幼いカップルを監視する親馬鹿
今回は、焔の親馬鹿モード爆発です
「今度の日曜日に一緒に映画に行かない?」
オーフェンハンター手伝いの仕事が休暇中のシシが、全米で人気になった動物CG映画のチケットを見せる。
「これ、見たかったんだ」
嬉しそうに受取る小較。
そんな二人を見て、良美が言う。
「あれってデートになるのかね?」
較は、料理をしながら言う。
「小学生低学年に何を求めているの? どうせ、小較は、本気で映画を楽しんでお終いだよ」
ここでは、問題にならなかった。
白風の家の中では。
渋谷のハチ公前に立つ小較。
そしてそれを遠くのビルから見る較と良美。
「どうして、あたし達が、小較のデートの監視をしないと行けないの?」
良美の言葉に、後ろに居る、元殺し屋の白風家専用メッセンジャーボーイ、ツバサを指差す。
「あの人が、お父さんに小較が男子と一緒に映画を見るなんて伝えたからだよ」
ツバサは、苦笑しながら言う。
「家族の手紙の中身まで関知しませんよ。それに、エンさんは、今朝までヨーロッパにある、オーフェンが裏に潜む組織の壊滅に動いているのは、確認されていますよ。直ぐに飛行機に乗っても、まだ空の上ですよ?」
較が、髪を数本引き抜いて、ハチ公像の上に向かって放つ。
『ベルゼブブ』
驚く、ツバサだったが、常人なら即死する、超振動が篭った髪の毛は、空中で消えた。
首を傾げる良美だったが、数秒後、何も無い空間から、較達の父親、焔が現れる。
「小較の監督の邪魔をしないで欲しい」
近づき、較が怒鳴る。
「あのねー、何処の世界に、小学生低学年の娘の映画鑑賞を、完全穏行、『ケットシーマント』を使ってまで、監視する父親が居るの!」
焔が余裕たっぷりに表情で言う。
「甘いな、ヤヤ。発信機と盗聴器を娘につけて、二十四時間、監視する父親も居る。外出の間だけ、密かに監視するなんて、許容範囲内だよ」
「変な例をだして、正当性を主張するな! だいたい、どうして日本に居るの? 公式日程だと、これから三日間は、ヨーロッパに居る筈になってるけど?」
較の冷たい視線を籠めた言葉に焔が熱い思いを込めて答える。
「娘の安全の為なら、多少のルール違反も仕方ない事さ」
較は、携帯を取り出し、電話をかける。
「もしもし、希代子さん、お父さんがここに居るんだけど、良いの?」
即座にスピーカーから耳を遠ざける較。
『良い訳、無いでしょうが! 直ぐにかわりなさい!』
較は、冷や汗を垂らす焔に携帯を渡す。
必死に頭を下げて、懇願する焔を見て、ツバサが小声で尋ねる。
「あのーエンさんって八刃の中でも一二を争う権力者ですよね?」
較が頷く。
「そう、現在の三強の一人に数えられるだけでなく、対外的には、盟主と呼ばれる白風家の長。トップって言っても過言じゃないよ。でもね、お母さんを護れなかった負い目から、希代子さんだけには、頭が上がらないの。よっぽどの事じゃないと希代子さんの言葉には、逆らえない筈だよ」
そして焔が疲れた顔で携帯を較に返す。
『すまないけど、監視しておいて、予定外の行動に対してのペナルティーは、本人の暫くの謹慎と、各国に対する賠償で、話しを付ける。正式な監視役もつくはずよ』
較が済まなそうな顔をして答える。
「仕方ない父親で、すいません」
『貴女も人の事を言えないのを忘れないでね。少しは、こっちの苦労を理解して、大人しくしてね』
較にも釘を刺す希代子であった。
そんな二人を見てツバサが言う。
「裏の世界では、ビックネームのあの二人に叱れる人間なんてあの人くらいだろうな」
苦笑する良美。
「だろうね。でも、あの二人が曲がりなりにも人の世界で生きていけるのも希代子さんのおかげだから、仕方ないね」
そんな間に、シシがやってきて、二人で仲良く、映画館に向かうのであった。
「どうせなら、妹を連れてきたかった」
ツバサのぼやきに較が申し訳なさそうに言う。
「今度の妹さんの休みの日に休暇を取れるようにするから、その時にして下さい」
お菓子とジュースを持ったシシが較達の横を通り過ぎて、小較の横に座る。
「ありがとう」
お菓子とジュースを受取り、嬉しそうにお礼を言う小較。
その様子を見て、前の座席の背もたれを握りつぶす焔。
「食べ物で小較を釣ろうとするとは、そんな姑息な手を使う奴とは、思わなかったぞ」
較が呆れた顔をして言う。
「小較が食べ物で釣られる程、安い娘だと思ってるんですか?」
言葉に詰まる焔。
「それは、違うが……」
較は、大量のお菓子を買ってきた良美の手から、ジュースをとって言う。
「大人しく見てて。下手な事をして、映画が見れなくなったら、一生小較から恨み言を言われますよ」
焔は、無言で頷く。
「可愛かったね」
喫茶店の席に座り、笑顔で映画の感想を言う小較。
「楽しんでもらえて嬉しいよ」
そんな小較を笑顔で見るシシ。
そして、そんなシシを睨み殺そうとしている焔。
「殺気が漏れたら、直ぐに監視は、中止だからね」
較が釘を刺す。
「お姉さん、ビックハンバーグランチお願い」
他人事と、どうして喫茶店にあるか不明なメニューを頼む良美。
「これで終わりだよな、妹へのプレゼント買いに行きたいんだが、付き合ってくれるか?」
こっちももう、付き合う気が無いのか、解散の後の予定を相談するツバサ。
その時、小較達の席の隣にヤクザが座る。
思いっきり嫌な予感を覚えながら較が見ていると、案の定、ヤクザが騒ぎ出す。
「この店には、酒は、ねえのかよ!」
「すいません、当店では、アルコールは、置いてございません」
ウエイトレスの答えに、若いヤクザが睨み返し、その肩を引っ張り隣に座らせる。
「それじゃ、ジュースで良いから、兄貴に酌をしてくれよ」
「すいません、仕事中なので……」
ウエイトレスが必死に逃げようとするが、若いヤクザが放さない。
「お客様の相手をするのが仕事だろ?」
ウエイトレスは、周りに視線で助けを求めるが、殆どの客が視線を逸らす。
そんな中、小較が立ち上がる。
「いい加減にしなさい! 大の大人が恥ずかしくないの!」
頭を抱える較を他所に良美が言う。
「いいところとっていった、あと少し遅ければあたしが行ってたのにな」
較が溜息を吐く。
「どっちにしても、トラブルになってたわけだね」
その間に、若いヤクザが小較の前に立つ。
「嬢ちゃんよ、あんまり舐めた口を聞いてると、痛い目みるぜ!」
立ち上がろうとする焔を押しとめて較が言う。
「小較だったら大丈夫。それに、ここで顔を出したら、ストーカーと思われるよ」
嫌そうな顔をして、ヤクザを睨みながら座る焔。
「痛い目を見るのは、どっちかしら?」
小較が挑戦的に見返すと、双方に緊張が走った。
「はい、すいません。お願いします」
シシが何処かに電話を終えて、携帯を閉じる。
「今、警察に電話を入れました。直ぐに来ますが、やりますか?」
シシが立ち上がり、小較の前に立つ。
「あたしは、大丈夫だよ」
小較の言葉にシシが笑顔で言う。
「僕も男の子だから、女の子の後ろに隠れているなんて情けない真似は、したくないんだよ」
「ふざけた事をしやがって!」
感情的に拳を振り上げる若いヤクザだったが、その手を連れのサングラスをしたヤクザが掴む。
「止めろ。ここで騒ぎを起こしたら、面倒だ。坊主、付き合え、さもないと、後悔する事になるぜ」
そう言って、懐に忍ばせた拳銃を見せる。
シシは、軽く溜息を吐いて言う。
「解りました。外に出ましょう」
そして、シシと小較は、ヤクザと一緒に外に出る。
「好きにやれ、ただし、小娘の方は、怪我させるな。売るには、丁度良い年頃だ」
裏道に入った後にサングラスのヤクザが言うと、若いヤクザが指を鳴らす。
「解りました。任せてください。坊主の方を痛めつければ、大人しくなりますぜ」
シシが頬を掻く。
「そろそろ限界ですよ」
若いヤクザが卑しい笑みを浮かべて言う。
「何のだ?」
シシが肩を竦ませて言う。
「いや、もう手遅れかも。今、僕等を逃がして、付き纏わないと約束すれば、間に合うかもしれませんよ?」
若いヤクザが汚い笑いをあげる。
「口八丁でどうにかなるとでも思ったのか? こんな裏道だ、人が来れば直ぐに解る。お前みたいな坊主を痛めつけるのに、一分も必要ない!」
殴りかかる、若いヤクザ。
シシは、一歩踏み込むと、相手の足を払う。
あっさりバランスを崩して、壁に激突する若いヤクザ。
シシは、痛みで顔を抑えている若いヤクザの弁慶を蹴り上げ、悲鳴を上げさせると、顎に向かって昇竜拳モドキを打ち込み、ノックアウトする。
余裕たっぷりな態度で、シシが言う。
「荒事は、得意でないですが、町のチンピラに負ける程じゃないですよ」
サングラスのヤクザが拳銃を取り出す。
「大人しく! これが火を噴いたら、お終いだぞ!」
シシが頷く。
「確かに。それを撃ったら最後、貴方達は、お終いです。銃痕から、直ぐに足がつきます。まさか、小学生相手に拳銃抜いて、それを貴方達の組が庇ってくれると思ってるんですか?」
言葉を無くすサングラスのヤクザ。
シシは、小較の手を引っ張り言う。
「これは、貴方達の為の助言です。仕返しなんて考えない事です。そうしないと、全てを失いますよ」
そのまま、戻っていくシシと小較。
サングラスのヤクザが、舌打ちをして、若いヤクザを蹴り起こす。
「いつまでのびてるんだ、さっさと起きろ!」
若いヤクザが立ち上がり、怒りに怒鳴る。
「あの坊主、殺してやる!」
サングラスのヤクザが言う。
「人数集めて、素性を探らせろ。そして、あのガキどもを家族諸共、地獄を味合わせてやるんだ!」
「折角のシシの助言を無視するなんて、哀れな奴等だね」
シシ達が行った方とは、逆から較が現れる。
「何のつもりか知らないが、今、機嫌が悪いんだよ!」
若いヤクザが較に殴りかかろうとしたが、較は、避けもしない。
『ヘルコンドル』
若いヤクザの拳が較に当る前に、地面に落ちる。
「娘達に手をあげて、ただで済むとは、思っているのか?」
焔が冷たい視線を向ける。
「俺の手が!」
若いヤクザは、焔が放ったカマイタチで落ちた自分の手に縋りつく。
「お前等、何者だ?」
サングラスのヤクザが唾を飲み込み、呟くと、焔が前に出て言う。
「お前等が手を出そうとした娘の父親だ。私の娘に手を出す輩は、全滅させる事にしている」
較が焔を押さえて言う。
「これが最後のチャンスだよ、もう二度とあちきとさっきの子供達に関らないと約束すれば、見逃してあげる」
サングラスのヤクザは、気勢をはり言う。
「俺達を誰だと思ってる。天下に名高い、鬼頭組だぞ! 何者か知らないが、素人に舐められてたまるか!」
較は、肩を竦めて言う。
「ヤクザの勢力図がまた変わるのか。大変だね」
較は、そのまま後ろを向くと、良美とツバサの所に行く。
「ツバサさん、妹さんへのお土産買うの付き合いますよ。近くに可愛いぬいぐるみを置いてる店を知ってますから」
ツバサが焔を指差して言う。
「監視は、もう良いんですか?」
較が頷く。
「正式な監視もついてるし、もう小較達を追いかけたりしないから、大丈夫だよ」
「帰りにデパ地下で試食していこうぜ」
良美ももう興味が無い顔でヤクザ達に背を向ける。
「あまり高いのは、買えませんよ。まだまだ借金が多いんですから、早く返し終えて、妹と一緒に暮らせる仕事に就くつもりなんですから」
ツバサは、これからの惨劇から目を逸らす為に、話を変える。
そして、焔による惨劇が始まる。
「それでね、赤ちゃんがとっても可愛いかったんだよ」
小較が嬉しそうに映画の話を、珍しく家で食事する焔に話す。
「それは、良かった。そうだ、今度は、お父さんと一緒に映画を見に行かないか?」
「うん」
焔の言葉に、小較が素直に頷く。
ガッツポーズをとる焔に苦笑する較と良美。
そして、テレビからニュースが流れる。
『本日、関東一帯に強い勢力を誇って居た鬼頭組の本部に襲撃がありました。詳細は、判っておりませんが、これにより、鬼頭組は、壊滅したと思われます。続きましては、新作映画の話題です……』




