、研究にオーフェンが関っている証拠を手に入れるつもり。そっちの目的は?」
スミソンが辛そうに言う。
「研究の中止だ。あの研究には、多くの国民が人体実験に使われている。止めなければ行けない」
「なるほどね、事前の調査にもあったけど、ゴッラー将軍と違って、国民の事を大切にしてるらしいね。でも、実行に移せないで居る。だったらあちきに協力して。問題の研究は、完璧に消滅させるから」
較の言葉にスミソンが首をふる。
「あの研究には、父が全力をかけているから、中途半端な事では、駄目だ。だからこそ、白き解放軍に情報を流したのだが……」
その時、良美達を襲った蝙蝠の羽を持った化物が現れる。
「まさか、制御方法が完成していない研究体が襲ってくるなんて!」
スミソンが驚愕する中、残った護衛達、スミソンに仕える人間達を襲っていく。
「もしかして、開発中なのは、敵味方判断だったりする?」
較の言葉にスミソンが頷く。
「ですから、まだ実戦には、使われていない。それをどうして?」
較が蝙蝠の羽をもった化物の前に立つ。
「やめてください! それは、拳銃も通じない化物です!」
スミソンが車から出て止めようとするが、較は笑みを浮かべて言う。
「解ってるよ。危ないから下がってて」
蝙蝠の羽を持った化物は、口から蜘蛛の糸を吐き出す。
「完全にキメラ型だな」
呟きながら糸を避ける較。
『オーディーン』
あっさり手刀で蝙蝠の羽を切る較。
同時にキメラは、腕を増やし、較を掴まえる。
「増殖能力もあるか、大分組み込まれてるな」
較は、地面を蹴り空中で回転する。
『トルネイド』
高速の回転が、キメラの体を捻じ曲げ、増えた腕等が吹っ飛んでいく。
地面に着地して、頭をかく較。
「こいつをどうする? あちきとしては、休眠させて、八刃の研究室送りにするのがベストだと思うけど」
「どうしてそんな事を聞くのだ?」
スミソンが困惑しながら質問すると較が答える。
「だって、この人は、人体実験で改造された貴方の国の人だよ」
スミソンが顔を引き攣らせて言う。
「そんな訳が無い。そんな化物が人間な訳がない!」
較は、キメラの口を広げて言う。
「虫歯の治療跡あるのって、人間くらいだと思いますけど?」
スミソンが信じられない物を見た顔になる。
「どうしたら、人間がこんな化物になるのだ?」
較は、平然と答える。
「戦闘生物を作るのに、人間をベースにするなんてよくある話だよ」
スミソンが地面を強く叩く。
「こんな研究みとめられるか! 力を貸してくれ! 絶対にこんな非人道的な研究は、止めさる!」
熱血するスミソンに較は、冷めた顔で言う。
「事情の説明くらいあるのだろうか?」
そして、二人は、救急車の手配を済ませて、問題の基地に潜入するのであった。




