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必滅少女伝  作者: 鈴神楽
34/52

操気の白虎と鏡鱗の青龍

青龍と白虎との対決。今回は地龍がゲストで出ます

「鳳凰家って何なの?」

 中国に向かう飛行機の中で良美が尋ねると、較が答える。

「中国の式(術式によって生み出された人造の魔獣)作りの名家。大規模な儀式を行う事で、強力な式を作るので有名だよ」

 件が頷く。

「しかし、数年前に大失敗をしました。それが黄龍の式を作り、暴走させた事」

 手をあげる良美。

「はい、黄龍は、金色のドラゴンって事?」

 苦笑する件。

「日本人には、その程度の認識なのですね。この場合の黄龍は、四聖獣の要、中央の守護者、天帝を乗せる者。聖獣の中でも高い格を持つ者の事です。鳳凰家が今まで培った全てを注ぎ込み、生み出した式でした。しかし、強力過ぎる式は、こちらのコントロールを受け付けなくなったのです」

 較がフォローする。

「オカルト業界では、有名な話。一時期は、八刃が出て始末するって話しが持ち上がったくらい、強力な式だったけど、鳳凰家が自力で自分の敷地内に封鎖した。鳳凰家は、その一件から、信用を大きく失った。だから、黄龍討伐は、鳳凰家の威信が掛かっているって言っても過言じゃないよ」

 件が拳を握り締めて言う。

「だからって、黄龍の力を分割して持たせた四聖獣で、黄龍を滅殺すると言うのは、無謀でしかない」

 良美が較を見て言う。

「ヤヤは、どう思うの?」

 較が難しい顔をして言う。

「実物を見てないから断言は、出来ないけど、四聖獣一体に対して一人の巫女が必要ならば、勝つのは、難しいだろうね」

 件は、驚いた顔をする。

「どうして、それが解ったのですか?」

 較が肩を竦めて言う。

「簡単だよ、麟って人が、貴女を態々捕らえに来たのは、四聖獣を呼び出す巫女を増やす為。下手すると、鳳凰家で、四聖獣を呼び出せるのは、麟さんと件さんの二人だけなんじゃないの?」

 件が頷く。

「その通り。黄龍の力を四分割した四聖獣が二体しか呼び出せないのに、勝ち目なんて有るわけない!」

 較が頭を掻きながら言う。

「本来ならば、あちき達が口を出す事は、出来ないけど、一応、鳳凰家の人間、件さんから協力要請があったって事で逃げる事にしますか」

「すいませんが、お願いします」

 頭を下げる件。

 そして件が席を外した時、較が言う。

「ヨシ、先に言っておくけど、単純な内部対立ですまないよ」

 首を傾げる良美。

「どうして?」

「勘。何か、大切な要素が残ってる気がする」

 較の言葉に良美が気楽な顔で言う。

「その時は、頑張れ」

 大きく溜息を吐く較であった。



 中国の空港に着く、相変わらず、やたら長い入国審査を受けてから、較が出てくると言う。

「こっちで助人と合流する予定なんだけど、まだ来てないのかな?」

「八刃の人ですか?」

 件の言葉に、較が首を横に振る。

「流石に、黄龍と遣り合えるレベルの八刃の人間は、引っ張り出せなかった。でも丁度、いいタイミングで、こっちに居た人が居たの」

 その時、入り口の方から、鍛え抜かれた体を持つ拳法家、地龍が現れる。

「遅かったな」

 頭を下げる較。

「お待たせしてしました」

 件が慌てて、較に近づき小声で言う。

「どうして、中国の至宝、拳神、地龍様がここに居るのですか?」

 較に代わって地龍が答える。

「弟の結婚式に出た帰り道だ。八刃の人間が動けないという事で、ヤヤにバイトを頼まれた。弟の事業拡大資金を出す話で、了承した」

 良美が大きく溜息を吐く。

「この頃、較って何でもお金で解決しようとしてる気がするぞ」

 較が遠い目をして言う。

「お金で解決できることは、お金で解決するのが一番なんだよ」

 件が恐る恐る尋ねる。

「因みに、幾らぐらい出されたのですか?」

 較が笑顔で尋ね返す。

「聞いたら後悔すると思うけど、聞く?」

 件は、首を大きく横に振る。



「それで、具体的にどうするつもりなのだ?」

 車の運転をする地龍の問いに、後ろの席に居た較が答える。

「鳳凰家の人と正面からの話し合いをして、あちきと地龍さんを含んだ黄龍滅殺の許可を貰おうと思います。そして、後は、見つけ出して、黄龍を滅ぼして、めでたしめでたしと言う展開が理想です」

「納得するとは、思い辛いです」

 ナビをしていた件が眉を顰める。

「説得に切り替わるけど、出来るだけお金や、交換条件で済ませられるようにするつもり」

 意地悪そうな顔で良美が言う。

「それでも駄目な場合は?」

 較は、答えない。

 嫌な予感を覚えて、件が言う。

「流石に鳳凰家を滅ぼされると困るのですが?」

「安心して、名家を滅ぼすなんてあちきでもリスクが大きい事は、しないから。でも代替わりは、起こるかも」

 較の言葉に脂汗を垂らす件であった。



 鳳凰家の玄関には、件の妹、麟が居た。

『よくも騙してくれたわね!』(広東語)

 較がスルーして隣に居た、中年の男に言う。

『希代子さんから正式に連絡が行っていると思いますが、八刃の一家、白風の次期長、白風較が今回、鳳凰件の要請に答えて、黄龍滅殺の手助けに来ました。あくまで補助という事で、白風が関与したという事実は、記録に残さなくても構わないです』(広東語)

 麟が睨み答える。

『手助けなんて不要よ! 我々だけで、黄龍は、滅殺します』(広東語)

 較は、これも無視する。

『悪い話では、無いと思います。もしも、そちらだけでやって、失敗した場合、致命的な損害が発生すると思いますが?』(広東語)

 中年の男が悩み答える。

『当主に話しをしてきます』(広東語)

『待ちなさい! 勝手な事は、許しません!』(広東語)

 麟が奥に下がっていく男の後を追っていく。



『私は、当主の鳳凰麒だ』(広東語)

 鳳凰家の奥に豪華な部屋の上座に座った老人、麒の言葉に較が頭を下げる。

『対面を許可していただき、感謝致します』(広東語)

 頭を下げる較に麒が答える。

『下手な言葉を使わず、日本語で喋れ。聞き取りくらい出来る』(広東語)

 麟が反発する。

『それでは、あたしが、解りません!』(広東語)

 麒が麟を睨み言う。

『件を連れ戻す事に失敗したお前に、この場の発言権があると思っていたのか!』(広東語)

 悔しそうに黙る麟を尻目に、較が話し始める。

「こちらの提案は、飲んでいただけませんでしょうか?」

 麒が疑惑の視線を向ける。

『八刃に利が無い。件にも、話しを聞いたが、かなりの出費すら発生していると聞く。そちらの言葉にもあるだろう、ただより高い物は、無い。到底信じられない』(広東語)

 較が困った顔をする。

「運命って奴です。あちきは、大きな術の代償として、争いに巻き込まれる呪いが掛かっています。今回の事もその呪い一環と思っています」

 その言葉に麒が較の右手を見て言う。

『お前等が信仰する、八百刃の使徒の力の浸食、押さえていても、世界すら滅ぼしかねない力の波動を感じる。確かにその力に逆らう危険性を考えれば多少の無理は、許容範囲内という事だな』(広東語)

 頷く較に、麒が告げる。

『ならば、汝らの力を見せてみよ、こちらが用意出来る、最強の式を倒す事が出来たなら、今回の話を受けよう』(広東語)

「解りました」

 そして、較達は、麟と件が操る、擬似四聖獣と戦う事になるのであった。



『今回は、前回みたいなはったりは、通じないわ!』(広東語)

 麟がそう言って、複雑な儀式と印を刻む。

『長き盟約に従い、ここに降臨せよ、青龍』(広東語)

 麟の呪文に答え、青き龍、青龍が現れる。

 件が複雑な顔をしているのを見て、較が言う。

「本気で来て、そうしないと、そっちの当主も納得しないから」

 件が頷き、呪文を唱える。

『長き盟約に従い、ここに降臨せよ、白虎』(広東語)

 白い毛皮の巨大な虎、白虎が現れる。

 麒が告げる。

『青龍は、全ての術を返す鱗を持ち、白虎は、力を収束して、攻防に使うことが出来る。この両者を敗れぬ様では、黄龍には、傷つけることすら出来ぬぞ』(広東語)

 較が前に出て言う。

「白虎の方を頼みます」

 地龍が頷き、構え、戦いが始まる。

『フェニックスバード』

 較が、鳥の形をした炎の塊を打ち出す。

『そんな物は、効かない!』(広東語)

 麟が言う通り、青龍は、その鱗で、較の攻撃を撥ね返す。

 返された炎を避けながら較が続いて地面に手を付ける。

「次は、物理的な攻撃だけど、どうかな?」

『ナーガインロック』

 地面がせり上がり、龍の形をとって、青龍に迫るが、それもまた返される。

 麟が高らかに宣言する。

『無駄だよ、例え人外でも、貴女みたいな小娘に、鳳凰家の技術の粋である式には、勝てないのよ!』(広東語)

 較は、そんな言葉を無視して攻撃を続ける。

『フェニックスウイング』

 放たれた炎は、当然の様に返されてしまう。

 その間にも、地龍に白虎の猛攻が始まっていた。

 通常では、ありえないスピードで動き、瞬間的に気を収束した爪の攻撃は、鉄すらあっさり砕き、逆に地龍の攻撃は、気を収束して、防御してしまう。

 しかし、地龍は、慌てず、較の方を向いて言う。

「先に終らせるぞ」

 較が溜息を吐く。

「実力の差ってやつですね」

 会話の内容を雰囲気で察知した麟が怒る。

『そんな事は、無理よ。幾ら拳神でも、白虎をそう簡単に倒す事なんて出来ない!』(広東語)

 地龍は、白虎の必殺とも思える一撃を受け流し、そのまま詰め寄り、その胸を貫き、無効化能力を発動させて、白虎を消滅させる。

「攻撃にも防御にも使えると言うことは、逆に言えば、どちらか一方にしか使えないと言う事を意味する。攻撃の瞬間を狙えば、防御出来ないのは、当然の結果だな」

 較が苦笑する。

「理屈では、解っていても、あちきのレベルじゃ相手の攻撃を受け流して、攻撃に移るまでに時間が掛かりすぎるから、使えない手ですよ」

 舌打ちする麟。

『流石は、拳神。だけど、貴女には、負けない!』(広東語)

 較がその瞬間、大きく跳ぶ。

『イカロス』

 上空に上がった較は両手を下に向けて空気を圧縮する。

『シヴァダイヤモンドダスト』

 空中に氷の塊が生まれる。

『無駄よ! その氷の塊も弾き返してあげる!』(広東語)

 麟が自信満々に告げた時、それが起こった。

 地面に転がっていた岩の欠片が上昇したのだ。

 困惑しながらも麟が言う。

『どんな術か知らないけど、術である限り、効かないわ!』(広東語)

 較が笑顔で告げる。

『術だったら、防がれたでしょうね。術だったら』(広東語)

 青龍の全身が岩の欠片に貫かれ、血まみれになる。

 較が落下しながら、回転する。

 そして較の踵が青龍の鱗が無い傷の場所に決まる。

『トール』

 物凄い雷撃が青龍を貫き、同時に術を撥ね返す鱗が、その威力を内部に撥ね返してしまった。

 内部からの連続ダメージで青龍が滅びる。

 着地した較に麟が言う。

『どういうこと、青龍の鱗は、どんな術も弾き返す筈よ!』(広東語)

 較が平然と答える。

『術だったらでしょ? 地面近くで溜まった高熱と、上空に発生した氷に因る冷気でできあがった、上昇気流に、岩の欠片が、乗っただけ。直接的に術で起こった現象じゃないから、青龍の鱗も弾き返せなかったって事だよ』(広東語)

 言葉を無くす、麟。

 較は、麒の方を見て言う。

「これで、納得して頂けましたでしょうか?」

 麒が頷く。

『了解した。しかし、あくまで主体は、我々、鳳凰家。そこを忘れないで貰いたい』

 較も頷く。

 そして、黄龍の現在位置の探索が開始された。



「場所が解るまでは、待ちって事だね」

 良美の言葉に、頷くが、較が悩んだ表情をしていた。

「何か問題でもあるの?」

 良美の質問に較が難しい顔をする。

「最初の黒服は、鳳凰家の人間じゃ無かった。それじゃあ、誰が何の目的で件さんを追っていたのかな?」

 困惑する良美。

「どういう事?」

 較が思案顔で言う。

「件さんと麟さんが広東語で話してるのを聞いた時からおかしいと思ってたんだけど、最初の黒服は、中国の東部系の人間だったから上海語で声をかけて、上海語で回答が帰って来た。それでも、もしかしたら、日本に近い、上海の人間を使っていた可能性があったから、確認したんだけど、違った。詰り、上海系の組織が関与してる可能性が高いの。でもどうしてこのタイミングなのかが解らない」

 その時、使用人が入ってきて叫ぶ。

『麟お嬢様が、何者かに誘拐されました!』(広東語)

 較が頭を掻きながら言う。

「簡単に終わらせてくれないみたいだね」

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