拳銃でバトル
今回は、最強時代の雰囲気の話でした
バンコクの隣国、バンダイの国際空港。
バンダイは、格闘技と古代遺跡が観光の目玉の国である。
「あちき達までご一緒させてもらってすいません」
頭を下げる較に、良美の母親、大門鶴美が微笑み、答える。
「何時も良美がお世話になってるお礼よ」
その隣で、笑いながら父親の熊男が言う。
「どうせテレビ番組の景品だ、気にするな」
和やかな空気が流れていたが、そこに爆撃機が襲来する。
「エコノミークラスなんて乗るもんじゃないね。ヤヤと移動する時は、何時もファーストクラスだから、体に来るよ」
良美の妹で、十一歳の良華が本を見ながら言う。
「旅慣れしてるんだ、トラベラーズチェックってどうやって使うか教えて」
そう言って、事前に母親から渡された非常用のトラベラーズチェックを見せる。
「しらない。お金は、何時もヤヤが現金で用意してるから」
「お姉ちゃんって、お小遣い、多いの?」
良華の純粋な質問に、良美が、平然と答える。
「全部、ヤヤの奢り。持つべき物は、金持ちの親友だよね」
鶴美の顔から表情が消え、較の顔に激しく冷や汗が流れる。
「大体、家にある家電の大半が良美の我侭で買ったやつだよ。超スローモード対応HDDビデオなんて良美以外使わないんだからね!」
小較のクレームに良美が反論する。
「前のビデオは、壊れたんだから、変える必要があったんだから良いじゃん」
「壊れた?」
眉を顰める小較に良美が頷く。
「最近の電化製品は、壊れやすいね」
「お気に入りの選手が負けたからって、正拳突きを食らわせられれば、新旧関係なく壊れるよ」
小較の突っ込みに、熊男も眉を顰める。
「おいおい」
「ヤヤは、軽く溜息を吐いただけで、リクエストした奴を買ってくれたぞ」
良美の言葉に、鶴美がドス黒いオーラを身に纏うのを見て、慌てて較がフォローする。
「元々買い換える予定だったんですから気にしないで下さい」
そんなフォローを無視して、良美が嬉しそうに言う。
「旅行から帰った頃には、大画面テレビが届く予定になってるから、良華も見に来る?」
その背後に鶴美が立ち、頭を鷲掴みにすると、そのまま人気のない所に向かった。
「お姉ちゃんも馬鹿だよね」
良華の言葉に、小較も深く頷く。
「旅行から帰ったら、暫くヨシの家にご厄介になる事になったから」
ホテルの前でバスから降りながら較が小較に告げる。
小較も余計な事を言わないで頷く。
「ヤヤちゃん達は、日本に着くまでお財布は、開かなくても良いからね。全部、良美のお小遣いから引いておくから」
較達に笑顔で告げる鶴美。
「えー、酷い!」
良美がクレームを言うと、鶴美が振り返り、良美を見る。
良美の後ろに居た観光客が悲鳴を上げる中、良美が大人しく肯定の頷きをする。
部屋に入ると、良華は、ベッドに倒れるとそのまま眠ってしまう。
小較もソファーに座る鶴美に寄りかかり寝息を立て始める。
較が起こそうとするのを鶴美が目で止め、小声で告げる。
「この子達の世話は、あたしに任せて。あなた、例の奴、行ってきたら?」
熊男が頷く。
「丁度いいな。良美、行くぞ」
「おう!」
良美が応じ、そして部屋を出て行く二人の後についていく較。
「ヤヤちゃんは、付き合わなくても良いのよ」
鶴美の言葉に較は、苦笑をしながら答える。
「何時も付き合ってもらっていますから」
熊男達が向かった先、そこは、半ば非合法の賭け試合の会場だった。
「普通の格闘技ならともかく、こんな邪道な奴を見る必要があるんですか?」
会場に入る途中の較の質問に、熊男が真剣な顔をして答える。
「ルール無用の戦いでの強さが真の強さだという気は、無い。でも空手を教える以上、実戦に対しての対応も教えなければいけないと思っている。その研究の一環だ。見てて気持ち良い物じゃないから、白風は、気持ち悪くなったら直ぐ言うんだぞ」
心配そうに告げる熊男の後ろで良美が呟く。
「どちらかと言うと、ヤヤの方が気持ち悪くする方だと思うけど」
熊男が振り返り言う。
「何か言ったか?」
良美は会場に進みながら言う。
「何にも」
会場の中では、ムエタイの選手が、迷彩ズボンを履いた男にストレートを打ち込む。
迷彩ズボンの男は、肘を拳に当てさせて、拳を砕く。
怯んだムエタイ選手の鼻に拳を入れて、鼻血を出させる。
「決まったな」
熊男の言葉に良美が首を傾げる。
「どうして? ムエタイって打たれ強いし、蹴りもあるからまだ勝てる可能性が高いんじゃないの」
較が鼻を指差して言う。
「鼻を潰されたから難しいよ。人は、特に戦闘中は、鼻の呼吸が大切なんだよ。それが封じられるとその能力は、極端に下がるの。それに人は、血を見ると冷静さを失う可能性が高いしね」
較の言葉を証明するように、ムエタイ選手が半狂乱に攻撃するが、迷彩ズボンの男が大きくかわす。
疲れたところに、迷彩ズボンの男が潰れた鼻を更に打ち込み、ムエタイ選手をマットに倒すとそのまま、顔面を踏み潰す。
審判が迷彩ズボンの男の腕を上げる。
歓声とハズレ券が舞い上がる中、熊男が眉を顰めて言う。
「見ていて確信した。俺の教える空手に、実戦戦法は、要らない。こんなのは、男の戦いでは、無い」
その言葉に周りの人間が反応する。
「いちゃもんつけるのか!」
熊男は、大して気にした様子も見せずに吐き捨てる。
「安全圏の中で戦い、弱った所を痛めつける。有効かもしれないが、ただ勝つだけの戦い方だ。勝った先には、何も無い」
較が複雑な顔をするのを見て、良美が言う。
「ヤヤは、ぬいぐるみショップを作るから、戦いに意味を求める必要は、無いよ」
較が安堵した顔をして言う。
「ヨシが隣に居てくれると本当に助かる」
そんなやり取りをやっている間に、熊男が、数人の男達と外に出て行く。
「親父、大丈夫かな?」
少し不安そうな良美に較があっさり答える。
「大丈夫、熊男さんは、言うだけあって、戦いを理解してるから、素人には、負けないよ」
そんな話をしている間に次の対戦が始まった。
一人は、筋肉質の巨体の男、もう一人は、チャイナ服を着た男。
スピードで、かく乱するチャイナ服の男に、巨体の男は、防御を固め、確実に追い詰めていく。
チャイナ服の男は、大きく間合いを取ると、大きく広げた後、両手を合わせて、引く。
そして、両手を前に突き出す。
次の瞬間、巨体の男の防御が崩れる。
その瞬間、チャイナ服が接近して、物凄い踏み込み音と共に巨体が吹き飛ぶ。
大歓声が上がる。
「いまのカメハメ波?」
良美の質問に較が即答する。
「中国拳法だから百歩神拳の一種だね。ただし、あれは、周囲の空気を気で凝縮した物をぶつけただけ。基本的に気で相手にダメージを与えるのは、極端に難しいからね」
良美が驚いた顔をする。
「嘘! よく漫画だと、気で相手を倒すじゃん!」
較は、少し考えてから言う。
「気って簡単に言えば純エネルギーなの。電気を流しただけでは、木すら壊せないのと一緒で、気だけだと、逆に回復することすらある。基本的には、他のエネルギーを増幅するのに使うのが普通」
その時、観客の一人が叫ぶ。
「イカサマだ! 触れても居ないのにダメージ受けたふりをしていたぞ!」
その言葉に負けた男達が、同調する。
チャイナ服の男が困った顔をする。
その中、良美が周りに聞こえるように言う。
「負け犬の遠吠えだね」
負けて苛立っていた男達が一斉に良美を睨む。
「ガキが、うるせえ!」
掴みかかろうとする男に較が、オートマの拳銃を突きつける。
怯む男を尻目に良美が言う。
「そんなもん、どうしたの?」
較が、つまらなそうに言う。
「トラブル対策に希代子さんに持たされたの」
手を叩く良美。
「なるほど、安全対策って奴ね」
そんな中、一人の男が歩みよる。
「拳銃なぞ、無粋だな」
ジーンズにシャツの飾り気が無いが、全身を実戦的な筋肉に覆う、その男を見て、ギャラリーがざわめく。
「チャンピオンだ」
「無敗の王者だ」
「リアルバトラー、ゴチだ!」
その男、ゴチが拳銃を構える較に無雑作に近付く。
「真の戦士には、拳銃は、通用しない」
較は、警告無しに連射する。
ゴチは、最小限の動きでかわすと、周囲に驚きの声があがる。
「これが本物の戦士の力だ!」
ゴチの宣言に歓声が上がるが、較は苦笑しながら言う。
「一流みたいだね」
ゴチは胸を張って答える。
「当然だ。常に最高を目指しているからな」
良美が手を横に振る。
「ヤヤは、褒めてないよ。逆に貶してるんだよ。格闘技で言えば、国内チャンピオンになれるけど、絶対に世界チャンピオンになれないって」
「聞き捨て出来ないな。何を根拠にそんな事を言う」
ゴチの視線が鋭くなる。
較は平然と答える。
「拳銃なんて通用しないなんていう所だよ」
ゴチは、自信たっぷりに答える。
「拳銃の弾など絶対に当らない!」
較は、呆れた顔をして、次の瞬間、周囲の人間の視界から消えた。
ゴチの体が背中から地面に押し付けられ、その両腕に較が立ち、拳銃の引き金を引く。
銃弾がゴチの頬をかすめて地面に突き刺さる。
「嘘ついたら駄目ですよ。こんなに簡単に当るじゃないですか」
必死に体を起こそうとするゴチだが、較に腕に乗られているだけなのに、状態を起こせない。
「ふざけるな、こんな状態なら当然だろうが!」
頷く較。
「だから? どっちにしろ、銃弾が当った事には、違わないよ。小さな針や小石だって、使い手によっては、必殺の武器になる。一流以上の人間なら、武装など気にしない。相手を見て、判断する、解る?」
較は、普通にゴチの上から降りる。
ゴチは、直ぐに立ち上がり、闘志を燃やす。
「まだ、負けた訳じゃない!」
渾身の力を籠めて殴りかかるゴチだったが、較は、最初から相手をする気が無いのか、大きくかわし続ける。
「避けてばかりでなく、攻撃したらどうだ!」
ゴチが挑発すると、較は、パンチを避けると同時に、拳銃を足元に向ける。
銃声と同時にゴチがうずくまる。
「いい加減に実力の差くらい理解出来た」
較は、警戒心一つ見せずに顔を近づける。
ゴチは、足を撃ちぬかれた痛みを堪えて、拳を放ち、較の顔面に直撃させる。
「油断大敵だな」
ゴチはその一撃に絶対の自信を持っていた。
しかし、自分の拳から伝わる、感触に眉を顰める。
「誰が油断してるの?」
較の言葉に、ゴチは、目を疑る。
「……どうして通じない?」
「来るのが解ってれば、防ぐの当然でしょ?」
無傷の較の言葉にゴチは、何も言えなくなる。
その時、一人の男が立ち上がり、拳銃を取り出す。
「お前が馬鹿にした拳銃で死ね!」
銃弾が真っ直ぐゴチに向かい、ゴチも死を覚悟し、目を瞑った。
しかし、銃弾がゴチに当る事は、無かった。
「お前、何をした?」
拳銃を撃った男に較は左手で持った弾丸を弾き、肩を粉砕して言う。
「自分の敵と戦ったからって自分の味方だなんて勘違いするなんて馬鹿な奴」
ゴチが怒りに任せて怒鳴る。
「情けをかけたつもりか!」
較はあっさる頷く。
「弱い物を護るのは、当然の事で、自分がやりたかったからしたの。貴方が不快な思いをしているのは、弱いからで、あちきの所為じゃないよ」
ゴチが歯軋りをするが、反論出来ないでいると、先程のチャイナ服の男が来て言う。
「天上界の人が、俗世に余り口を出さないで下さいますか?」
良美が来て言う。
「その口ぶりからすると、ヤヤの事を知っているの?」
そのチャイナ服の男が頷く。
「兄弟子の地龍から聞いています。勝つことの天才、元バトルのA級闘士、必殺の白手、ヤヤ。その拳銃は、周りの安全の為に持たされてるんでしょ?」
周囲がざわめき、畏怖の目が較に集まる中、ゴチが怒鳴る。
「なんだそれは!」
観客席でも前の方に居た男が恐怖に顔を歪めながら言う。
「こんな試合とは、違う本当の意味でのルール無用の戦い。銃を使おうが、兵器を使おうが、人が集めようが関係なく、ただ、相手を戦闘不能にするだけ。その中でも、A級闘士と呼ばれる連中は、人とは、異なる力を持つ。そして、ヤヤといえば、ノンデッドクラッシャーとも異名を持ち、対戦者を、殺さず二度とまともに生活できない体に破壊する化物と呼ばれる、恐怖の代名詞の一つだ」
信じられない顔をする一同の中から、叫び声があがる。
「嫌だ! 何でだよ! あの化物に会わないためにバトルを止めたのに、こんな所で会うなんて!」
その言葉と同時に逃げ出す人間が何人も出て行く。
「あの連中って、ヤヤと対戦したザコの生き残りだね」
良美が慣れた顔をして言う。
「私も、正直逃げ出したい気分ですよ。貴女が今までどれだけの人間を破壊し、必要ならばどれ程も残酷になれる化物かをきいてますからね」
そんな会話をしている間に、無数とも思える拳銃が較に向けられた。
「興行邪魔しやがって! 賭け試合で、どれだけ強いか知らないが! これだけの拳銃の前では、無力だな!」
「止めろ! このけりは、俺がつける!」
ゴチが叫ぶ中、大きく溜息を吐く良美とチャイナ服の男。
「折角の希代子さんのフォローが無駄になるね」
「分を弁えない愚か者達ですね」
拳銃から数百、数千とも思える弾丸が放たれた。
「大丈夫か!」
外に居た熊男が銃声を聞きつけてとんできた。
「もちろん、それより、今日は、もう試合無いみたいだよ」
良美の言葉に熊男が周りを見回して、較が居ない事に気付いて言う。
「白風は、どうした? もしかして……」
良美は視線を外しながら答える。
「ヤヤだったら、服が汚れたからって着替えに行ったよ」
そこに、服装が変わっている較がやってくる。
「ご心配かけたみたいで、すいません」
頭を下げる較に、熊男が言う。
「無事なら良い。思ったより、物騒みたいだから、帰るぞ」
良美が不機嫌そうに言う。
「途中どっかよってこうよ!」
熊男は、取り合わない。
「白風にもしもの事があったら大変だから駄目だ」
周囲に居た人間の一人が小声で言う。
「危険なのは、回りの人間だよ」
熊男がその男に視線を向けた時、較の鋭い視線が周囲に向けられ、一斉に視線が外される。
「とにかく帰るぞ!」
そして熊男に連れられて、良美と較がホテルに戻っていく。
去っていく較を見て、応急手当を受けていたゴチが言う。
「あんな化物が本当にいるんだな」
治療を手伝っていたチャイナ服の男が肩を竦めて言う。
「それも何人もだ。あのヤヤよりも兄弟子の方が強く、更にヤヤの父親は、その兄弟子すらまるで歯が立たない」
隠される様にして、積み重なる、再起不能の男達の山と穴だらけの服を見る二人であった。




